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第96回

61〜63話

2020.05.19更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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61 自分も天地自然のなかで一体となって生きている


【現代語訳】
高窓のすだれを上げ、窓の外を見ると、そこには青い山々や緑の谷の水から雲やかすみが出入りしているのを見ることができる。それを見ていると、天地自然が自由自在に動いているのがわかる。竹や樹木の茂みでは、燕(つばめ)がひなを育て、山鳩(やまばと)が鳴いている。こうして四季は正しくめぐっている。それを見ていると、自分も自然のなかに一体化しているのがあまりにも当たり前となっていて、区別することを忘れてしまう。

【読み下し文】
簾櫳高敞(れんろうこうしょう)(※)にして、青山(せいざん)緑水(りょくすい)の雲煙(うんえん)を呑吐(どんと)するのを看(み)て、乾坤(けんこん)(※)の自在(じざい)なるを識(し)る。竹樹扶疎(ちくじゅふそ)(※)として、乳燕鳴鳩(にゅうえんめいきゅう)の時序(じじょ)(※)を送迎(そうげい)するに任(まか)せて、物(ぶつ)我(が)の両(ふた)つながら忘(わす)るるを知(し)る。

(※)簾櫳高敞……すだれのかかった高い窓。
(※)乾坤……本書の前集37条、132条参照。
(※)扶疎……茂み。
(※)時序……四季の正しいめぐり。

【原文】
簾櫳高敞、看靑山綠水吞吐雲𤇆、識乾坤之自在。竹樹扶疎、任乳燕鳴鳩送迎時序、知物我之兩忘。

 

62 成功があれば必ず失敗がある。生があれば必ず死がある


【現代語訳】
成功すれば、いずれ必ず失敗することになる。このことを知っていれば、成功だけを求めてそこにこだわることなく、柔軟な心を持てるだろう。また、生あるものは、必ず死ぬことになる。このことを知っていれば、生にこだわりすぎず、死の心配をしすぎることもなくなるだろう。

【読み下し文】
成(せい)(※)の必(かなら)ず敗(やぶ)るるを知(し)れば、則(すなわ)ち成(せい)を求(もと)むるの心(こころ)は、必(かなら)ずしも太(はなは)だ堅(かた)からず。生(せい)の必(かなら)ず死(し)するを知(し)れば、則(すなわ)ち生(せい)を保(たも)つの道(みち)は、必(かなら)ずしも過労(かろう)せず。

(※)成……成功。できあがった物とか、完成した物とする説もある。本書では(事業などで)成功することと解した。なお、本項全体の雰囲気は『老子』を感じる。『老子』は例えば、「禍(わざわ)いは福(ふく)の倚(よ)る所(ところ)、福(ふく)は禍(わざわ)いの伏(ふ)す所(ところ)」(順化第五十八)、「富貴(ふうき)にして驕(おご)るは、自(みずか)ら其(そ)の咎(とが)を遺(のこ)す」(運夷第九)などと述べている。

【原文】
知成之必敗、則求成之心、不必太堅。知生之必死、則保生之衜、不必過勞。

 

63 自分の心身はまわりに影響されることなく自由自在でありたい


【現代語訳】
昔の名僧が言っている。「竹の影が階段に映り、風が吹いてそこを掃いているように動くものの、塵はまったく動いていない。月の光が池の水を突き破っているように見えるが、水にはそのような痕跡は何もない」。また、我が儒者も言っている。「水の流れが急であっても、まわりはいつも静かである。花がしきりに落ちても、私の心はずっとのどかなままである」。このように人は常に泰然とし、人や環境にも影響されることがないようにしたい。そうすれば自分の心身は自由自在である。

【読み下し文】
古徳(ことく)云(い)う、「竹影(ちくえい)、階(かい)を掃(はら)うも塵(ちり)動(うご)かず、月輪(げつりん)、沼(ぬま)を穿(うが)つも水(みず)に痕(あと)無(な)し」。吾(わ)が儒(じゅ)(※) 云(い)う、「水流(すいりゅう)、急(きゅう)に任(まか)せて境(きょう)常(つね)に静(しず)かなり、花(はな)落(お)つること頻(し)きりなりと雖(いえど)も意(い)自(おの)ずから間(かん)なり」。人(ひと)常(つね)に此(こ)の意(い)を持(じ)して、以(もっ)て事(こと)に応(おう)じ物(もの)に接(せ)すれば、身心(しんしん)何等(なんら)の自在(じざい)ぞ。

(※)吾が儒……北宋の邵堯夫(邵雍)のこと。本項の解釈については、本書の後集58条参照。なお、著者の洪自誠が「吾が儒」と述べていることから、自分自身も儒者であることを任じているように思われる(前述のごとく『菜根譚』は孔子をはじめとする儒教、老子をはじめとする道教、そして仏教の影響をそれぞれに受けている内容ではあるが)。

【原文】
古德云、竹影埽階塵不動、月輪穿沼水無痕。吾儒云、水流任急境常靜、芲落雖頻意自閒。人常持此意、以應事接物、身心何等自在。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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