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イヤな気分をパっと手放す「自分思考」のすすめ 他人にも感情にも振り回されない方法 元自衛隊の臨床心理士 玉川真理

第10回

「自信を持てない人」の長所

2017.08.29更新

読了時間

自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。
「目次」はこちら

 

前回に引き続き、生きづらい人たちが持っているプラスの側面を紹介します。

「頑固な人」の長所

 頑固な人は、人と対立しがちです。そのため、もっと柔軟性を身につけるべきだとお説教されたりもします。内心、「こういう自分をやっぱり変えなければいけないかな」と落ち込んだりすることもあるでしょう。

 でも、頑固であること、人と対立することは本当によくないことでしょうか?

 人とのぶつかり合いから生まれるものもあるのではないでしょうか。

 頑固な人は、自分を曲げない人です。つまり、芯があるのです。

 福島の被災者の方の心理支援でいろいろな人に電話をかけたときも、そういう人に出会いました。

 「雇用保険の手続きで役所に行ったけれど、相手の言い方が悪かったから、断って帰ってきた」という人でした。

 その人は腹立ちがおさまらなくて、「おまえも(役所の人間と)一緒だろ」などと言うので、私も黙っていられなくて、延々とけんか腰でやり合いました。そのうちに、お互いに「似ているな」という話になって、最後は「気をつけて帰れよ」「また、今度、電話で話すのを楽しみにしているからね」と、すっかり仲良くなって終わりました。

 頑固な人というのは、頑固であればあるほど芯はしっかりしていて、敏感ですから人のこともすごくよく見ています。その中で、「こうだ」と思ったことは曲げてはいけないと思っているのです。信念があるのです。

 そういう人に対して、「ああ、そうですね。ごめんなさいね」などと適当にあしらうような態度を取るのは、人として気持ちいいことではないですよね。

 だからそことしっかり向き合って、「私も信念があってやっているんだ」「嫌なことは嫌だ」というところを伝えていくと、すごくいいお友だちになれます。

 クセのある人ほど、すごくいい人だなと感じることが多いです。

 そういう感覚が、夫とはまだ共有できないのが残念です。

 この前も、「私、噛めば噛むほど味の出る女よ」と言ったら、「おれはまだ、あなたの味がよくわからないのでけっこうです」と言われてしまいました。

 「そのうち、わかるようになるから」と、めげない私です。

「みんなと同じが苦手な人」の長所

 服装、言葉遣い、立ち居振る舞い、価値観などなど、みんなと同じであることで安心感を得られる人もいます。でも、逆にみんなと同じは嫌だという人もいますよね。

 今の日本は前者のタイプが圧倒的に多いので、「みんなと同じ」が苦手な人は、孤立したり、なかなか生きづらい状況に置かれることが多いでしょう。

 でも、でもやっぱりみんなと同じは嫌だ。というわけで、あなたは日々ストレスを感じているかもしれません。

 生きづらい人というのは、そもそも個性的な人なのです。

 みんなと同じことをするのが苦手なら、自分の個というものを大事にして磨いていけば、さらに個性的な人になっていくことができます。

 そもそも、みんな一緒ではないから、こうして人間社会が発達してきたわけです。いろいろな個性を持った人たちがいることで、いいものが生まれてきたのです。

 インフルエンザになっても、「インフルエンザ、嫌だな」と思う人と、私みたいに「インフルエンザになった。学べるチャンスだ!」と思う人がいるように、同じ出来事があっても、人によっていろいろな感情や考えを持つわけです。

 誰でもその中で「自分はこうだ」というものを選択していくわけですが、「みんなと一緒は嫌だ」という感性もそのひとつです。

 「みんなはこうみたいだけど、僕は、私はこういうふうに考えている」という人が、実はけっこういるのです。

 そして、そういう人ほど、みんなが隠している部分を代弁してくれる何かを持っていたりします。

 これは、ある学生たちの実例です。

 その学生たちがめざす仕事は、事故や災害に遭った人を助けるという使命も持っているのですが、その彼らが野外での訓練中に事故を起こし、学生の一人が大けがをしてしまったのです。

 関係者はみんな取り調べを受け、けがをした学生の意識もなんとか戻り、事態は一応収まりました。しかし、このことでみんなが心に傷を負ったため、回復のための支援を私がすることになり、関係者全員でグループワークや個別面接を行いました。

 最初のうちは、みんなの中に「あのことはもう忘れたい」という雰囲気がありました。でも、事故のとき直接の加害者になってしまった学生だけは違ったのです。

 その学生は「事故を忘れてはいけない。このことから何かを学ばなければいけない」と主張したのです。取り調べを受けるにあたっても、「口裏を合わせるようなことはしたくない。私はここから学びたいし、ウソをつくのも嫌なので、私の視野で見えたこと、私が体験したことを言ってジャッジしてもらう」という態度を取りました。

 忘れたいと思っている人たちは、そういうポジティブなことを言い出す人を歓迎しないものです。「あの出来事について、また考えなければいけないのか」と嫌な気持ちになるからです。

