第78回
7〜9話
2020.04.17更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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7 この世にあるすべてのものから宇宙の真理を学ぶ
【現代語訳】
鳥のさえずりや虫の音など、すべては宇宙の真理を心に伝える秘訣である。花びらも緑の草も、すべて天地の真理を表している文章といえる。こうして人生に学んでいく者は、本心を澄みとおらせ、胸をくもらせることなく、見るもの、聞くもの、そして触れるものすべてから、この宇宙の真理を心に会得していかねばならない。
【読み下し文】
鳥語(ちょうご)虫声(ちゅうせい)も、総(すべ)て是(こ)れ伝心(でんしん)の訣(けつ)(※)なり。花英(かえい)草色(そうしょく)も、見道(けんどう)の文(ぶん)(※)に非(あら)ざるは無(な)し。学(まな)ぶ者(もの)は、天機(てんき)(※)清徹(せいてつ)、胸次玲瓏(きょうじれいろう)(※)にして、物(もの)に触(ふ)れて皆(みな)会心(かいしん)(※)の処(ところ)有(あ)らんことを要(よう)す。
(※)伝心の訣……心に伝える秘訣。
(※)見道の文……天地の真理を表している文。
(※)天機……本心のはたらき。
(※)胸次玲瓏……胸次は胸中(心のうち)、玲瓏は透き通っていること。
(※)会心……心に会得する。
【原文】
鳥語蟲聲、總是傳心之訣。芲英草色、無非見衜之文。學者、要天機淸徹、胸次玲瓏、觸物皆有會心處。
8 表面的な形だけにとらわれてはいけない
【現代語訳】
人は、文字を用いた書物を読んで解することはできても、文字を用いない書物を読んで解することはできない。また、絃の張ってある琴を弾くことは知っているが、絃が張っていない琴を弾くことは知らない。このように、文字や絃という具体的なものは信じるが、形のない心や精神的なものは信じないのである。そのようなことでは、琴や書が語ろうとする心や精神というものを会得することはできない。
【読み下し文】
人(ひと)は有字(ゆうじ)の書(しょ)を読(よ)むを解(かい)して、無字(むじ)の書(しょ)(※)を読(よ)むを解(かい)せず。有絃(ゆうげん)の琴(きん)を弾(だん)ずるを知(し)りて、無絃(むげん)の琴(きん)を弾(だん)ずるを知(し)らず。迹(せき)を以(もっ)て用(もち)い(※)、神(しん)(※)を以(もっ)て用(もち)いず。何(なに)を以(もっ)てか琴書(きんしょ)の趣(おもむき)を得(え)ん。
(※)無字の書……文字を用いない書物。宇宙の真理を指していると解される。
(※)迹を以て用い……文字や絃という具体的なものを信じる。形にとらわれること。
(※)神……精神。
【原文】
人解讀有字書、不解讀無字書。知彈有絃琴、不知彈無絃琴。以迹用、不以神用。何以得琴書之趣。
9 物欲をなくすと理想郷はすぐそこにできる
【現代語訳】
心から物欲がなくなり、心の平穏を保てる生活ができるようになると、心のなかは澄んでどこまでも高い秋の空や、雨が止んだ後の晴れ上がった静かな海のように、カラッとしている。あと側に琴や好きな書物があれば、もうそこはまるで仙人が住むところがある理想郷のようなものである。
【読み下し文】
心(こころ)に物欲(ぶつよく)無(な)ければ、即(すなわ)ち是(こ)れ秋空(しゅうくう)霽海(せいかい)(※)なり。座(ざ)に琴書(きんしょ)有(あ)れば、便(すなわ)ち石室(せきしつ)(※)丹丘(たんきゅう)(※)を成(な)す。
(※)霽海……雨の後のきれいに晴れ上がった静かな海。
(※)石室……仙人の住む洞窟。
(※)丹丘……仙人の住み家。仙人の住む郷、世界。
【原文】
心無物欲、卽是秋空霽海。座有琴書、便成石室丹丘。
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