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イヤな気分をパっと手放す「自分思考」のすすめ 他人にも感情にも振り回されない方法 元自衛隊の臨床心理士 玉川真理

第3回

引きこもりはけっして悪い選択ではない

2017.07.11更新

読了時間

自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。
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引きこもりはけっして悪い選択ではない

私には、引きこもりの知り合いもたくさんいます。

「引きこもることはいけない」とみんな言いますよね。

でも私は、引きこもってもいいと思うのです。自分のエネルギーが枯れてしまったと感じたときにそれで生きていけるなら、意味のある選択です。

ただ、正しい引きこもり方を覚える必要はあると思います。

先日も、私のところに来た人が「引きこもり歴〇〇年」と言うので、「引きこもるならプロフェッショナルな引きこもりにならないとダメだよ」という話をしました。

プロの引きこもりなら、光熱費も使うしネットで買い物もして、経済を回していける。自分しだいで在宅の仕事もできたりする。孤独死するような引きこもりになってはいけないと言ったのです。

それと、寝る時間や歯磨きなどの生活習慣も大切です。

引きこもりからなんとか脱出したいというので、「生きていられるなら脱出はしなくてもいいと思う」と私の考えを話した上で、質問してみました。

「ただ、24時間以上寝床にいると気分が悪くならない?」 

「なるなる。気が重くなって起きたときに頭が痛い」

「そうなのよ」

ということで、毎日、少なくともお昼前には布団を上げて、1回体を動かすこと。次に布団に入るまでは布団を敷かないようにすすめました。

まずは正しい引きこもりをして、最終的に体の調子が悪いということになれば福祉の援助を頼ることになりますが、それでも生きていられるということは人生が進んでいるということなので、それを目指してもいいのではないかと思います。

そこから自立の方向へ歩きたくなったら、そのときに一緒に考えればいいと思います。

引きこもっても、健康を守るために必要なことはちゃんとやる

ちなみに、ここで言う「正しい」は、自分にとってマイナスにならないという意味です。「他人にイヤな思いをさせないために歯を磨いて清潔にしよう」ではなく、「自分の健康のためにやるべきことをやろう。歯が痛くなったり、頭痛がしたりするのはイヤだよね」ということなのです。

日中は少し起きて歩く、そして寝る。これだけで頭の痛みは全然違います。

それが言えるのは、私自身がうつでずっと寝込んでいるときがあったからです。

心の中では「これではダメだ」と思いながらも、ゴロゴロして、服もどうでもいいしお風呂も面倒だから入らない、虫歯になっても歯医者に行くのも億劫。寝すぎると頭が痛くなって、今度こそ早く寝て早く起きようと思うのですが、ずっと寝ているから普通の時間に眠れない。そんなことを繰り返していた時期がありました。

自分だけかと思ったら、ほかの引きこもりの人や、うつ真っ只中の人と話をすると、やはり同じような感じでした。

そこから、こんなアドバイスをするようになりました。

  • ・無理に早く寝ようとしなくていいが、時間がずれていることは認識する
  • ・寝すぎて調子が悪いなら、まず布団を上げることから始める
  • ・24時間以内に1回は歯磨きをする

経験者だけに、非常に具体的なアドバイスができるわけです。

私にとって引きこもりの人は自分の仲間という感覚です。空気が読めない人の気持ちも、自分がそうなのでよくわかります。

余談ですが、最近こんな失敗がありました。

空気が読めない人との関係で悩んでいる、人の気持ちに敏感なタイプの人の相談を受けたのですが、カウンセリングの最中に、「先生は自分の気持ちをわかってくれないので、これ以上話せません」とクレームを受けたのです。

そこではっと気づきました。私は、「相手は空気が読めない人なのだから、もっとこうしてあげればいいのに」と思いながら話を聞いていて、相談してきた人自身のつらさを思いやることを忘れていたのです。

「ごめんなさい!あなたの立場に立っていなかった」と平謝りして、あらためてじっくりと話を聞き直しました。相談が始まってから解決策が見えてくるまで3時間、へとへとになりましたが、大切なことに気づかされた経験でした。

日常の中の小さな快感を増幅させていく

歯磨きが必要なことは、誰でもわかっています。

でも、人に「歯磨きしなさい」と言われたら、面倒くさくいなぁと思いますよね。

イヤな気分のときは、なおさらです。

「させられること」は面倒くさく感じます。でも、もしやりたくてもできない状況にいたらどうでしょうか?