 でも、心のどこかでは忘れてはいけないとも思っています。何かを学ばなければいけないという意識もあります。それを忘れようとすればするほど、逆にみんなの中に傷やマイナス、汚点として残っていくのです。

 その人はみんなに迎合せず、「自分はここからもう一回学びたい」と言って留年を選びました。被害者の意識が戻らない間はうつ状態になって「死にたい」とまで言っていましたが、それを乗り越えて、今は「自分の体験をどう広めて、みんなに役立ててもらうか」を考えながら、前向きに生きています。

 そのことで、まわりの人たちも学ぶことができたのです。

 みんなの空気にあえて逆らう人が言うことは、ほかの人も思っているけど言えないことだったり、ほかの人に新たな視点を与えることになったりします。人と違うことをするからこそ、新しいものが生み出されるわけです。

 人と違う意見をはっきり言える人は、そんなふうに、みんなのためにすごく役に立てる可能性があります。

 また、状況によって「みんなと一緒ではなく、一人でやる」という選択をするのも、それはそれで新しいものを生み出す可能性があります。

 みんなと同じが嫌な人はそんな自分を大切にして、みんなと違うことを大いにやってほしいと思います。

「挫折を経験した人」の長所

 結論を先に言ってしまうと、挫折を経験している人は、それだからこそ、いいものを得られているのです。

 挫折した人は、最初は「自分が回復したい」とか「ここから逃げたい」というだけの気持ちで私のところへやってきます。

 それが私とかかわることで、だんだん変化してきます。

 私がその人たちに何かを与えているわけではありません。

 私が話すのは、「私はいっぱい挫折を経験して、死にたいと思ったこともあって、今でもこういうことが不得意で、こんな小さな人間です」ということ、「私はこう思う」という自分の考え、それと「私はこうやって乗り越えたけど、あなたはどう?」ということだけです。

 クライアントさんは、そういうやり取りの中で、だんだん自分マニュアルを作っていきます。

 「自分の場合、こういうときはこう感じる」とか、「こういうことをするといい感じになる」とか、情報がたくさんたまっていくわけです。

 そうしているうちに、今度は「乗り越えた体験を誰に、何のために使うか」といったことを考えていくようになります。

 だから結局は、私のところに来た人はみんな、助ける側になっていきます。

 挫折を経験しているからこそわかる痛みや、お金を出しても買えないような体験。そこにあらたに自分の使命や、生きている意味、生かされている意味みたいなものに、みなさん気づいていくのです。

 だから、彼らの活動にかける思いやエネルギーはとても強いです。

 あなたもまだこれから挫折を経験するかもしれないし、つらい思いも失敗もするかもしれませんが、それが全部プラスに変わるとしたら、こんなラッキーなことはないですよね。自分次第でプラスに変わって、それを仕事にできたり、誰かのためになることができるのですから。

「自信を持てない人」の長所

 自信を持てない人の長所は、日本人らしい良さがあるということでしょう。謙虚で、内省力があるということです。

 何かあったとき、自分の中に原因を求めるとブルーになりやすいのはたしかですが、それは環境のせいや他人のせいにしないということなので、非常に自分思考が高い人だと思います。

 ですから、内省力が高い人は成長できる可能性が高いです。ぜひ、自分磨きをしてください。そのプロセスでいろいろな本を読んだり、いろいろな人の話を聞いたりして、その中で自分のできることを見つけてください。

 逆に自信満々で、できないことは人のせいにするようなタイプのほうが問題です。「自分はできているけど、あの人が悪いからうまくいかないんだ」と思っている人は、ちっとも成長しません。

 同じ自信満々でも、フィギュアスケートの羽生選手みたいに、自分力が高くて、理想が高い人ならいいのです。

 人のせいにしないで、自分のできることに集中する人が成長していけるのです。

 ここまで読んで、その人の弱味とされる部分にも、実は必ず役に立つ面、良い面があって、強味に変えられることがわかっていただけたでしょう。

 「これは自分のことかな」と思えた人は、この内容を胸に刻んでください。

 当てはまるものがない人も、私のやり方を真似して、弱味の中のプラスの側面を見つけてください。人にたずねてもいいかもしれません。必ず見つかります。

 それができたら、「では、どうすれば、社会の中でそれを長所として活かせるか」を考えて、簡単にできることからやってみてください。

 新しい自分に気づいたときから、もう変化は始まっています。できることを積み重ねていくうちに、あなたの魅力がどんどん輝いていくはずです。

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著者

玉川 真里

元自衛隊の臨床心理士。NPO法人ハートシーズ理事長。1973年岡山県生まれ。1991年に陸上自衛隊に入隊。女性初の大砲部隊野外通信手として活躍する。2008年、陸上自衛隊において現場初の臨床心理士として、最も自殺率の高い職業といわれる自衛隊の自殺予防対策を任される。より多くの人の心を救済したいとの思いから自衛隊を辞め、資産をすべて投入してNPO法人を設立。年間2000件を超える相談を受けている。著書に『もう、「あの人」のことで悩むのはやめる』(サンマーク出版)、『折れない 凹まない 振り回されない “心のクセ”を変える6つの方法』(大和出版)がある。

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