第52回
歸元第五十二
2019.02.19更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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歸元第五十二
52 欲望に従って事を成していけば一生救われない
【現代語訳】
天下の万物には、それを生み出した根源たる始めがあり、それが天下の母である。その母、つまり「道」を把握したなら、その子たる「万物」のこともわかる。その子供をわかり、その母を守っていくならば、死ぬまで危険なことはなくなる。目や耳や鼻や口などの穴をふさいで、欲望の元となる外的情報の入り口を閉じたなら一生、疲れることはなくなる。逆にそれらの穴を開いて欲望を入れて事を成していけば、一生救われないこととなる。
小さなものまで見ることができるのを明といい、柔弱な態度を守っていくことを強という。その光を用いて、明の状態に立ち戻れば、我が身に災いが起こることなどない。これを習常というのである。
【読み下し文】
天下(てんか)に始(はじ)め有(あ)り、以(もっ)て天下(てんか)の母(はは)と為(な)す。既(すで)に其(そ)の母(はは)を得(え)て、以(もっ)て其(そ)の子(こ)を知(し)る。既(すで)に其(そ)の子(こ)を知(し)り、復(ま)た其(そ)の母(はは)を守(まも)らば、身(み)を没(ぼっ)するまで殆(あや)うからず。其(そ)の兌(あな)(※)を塞(ふさ)ぎ、其(そ)の門(もん)(※)を閉(と)ざせば、終身(しゅうしん)勤(つか)れず(※)。其(そ)の兌(あな)を開(ひら)き、其(そ)の事(こと)を済(な)せば、終身(しゅうしん)救(すく)われず。
小(しょう)を見(み)るを明(めい)(※)と曰(い)い、柔(じゅう)を守(まも)るを強(きょう)(※)と曰(い)う。其(そ)の光(ひかり)を用(もち)いて、其(そ)の明(めい)に復帰(ふっき)せば、身(み)の殃(わざわい)を遺(のこ)す無(な)し。是(こ)れを習常(しゅうじょう)(※)と謂(い)う。
- (※)兌……目、耳、口、鼻など感覚器官の穴のこと。
- (※)門……欲望を起こす心の門のこと。
- (※)勤れず……「勤」は労の意味で、疲れる、苦労しないこと。
- (※)明……小さいことでも見つけることができること。心の知恵。
- (※)強……ここでは、柔軟な態度を守っていくことをいう。本当の強さ。
- (※)習常……一定不変の常道に従うこと。「習」を「襲」とする説もある。「常」については歸根第十六参照。
【原文】
歸元第五十二
天下有始、以爲天下母。旣得其母、以知其子。旣知其子、復守其母、沒身不殆。塞其兌、閉其門、終身不勤。開其兌、濟其事、終身不救。
見小曰明、守柔曰強。用其光、復歸其明、無遺身殃、是謂習常。
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