第11回
イライラやゆううつを手放すために
2017.09.05更新
自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。
「目次」はこちら
落ち込み、イライラ、ゆううつ、不安……。
生きていれば日々いろいろなことがあるし、心を持った人間である以上、気分が上下するのは当たり前のことです。多くの人は、自分なりの方法で、そういう自分とうまくつきあいながら生きているのだと思います。
でも、「イヤな気分」がどうしてもなくならず、いつまでも長引くことがあります。そんなときは注意しなければいけません。イヤな気分にずっと振り回されることになるからです。
じつはこのイヤな気分というのは、私たちを蝕む、意外とやっかいな感情です。
そのまま放っておくと、イヤな気分にどんどん振り回されるようになり、心のエネルギーが次第に失われてしまいます。そして、やがて本格的な「うつ状態」へと陥ってしまうのです。
だから、まずはイヤな気分に振り回されないようにすることが、悩みを解消し、あなたらしく生きるための大事な一歩となります。
イヤな気分に振り回されないためにはまず、その正体を知ることが重要です。
なぜなら、正体を知れば、自分のなかに湧き起こるすべての感情と向き合う必要がなくなるからです。自分のなかのネガティブな感情すべてと向き合うのは、とてもエネルギーを消耗する大変な作業です。疲れた状態のときであれば、なおさらそんなことはできません。
しかしイヤな気分だけに絞り、それに振り回されないことだけを考えれば、少しのエネルギーでイヤな気分に振り回されるのを防ぐことができるのです。
ここでもう一度、冒頭を振り返ってみてください。
落ち込み、イライラ、ゆううつ、不安……。
私たちは日々こういった感情を抱き、気分が上下しますが、じつはこのなかでイヤな気分となり、あなたを振り回すのは「イライラ」と「ゆううつ」のふたつしかありません。
なぜなら、イヤな気分とは、つらい気持ちや悲しい気持ちというものではなく、「他者からのリアクションや、物事の捉え方からくる不快な感情」のことだからです。イライラとゆううつは他者のリアクションや物事の捉え方によって発生する感情です。だからイヤな気分となってあなたを振り回してしまうのです。
一方、「落ち込み」「不安」は、内省したときに生じる感情であり、あなたを振り回す感情ではありません。
たとえば、新しく配属される部署の上司が優しいかどうか、引っ越し先の隣人が気さくな人かどうかなどは、不安に思っていいのです。いきなり高圧的な態度をとったり挨拶をしなかったりすれば、関係性は悪くなります。不安だから慎重になるべきなのです。
先が見えないときに生じる不安感情は、あなたを助けはしても振り回すイヤな気分にはなりません。内省力として、あくまで自分自身のなかで時間と共に完結するのです。
しかし、上司から𠮟られてゆううつだ、家族が言うことを聞いてくれなくてイライラする、などは、他者の存在によって生まれた感情であり、これがあなたを振り回し、エネルギーを奪い続ける原因となっているのです。
イヤな気分の正体を知ったら、あとはそれを解消する方法を知りましょう。
その方法とは、ひと言でいうと、「他者思考」ではなく「自分思考」で生きるということ。具体的にいうと、他者からの評価を基準に思考・行動するのではなく、自分がどうしたいかを基準に考えて選択・行動するということです。
私はこれを「自分思考の生き方」と呼んでいます。これがイヤな気分から自分を解放する、一番効果的な方法なのです。
私はこれまで、臨床心理士として、心に問題を抱える3万人以上の方々の人生にかかわってきました。求められれば全国どこへでも出かけ、心の傷やうつに苦しむ人たちの支援、職場のメンタルヘルスの改善に力を尽くしてきました。
そのなかで、いかに多くの人が他者の存在によってイヤな気分を生み出し、エネルギーを消耗し続けているのかを目の当たりにしてきました。何より、私自身が過去にうつ病を患った際、長く長く、自らの苦しみとしてイヤな気分を体験してきました。
でも、うつ病を患って入院し、何度も壁にぶつかりながら社会復帰する過程で、イヤな気分の正体に気づくことができました。そして「自分思考」を身につけたことで、以前よりもずっと、イヤな気分とうまくつきあえるようになったのです。
イライラやゆううつの感情と完全に無縁になるわけではありませんが、それを一刻も早く手放せるようになり、振り回されることがなくなったのです。
今では、苦しみも失敗もすべて、人のお役に立つためのネタであり宝であると感じ、自分の欠点は〝チャームポイント〟だと思えるようになりました。するとその〝チャームポイント〟に魅力を感じてくれたメディアから取材が来るようになり、こうして書籍を通じて多くの人に、大切なメッセージを伝えられるようにもなりました。
すべては、イヤな気分に振り回されず「自分思考」になったおかげです。
本書では、そんな私の実体験に基づいた「イヤな気分の手放し方」や「自分思考で生きるためのポイント」をお伝えします。また、自分の大切な人が苦しんでいるときに対処する方法も、あわせてお伝えしたいと思います。
今まさにイヤな気分と闘っている人も、落ち込んでいる大切な人を支えたいと思っている人も、まずはできることからはじめてみてください。
あなたの心が今より楽になり、幸せを感じる時間が少しでも増えるのであれば、臨床心理士としても、うつを経験した一人の人間としても、これほどうれしいことはありません。
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