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イヤな気分をパっと手放す「自分思考」のすすめ 他人にも感情にも振り回されない方法 元自衛隊の臨床心理士 玉川真理

第2回

ムダなことほど、実は人生の役に立つ

2017.07.04更新

読了時間

自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。
「目次」はこちら

 

ムダなことほど、実は人生の役に立つ

手を使って作業することは、精神にすごくいい影響をもたらします。

そういえば、と思い当たる人もいるでしょう。

メンタルの不調で休職している人が再び出勤しようとするときなども、作業療法はとても効果的です。

何かを書くことでもいいし、手先が器用なら折り紙などもいいです。ボタン付けでも土いじりでもなんでもいいのですが、「何かに集中して役に立たないことをする」というのが、精神面にいいのです。

人間は、役に立たないことをずっと続けていると、その時間がもったいなくなります。それを意味のあることにしたくなります。なぜなら、人間には、「無意味なことを有意味化して自分のプラスにしたい」という発想が必ずあるからです。

ですから、無意味なことをやり続けていると、今までとは違った発想が生まれたり、才能が開花することも十分ありえます。

というわけで、イヤな気分が解消できない人への私のおすすめは、今できる「ムダなこと」を追求してみることです。

私は人に「そんなのムダだ」と言われたことも「やるといいよ」とすすめられたことも、必ず両方やってみることにしています。人にとってはムダでも、私にとってはそうではないかもしれないからです。

そして私の経験では、今までやってきたムダなことが、自分にとって一番役に立っているように思います。

そもそも私は「人と同じように生きる」ということが、できない人間です。

小さい頃は勉強がダメで授業もわからないし、いじめられっ子で、学校にいることが苦しくて、本当に暗い幼少期でした。

その頃好きだったのが、アメの包み紙や紙の切れ端で鶴を折ることでした。そのうち、どこまで小さい鶴を折れるかに挑戦していきました。

最終的に、鉛筆とコンパスの先を使って、米粒ぐらいの小さな鶴を折れるようになりました。それからいろいろな折り紙を折るようになって、紙の魅力に気づき、オリジナルのメッセージカードを作るようになっていきました。

今は人にプレゼントして喜んでもらいたくて、折り紙ふうのカードづくりをしています。発想力の元は、居場所がなくて、いたたまれなくて折った折り紙なのです。

一見ムダなことをしていると、人からは「変な人」とか「何でそんなことをしているの?」とか言われますが、ムダなことをしているときの集中力はすごいのです。

みなさんも経験があると思いますが、封筒に次々と何かを詰めていったりするようなときも、だんだん自分なりの効率を求めるようになりますよね。

一生懸命ムダなことをしている時間は、その人にとって楽しく充実した時間になっています。誰かに言われてやるわけではないので、その時間は「快」なのです。

「意味はないけれど、これをやってみようかな」と思ったら、ぜひやってみてください。だんだん楽しくなってくるだけでなく、思わぬプラスに気づく可能性があります。

行き詰まったときこそ、ムダなことをしてみよう

体のどこかが痛いときにも、ムダなことがちょっと役立ったりします。

たとえば「1+1は2、2+2は4、3+3は6」というふうに、1から順番に数字を足していく。これは答えがはっきり決まっているので、もしその答えにならなかったら、どこで間違ったんだろう?と考えてみたり、そんな意味のないことをやってみるのもいいと思います。

これは、私自身が過敏性腸症候群でお腹が痛いとき、どうやってその痛みをやわらげようかといろいろ試してみて見つけたことです。

ほかにも、ロッキング(体を前後に揺らす)という自閉症の人によく現れる行動をまねてみたり、緊張や不安を和らげたり、意識レベルが下がったときに通常のレベルに戻すための掌握運動(手をグーにしたりパーにしたりする)などもやってみました。

そうやって、思いついたことを闇雲にやってみると、「これはちょっと痛みがやわらぐ」とか「これは案外気持ちがいいけれど痛みにはあまり効果がない」とか、いろいろな発見がありました。結局、お腹の痛みに関しては、究極に痛くなる前に薬を飲むのが一番だという結論になったのですが。

科学の実験などでも、一見何の役にも立たないようなことをやりますが、心理の世界も一緒で、何かに行きづまったときにはどんどんムダなことをやってみるといいのです。

とくに努力のいらないこと、楽なことでかまいません。紙を丸めてゴミ箱に捨ててみる、それだけでもOKです。そんなことでも、延々と1時間ぐらいやってみると、必ず何かが出てきます。

何かがひらめくかもしれません。「こうしてみようかな」と工夫したくなるかもしれません。「こうなるのはなぜだろう?」と疑問がわくかもしれません。疑問に思ったことを調べたくなるかもしれません。

豊かな学びは、枠をはずれた行動から

私は地元の中学で「心の教室相談員」を務めていましたが、そこでも、教室に入れない子や不登校ぎみの子たちと一緒に、一見ムダなことをたくさんやりました。

元々個性的な子たちの集まりなので、毎日がドラマのようなのですが、彼らは突然、「タイムカプセルを埋める」と言い出したりします。

言うのは簡単ですが、それを実現するにはいろいろな知識が必要なので、みんなで調べ始めます。日本にはこんな法律があって、掘っていい所と悪い所があるとか、その土地の権利者は誰で、誰の許可を取るのか、何年後かに掘り出すときには誰の許可を得て掘り出すのか。そして、掘り出すまでに学校が取り壊されたらどうするとか、いろいろな事態を予測しながら計画を立てていきます。

こうして、学校では教えてくれないさまざまな学びの場が生まれています。

学校側にとっては、「タイムカプセルを埋めたい」などと言い出すこと自体が「不適応な子の問題行動」ですが、実際は、そういう一見ムダに思えるようなことのほうが、教科書で学ぶよりもたくさんの勉強ができるのです。

またあるときは、突然、「交換ノートを回します」と言って、私にもノートが回ってきたりします。そこから「やりたいかどうかも聞かずにノートが回ってくることについて」の話し合いになったり、交換ノートをやることで何が生まれてくるかとか、交換ノートは何のためにあるのかとか、どんな小さなことからでも、想像力をバーッと広げることができるのです。

一見ムダなことでも、ずっと続けているとそこから発想力が生まれてきます。それを発展させていくことが「生きる力」として育っていくと、自分の体験からも強く思います。

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著者

玉川 真里

元自衛隊の臨床心理士。NPO法人ハートシーズ理事長。1973年岡山県生まれ。1991年に陸上自衛隊に入隊。女性初の大砲部隊野外通信手として活躍する。2008年、陸上自衛隊において現場初の臨床心理士として、最も自殺率の高い職業といわれる自衛隊の自殺予防対策を任される。より多くの人の心を救済したいとの思いから自衛隊を辞め、資産をすべて投入してNPO法人を設立。年間2000件を超える相談を受けている。著書に『もう、「あの人」のことで悩むのはやめる』(サンマーク出版)、『折れない 凹まない 振り回されない “心のクセ”を変える6つの方法』(大和出版)がある。

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