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10代のための疲れた体がラクになる本 「朝起きられない」「集中できない」「やる気がでない」自分を救う方法 長沼睦雄

第5回

「疲労感」は体からの大事なサイン

2023.07.25更新

読了時間

「授業に集中できない」「すぐにイライラする」「記憶力が低下した」……。これらは、慢性疲労が原因かもしれません。HSP第一人者の長沼睦雄医師が、疲れのメカニズム、疲労からの快復方法などを易しく解説した本が発売。本文から一部を特別公開します!
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 好きなゲームをしていて没頭してしまい、夜ふかしをしてしまったりすることがありませんか?
 楽しいことは、長時間ずっと集中してやっていても眠くならないし疲れを感じないことがよくあります。これは疲れていないわけではなくて、脳室周囲器官の慢性炎症により、体と脳の情報交換が乱れ、疲れのアラームを感じにくくなってしまうのです。
 ゲームに限りません。「楽しい」「うれしい」「やりがいがある」といったことを感じるのは脳のドーパミンの働きですが、快感が疲労感を上回ってしまうと、体が発する「休め!」のアラームを無視してしまうことがあります。
 じつは、「疲れを感じる」ってとても大事なのです。
 疲れているときには、だるさ、元気が出ない、力がわかない、やる気が出ない、といった意欲の減退があります。なぜそのような感情がわくかというと、脳のストレス中枢である視床下部やストレスホルモンの分泌中枢である副腎の細胞が活動を抑制するような指令、メッセージを出しているからなのです。「いまは休息が必要だよ。休んで!」という警告サインが出ているわけですね。これが「疲労感」です。
 この疲労感や眠気を感じないとか、見過ごしてしまう、無視してしまうと、どうなるでしょうか。
 体は疲れているにもかかわらず疲労感を感じないので、体を休めようとしなくなって疲れがさらに蓄積しやすくなります。そして体ばかりでなく、脳の炎症もさらに激しくなり、ホメオスタシスが崩れ、慢性疲労の状態になっていきやすいのです。
 疲労感を感じない状態は、「隠れ疲労」とか「疲労感なき疲労」などと呼ばれます。慢性疲労に陥りやすい危険な状況です。
 体が訴えてくる「疲れたね」「休もうよ」の声、疲れのアラームを感じにくくしている原因が脳の炎症にあるにしても、意識を体にしっかりと向けて、体の異常を正確に認識することが、隠れ疲労を予防します。

▼肥満もうつも機能的な疾患も、みんな炎症で起きる

 体の急性炎症は、体がホメオスタシスを維持するためのアラームなのだとわかってきたことで、体の異常に対する考え方がいろいろ変わってきています。
 いまでは、「肥満」も「うつ」も脳の慢性炎症によって起きているといわれるようになっています。また、さまざまな精神疾患、自己免疫疾患、生活習慣病も炎症によって起きていると考えられています。
 さらにいえば、機能的な疾患のほとんどが、やはり体や脳の慢性炎症によるものだといえるのです。
 原因がわからないまま慢性的に続く機能的な疾患は、「機能性身体症候群または慢性機能性疾患」と定義されています。
 自己免疫性疾患、アレルギー性疾患、神経発達症、慢性疲労症候群(ME/CFS)、線維筋痛症、化学物質過敏症……これらはいずれも、症状が多様で、しかもどんどん変化し、なかなかはっきりとした診断のつきにくい病態です。診断基準をすべて満たしていないという理由で、明確な病名がつかないことが多いんですね。このような病態は、「慢性機能性疾患」といいかえることもできます。
 慢性機能性疾患は、患者さん自身にとっても〝見えない病気〟ですが、何科の医師でも「診断できない」「治せない」病気と言われてきました。
 なぜ多様な症状が出るのか。なぜ検査でハッキリした異常が出ないのか。
 脳に慢性炎症が起きているからです。
 脳で何が起きているかということについて、知らなければ病気が見えてきませんし、見えなければ無視されてしまいます。治したかったら、まずは自分の病気に関心をもち、その仕組みや原理を知ることです。
 体の状態は、つねに一定の範囲で揺らいでいます。体のさまざまな細胞が、消滅と生成、減弱と増強をくり返しています。「生きている」というのは、たえず揺らぎ、変化していくことなのです。それなのに変化していないように見えるのは、ホメオスタシスのおかげなのです。