歯磨きの大切さは、インフルエンザにかかったときにも実感しました。

具合が悪くて起き上がるのも難しい日が続いて、ようやく起きて歯磨きができたときの気持ちよかったこと。「歯磨きってこんなに素敵なものか」と思いました。

本当は体が弱らなくても、私たちの日常の中に、そういう気持ちよさを感じる場面はいっぱい用意されています。

たとえば、トイレに行くのを我慢していて、やっと行けてスッキリした!とか、このタイミングでコーヒーを飲んだら一口目がすごくおいしい!とか。

まず心の中で「気持ちいい」とか「おいしい」とか言葉にして、それを口に出すことによって、小さな快刺激が増幅されていって「幸せ~」となるわけです。

トイレやお風呂に入ったときに実験してください。「気持ちいいなあ」と絶対に思います。そのときは、なんとなく入るのではなく、まずしっかりと感情の選択をして、「気持ちいい」を選ぶのです。そして、心の中で「気持ちいい」と言葉にします。口に出して「気持ちいいーーーー!」と言うと、より気持ちよくなります。ぜひ、やってみてください。

私自身、けっこうやっています。お風呂のときでも何でも「いいよね、いいよね、いいよね~」と、全身で気持ちよさを表現したりすると、そのうち娘に「お母さん、恥ずかしいからもういいよ」と言われたりします。でも、「いいじゃない、こうやったほうが何倍も人生楽しいでしょ?」というと、「まあね」と言ってくれます。

幸せを感じるコツは、いったん制限をかけること

そうやって幸せを感じたら、今度はそれを人に話してみましょう。「こんなラッキーなことがあったよ、こんな小さなことだけど、やってみたらすごくよかったよ。ちょっとやってみたらいいよ」と。

私はこれを「幸せのお裾分け」と呼んでいます。

幸せをお裾分けすると、今度はにんべんのついた「倖せ」という字になるのです。

普通の幸せは、自分が感じる幸せです。人にお裾分けをして相手も「あっ、本当だ」と快刺激を受けたら、それが「倖せ」になって、お互いが幸せになります。

倖せがどんどん広がっていけば、みんな心地よくなっていくのです。

こういう幸せの連鎖を生み出すことは簡単なのですが、もったいないことにみんなスルーしているようです。

昔の人は苦しいことが多かったので、その中に出合う小さな幸せを感じ取ることができました。それが文学になっていったり、暮らしをよくするための科学の発展につながったりしましたよね。

でも最近の人たちは世の中が平和で便利なので、身の回りに小さい幸せがあるのを忘れていることが多いのではないでしょうか。

試しに、2日間歯磨きを我慢してみてください。

そうすると、面倒くさかった歯磨きが、たまらなくやりたくなります。

「やってはいけません」と言われたときの「やりたい衝動」というのはたまらないものがあります。あと1時間、あと5分、「よっしゃ!」となったときの快感。それを味わってみるのは、自分の経験からもすごくいいことです。

ですから、ブルーな状態が続いて幸せが感じられないときの対処法としては、「何かムダなことをひたすらやってみる」というのがひとつ。

もうひとつ、わざと「何かができない」という仮想空間を作ってみるのもいいと思います。顔を洗えない。好きな飲み物が飲めない。音楽が聴けない。

その制限を解いたときには、間違いなく幸せを感じることができます。

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著者

玉川 真里

元自衛隊の臨床心理士。NPO法人ハートシーズ理事長。1973年岡山県生まれ。1991年に陸上自衛隊に入隊。女性初の大砲部隊野外通信手として活躍する。2008年、陸上自衛隊において現場初の臨床心理士として、最も自殺率の高い職業といわれる自衛隊の自殺予防対策を任される。より多くの人の心を救済したいとの思いから自衛隊を辞め、資産をすべて投入してNPO法人を設立。年間2000件を超える相談を受けている。著書に『もう、「あの人」のことで悩むのはやめる』(サンマーク出版)、『折れない 凹まない 振り回されない “心のクセ”を変える6つの方法』(大和出版)がある。

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