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第80回

13〜15話

2020.04.21更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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13 この世の争いごとはつまらないものがほとんどである


【現代語訳】
人の一生は、石と石をぶつけて発する火花のように、一瞬のことである。そんな短い一生なのに、どちらが長いか短いかと、わずかなことを争っている。また、この世界は、カタツムリの角の上のように狭い。そんな狭いところで、勝った負けたと騒いでいる。つまらないことで争っているのが、人間世界である。

【読み下し文】
石火光中(せっかこうちゅう)に、長(ちょう)を争(あらそ)い短(たん)を競(きそ)う、幾何(いくばく)の光陰(こういん)ぞ。蝸牛角上(かぎゅうかくじょう)(※)に、雌(し)を較(くら)べ雄(ゆう)を論(ろん)ず、許大(いくばく)(※)の世界(せかい)ぞ。

(※)蝸牛角上……『荘子』の則陽篇の故事に基づく言葉。つまらないほど狭いところでのちっぽけな争いをたとえていう。
(※)許大……いくばく。前の「幾何」と同じ意味で、その「幾何」と対になっている。

【原文】
石火光中、爭長競短、幾何光隱。蝸牛角上、較雌論雄、許大世界。

 

14 独りよがりの頑固な悟りでは意味がない


【現代語訳】
寂しい灯火は消えかかり、破れた服はぬくもりもない。これでは、あまりにも殺風景であり、簡素さをもてあそんでいるようなものだ。また、体は枯れ木のようで、心は死んだ灰のようでは、生きている感じがしない。これでは空の境地を通りすぎて、かたくなな境地に堕落しているようなものだ。

【読み下し文】
寒燈(かんとう)焔(ほのお)無(な)く、敝裘(へいきゅう)(※)温(あたたか)み無(な)きは、総(すべ)て是(こ)れ光景(こうけい)を播弄(はろう)(※)す。身(み)は槁木(こうぼく)の如(ごと)く、心(こころ)は死灰(しかい)に似(に)たるは、頑空(がんくう)(※)に堕落(だらく)するを免(まぬ)がれず。

(※)敝裘……破れた衣服。
(※)播弄……もてあそぶ。
(※)頑空……空に偏ること。なお、静かな境地のなかにいて、その上で活力を失わない生き方が良いことについては、本書の前集22条参照。また、年老いても活力があり、輝いていたいとする『菜根譚』の立場は、本書の前集196条参照。

【原文】
寒燈無焰、敝裘無溫、總是播弄光景。身如槁木、心似死灰、不免墮落頑空。

 

15 やめようかと思ったら、すぐにやめる(思い立ったが吉日)


【現代語訳】
人は何事につけて、そのときすぐにやめるべきと思ったら、すぐにやめるべきである。そうすると、うまくいくものである。それが、もしいずれ、良い時期になどと思っていると、そのままずるずると、そのままになってしまう。ちょうど息子に嫁をもらい、娘を嫁にやったら後はのんびりと楽隠居できると思っていたが、やらなければならない俗事は少しも減らないようなものである。また、出家して僧や道士になれば、道を悟ることができるなどと思って、いざ出家しても、そうはいかないようなものである。昔の人は、「今やめようと思ったら、すぐにやめなさい。良い時期がきたらと見はからっていると、いつまでもやめられないことになる」と言っているが、まさにその通りである。

【読み下し文】
人(ひと)肯(あ)えて当下(とうか)に(※)休(きゅう)せば、便(すなわ)ち当下(とうか)に了(りょう)せん。若(も)し個(こ)の歇(や)む処(ところ)を尋(たず)ねんことを要(よう)せば、則(すなわ)ち婚家(こんか)完(まった)し(※)と雖(いえど)も、事(こと)も亦(ま)た少(すく)なからず、僧道(そうどう)好(よ)し(※)と雖(いえど)も、心(こころ)も亦(ま)た了(りょう)せず。前人(ぜんじん)云(い)う、「如今(じょこん)(※)、休(きゅう)し去(さ)らば便(すなわ)ち休(きゅう)し去(さ)れ、若(も)し了時(りょうじ)を覔(もと)むれば了時(りょうじ)無(な)からん」と。之(これ)を見(み)ること卓(たく)なり。

(※)当下に……そのとき、すぐに。本項を読んで浮かんだのが『論語』の次の文章である。「子(し)曰(いわ)く、仁(じん)、遠(とお)からんや。我(われ)仁(じん)を欲(ほっ)すれば、斯(ここ)に仁(じん)至(いた)る」(述而第七)。まさに思いたったが吉日である。特に良いと思うことはすぐにやろうということである。また、前集36条参照。
(※)婚家完し……息子に嫁をもらう、娘を嫁にやることが片付き、楽隠居の身分になること。
(※)僧道好し……僧や道士になることが良い。後集130条参照。
(※)如今……今。

【原文】
人肯當下休、便當下了。若要尋個歇處、則婚嫁雖完、事亦不少、僧衜雖好、心亦不了。歬人云、如今休去便休去、若覔了時無了時。見之卓矣。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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