▼生活習慣を変え、自然治癒力を取り戻そう

 新型コロナ感染症やワクチン後遺症の治療の研究のおかげで、慢性機能性疾患のような病態にも、有効な治療薬が次々と登場してきています。生薬粉末方剤やMDα(マルチデトックスアルファ)のような自然有機体由来の漢方薬やサプリメントの利用、点滴による治療法などがありますが、いずれも自由診療で、それらを実践している医師、医療機関はいまだに非常に少ないのが現状です。
 だからこそ、病態を知り、病状に向き合い、治す覚悟を決めて、日常生活を変え、体の状態を調整し、自然治癒力がしっかり働くようにする必要があります。
「病気はお医者さんに治してもらうもの」と思っている人が多いかもしれませんが、機能の乱れで生じている疾患の場合は、「自分でよくする」「自分の責任で、自分が治す」という強い気持ちと実践が不可欠です。
 無意識のうちに体に無理や我慢を強いてきたことが、ホメオスタシスに異常を生じさせることにつながり、不調を招いてしまったのです。自動調節機能が働かないのであれば、体を自然な、あるべき状態に意図して調節していけば、炎症を鎮め、症状を軽くしていくことができるのです。
「体にやさしいこと」「体が喜ぶこと」は何かを考えて、元気になった自分を思い描いて、生活習慣や食習慣を変えていくことが必要なのです。
 はじめからきっちりできるはずもありません。できる範囲で少しずつメニューを増やしていけばよいのです。何より大切なのは、自分の意思で、自分に合わせて、自分のために行うということです。
「学校も勉強も休んで、この症状は自分でよくしていく」という覚悟が定まると、「どうすれば自分の状態をもっと改善できるか」ということに自然と意識が向くようになります。人から何と言われようとも、自分のために自発的に習慣を変えていく強い気持ちが何より大切です。そういう意識が、病気を遠ざけることにつながります。
「自分でよくしていく」といっても、自分ひとりでなんとかしなきゃいけない、ということではありません。つらさをわかってくれる人、信頼できて安心できる人の助言や支援を受けて一緒に行っていくと、くじけないで続けられるのです。そのことも忘れないでください。
 つらい症状をかかえた患者さんに「環境や生活習慣を変えていきましょう」と言うと、多くの人が、ちょっと不満そうな顔をして、「先生、そういうのではなくて、効き目のある薬が欲しいんです」と反発します。「薬を飲めば、よくなる」と思い込んでいるのは、現代医療の大いなる勘違いです。
 慢性機能性疾患に限りませんが、薬はあくまで対症療法であり、耐えがたい苦痛を和らげるための「溺れそうなときの浮き輪」なのです。
 体の仕組みや病態をきちんと知っていたら、環境や生活習慣を変えることが本質的な改善につながることがわかるはずなのです。
 みなさんは自分の体とどう向き合いますか。
 東洋医学では、健康と病気の状態のあいだに「未病」という状態があると考えます。未病とは、「まだ発病にはいたらないものの、健康な状態から離れつつある状態」のことです。
 健康とはホメオスタシスが保たれている状態であり、病気とはホメオスタシスが崩れてしまい、元に戻りにくくなっている、または戻らなくなっている状態といえるでしょう。
 本当の病気にしてしまうのか、未病の段階でホメオスタシスを取り戻すのか、それはきみの知識と意識次第なのです。

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著者

長沼 睦雄

十勝むつみのクリニック院長。1956年山梨県甲府市生まれ。北海道大学医学部卒業後、脳外科研修を経て神経内科を専攻し、日本神経学会認定医の資格を取得。北海道大学大学院にて神経生化学の基礎研究を修了後、障害児医療分野に転向。北海道立札幌療育センターにて14年間児童精神科医として勤務。平成20年より北海道立緑ヶ丘病院精神科に転勤し児童と大人の診療を行ったのち、平成28年に十勝むつみのクリニックを帯広にて開院。HSC/HSP、神経発達症、発達性トラウマ、アダルトチルドレン、慢性疲労症候群などの診断治療に専念し「脳と心と体と食と魂」「見えるものと見えないもの」のつながりを考慮した総合医療を目指している。

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