第6回
「ユマニチュード」とはどんな意味ですか?
2022.12.06更新
フランスで生まれたケア技法「ユマニチュード」。ケアする人とケアされる人の絆に着目したこのケアは日本の病院や介護施設でも広まりつつありますが、現在では大学の医学部や看護学部などでもカリキュラムとして取り入れられてきています。本書は、実際に大学で行われたイヴ・ジネスト氏による講義をもとに制作。学生たちとジネスト氏との濃密な対話の中に、哲学と実践をつなぐ道、ユマニチュード習得への道が示されます。
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人間らしさを取り戻す
ユマニチュードとは、フランス語で「人間らしくあること」を意味します。
哲学的には、「ユマニチュード」という言葉は、フランス領マルティニーク島出身の詩人であり政治家のエメ・セゼールが1964年に提唱した「ネグリチュード」という概念に由来します。セゼールは「ネグル」という黒人奴隷を意味する言葉から「ネグリチュード」という言葉を生み出しました。
本来、「ネグル」は屈辱的な言葉ですが、そこから生まれた「ネグリチュード」は、植民地に暮らす黒人たちが自らの‟黒人らしさ”を取り戻そうという誇りに満ちた活動となりました。
その後1980年に、スイスの作家フレディ・クロプフェンシュタインが思索に関するエッセイのなかで、‟人間らしくある”状況をネグリチュードをふまえて「ユマニチュード」と命名しました。
身体的な機能が低下し、他者に依存しなければならない境遇になったとしても、人は最期の日まで尊厳をもって暮らし、生涯をとおして‟人間らしい”存在でありつづけることができるはずです。もし、社会から切り離され、誰からも愛を受けとれず、他者との絆を失っている状況があるなら、その人は「ユマニチュードの絆が断たれた状態である」と私は考えます。
人間らしく扱われなくなった人を、もう一度‟人間らしい”世界へと招き入れるために、ケアする者はケアを受ける人に対して何をすべきでしょうか?
―人間として、優しさと愛をもって接する?
そうですね。もう少し具体的に言うと、「私はあなたという人を大切に思っています」というメッセージを相手が理解できるように発信しつづける必要がある、ということです。
つまり、その人の人間らしさをつねに尊重しつづける状況こそが、ユマニチュードの状態であると定義できます。
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