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10代のための疲れた体がラクになる本 「朝起きられない」「集中できない」「やる気がでない」自分を救う方法 長沼睦雄

第3回

「起立性調節障害」も血圧と脈だけの問題じゃない

2023.07.11更新

読了時間

「授業に集中できない」「すぐにイライラする」「記憶力が低下した」……。これらは、慢性疲労が原因かもしれません。HSP第一人者の長沼睦雄医師が、疲れのメカニズム、疲労からの快復方法などを易しく解説した本が発売。本文から一部を特別公開します!
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 体が急速に成長する10歳から16歳くらいの年ごろに発症することが多い症状として、「朝、具合が悪くて起きられない」問題があります。頭痛やめまいがあったり、起き上がろうとすると立ちくらみやふらつきが起こったりもします。
 起きられないために不登校になり、さらにはそれが長期化してひきこもりになってしまいやすい大きな原因でもあります。
 病院に行くと、「起立性調節障害」や「起立性低血圧症」「起立不耐症」といった診断名を告げられることが多いです。
 起立したときの血圧と脈の変動を測定する検査で、起立時の自律神経の反応が異常値を示すことで、客観的に診断できるからです。そして治療法として、血圧を上げる昇圧剤を投与される方法が広く行われています。
 薬の服用によって立ちくらみやふらつき、めまいなどが起こらなくなったり、朝起きられるようになったりして症状は軽くなるかもしれませんが、多くの場合、それで体調がすっかり回復するとはいえません。
 思春期に起きやすいこの不調では、心血管系の自律神経の調節異常だけが起きているわけではないからです。血圧を上げる薬だけでは、本質的な解決にならないのです。
 西洋医学の薬というのは、基本的に「対症療法」なのです。対症療法とは、病気の原因を突き止め、根本から改善させる治療法ではなく、困っている一部の症状を止めたり、和らげたりするための方法です。根本的に病気を治しているわけではないのです。
 起立性調節障害と診断された人には血圧や脈の異常が起きているだけでなく、じつはもっとさまざまな自律神経症状が潜んでいる可能性があります。そういったことも視野に入れて根本的な改善策をとっていくことが大事です。
 これはどんな病気にも当てはまることですが、病気は結果であって、さまざまな原因が影響しているはずなのです。また、原因だけでなく、意味があって起きているのです。その原因や意味を探らずして、結果だけを問題にするなら、再び同じようなことが起きてくることになりかねません。樹や花の元気がなかったら、土や水や光や温度などの環境に目を向ける必要があるのです。
「朝、起きられない」「めまいがある」状態といっても、それは症状としては「氷山の一角」かもしれません。血圧や脈拍変動という症状だけに目をうばわれていると、過剰なストレス状態による脳の慢性炎症という状態を見逃してしまうおそれもあります。
 ちなみに、私は「起立性調節障害は多くの場合、慢性疲労症候群(ME/CFS)の症状のひとつだ」と考えています。起立性調節障害と診断されてくる人の多くが慢性疲労症候群を呈しているのを、診療の現場でたくさん診ているからです。

▼「機能」の異常は検査では見つかりにくい

 10代の体調不良の場合、病院で検査(血液尿検査、CTやMRI検査、内視鏡検査など)を受けても、「とくに異常はありません」と言われてしまうことがあります。
 ただし、そういった通常の検査で「とくに異常はない」ことは、「病気ではない」ということではありません。「こうした検査では、異常と診断される原因は見つからなかった」ということです。
 病気や不調の原因は、通常の病院での検査ですべてわかるわけではありません。とくに慢性疲労症候群は、検査では見つからないことが多いのです。
 西洋医学には、「器質的疾患」と「機能的疾患」という概念があります。
 器質的疾患とは、細胞や組織が変化したり壊されたりすることで生じる異常で、数値上や形態上の変化ではっきりと確認できるという特徴があります。器質的な疾患は、検査や診察によって、異常が生じていることがはっきりと確認できるのです。
 一方、細胞や組織の異常や変化が数値や画像で確認できないものの、その「機能(働き方)」に異常が生じているのが機能的疾患です。症状はあるけれども、病気であることをはっきり示すものがあらわれていない状態です。
 通常の検査でとくに異常が見つからないと、診断基準を満たすことにならないので特定の病名はつけられないのです。
 病院で検査しても異常が見つからず、原因がなかなかわからない、はっきりした病態や病名がわからないのは、それが機能的な慢性疾患だからです。ありふれていながら複雑で、原因もひとつではなく、特定しにくい多くの要因がかかわっています。

 体調不良で困っているから病院に行ったのに、検査では原因がわからず、はっきりした診断もしてもらえなかったりすると、患者さんとしてはつらいと思います。「明らかに体調がおかしいのに、どうして?」ともやもやした気分になり、不安にもなりますね。病名をはっきり知りたい、治す方法を教えてほしいと、いろいろな病院にかかってみようとする患者さんもいます。
 こういう体調不良は、機能的な慢性疾患なのだという視点をもってみるといいでしょう。
 検査や診察などでは異常が見つからなかったとしても、実際にさまざまな身体症状や自覚症状があるのですから、どこかに異常が生じていることは確かです。それがどんな原因で起きているのかを突き止められなくても、改善していくためには、器質的な疾患になる前に止めるという予防医学的な視点が必要なのです。
 日本の医療制度は西洋医学に基づいており、専門領域や臓器がそれぞれ細かく分かれています。その診療科では、その臓器に関する病気という視点で診察が行われ、体のトータルなシステムやそのバランスの自動調節の異常という視点で診たときに何が起きているのか、という目で見ることができません。
 しかし、体全体の問題としてとらえなくては、不調の原因も、それを根本的に改善するための診断や治療にもたどりつきにくいのです。
 10代に多く見られる機能的疾患としては、「過敏性腸症候群」「起立性調節障害」「片頭痛・筋緊張性頭痛」「機能性ディスペプシア」「機能性月経困難症」「慢性アレルギー」「慢性疲労症候群」「化学物質過敏症」「神経発達症」「持続性知覚性姿勢誘発めまい」などが挙げられます。このほか、はっきりした病名がまだついていないケースも多いと考えられます。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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