第7回
うつが再発する人、再発しない人の違いとは
2017.08.08更新
自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。
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うつが再発する人、再発しない人の違いとは
前述の、私と一緒に「自分マニュアル」を作っている人たちを見ていると、明らかにうつが再発しにくい傾向があります。
多くの人たちが再発することなく、心理職の指導者や、職場で後輩を育成する立場に育っていきます。
その一方で、薬だけでうつを治した人たちは再発しやすいともいわれています。おそらく、みなさんの中にもそういうイメージがあると思います。
両者の一番の違いは何かというと、「考え方や物事のとらえ方が変わったか、変わっていないか」という点だと思います。そこを変えることができた人は、次に壁にぶつかっても再びうつにはなりにくいのです。
うつを脳の病気として捉え、不足しているセロトニンやノルアドレナリンなどを補充するアプローチが間違っているとはいいません。でも、そういう部分だけ治しても、もともとの考え方のスタイルや物事にぶつかったときのとらえ方を変えなければ、同じことの繰り返しになります。
なぜなら、うつになる人は元々頭がいいのです。
だから、次の壁にぶつかったとき、またあれこれ考えます。それだけで自分のエネルギーを使い切って燃え尽きてしまうわけです。
そうならないためにも、「今、自分にはどういう心のクセがあって、どういうふうに乗り越えたらうまくいって、どういう方法はよくなかった」という情報を蓄積していくことが役立つのです。
そういうやり方をすると、「そうか、このときはこうだった」と、過去の経験と照らし合わせることができます。
そして次に何かあったときには、「あのときは実験的にこうやってみたけどダメだったから、今度はこうやってみようかな」というふうに、新しい選択をすることができます。
自作の「自分マニュアル」こそが特効薬
この方法は、自分の思考に焦点を当て、それを修正することでストレスを軽減していく「認知行動療法」に近いものです。
認知行動療法の本には、たとえば、「あなたの考え方のクセにはこういうものがありますね。それはここがよくないので、こう考えましょう」といったことが書いてあります。誰かの経験から導き出された「こうするとよくなかった、こうするとよかった」という、物事のとらえ方の例を教えているのです。
私がみなさんにすすめているのは、人の作ったマニュアルを使うことではなくて、自分のマニュアルを自分で作ることです。
そうすると、「これもよかったけど、でも、こういう考えもあるよね」という、自分の経験にもとづいた話ができるようになります。
「ダメな自分を変えよう」というスタンスではなくて、自分が少しでも楽になれるように小さな行動をいろいろ試してみる中で、結果の良し悪しを、その都度自分なりにまとめていけばいいのです。
やってみてよかったものは採用して悪かったものは省いていくという、実験メモのようなものです。
そういう自分のマニュアルは、自分で作ったものが一番です。
どうでもいいような、ムダなことをやってもマニュアルは作れます。
たとえば、ゴミ箱に向かって1時間紙くずを丸めたものを投げ続けてみて、自分の心の中をセルフモニタリングしてみてもいいのです。
なるべく効率のいい投げ方を考えるようになるかもしれません。
いいチャンスだからストレス発散に使おうと思えてくるかもしれません。
ゴミが散乱して、「この散らかったの、どうするんだよ」とうんざりして、今度はいかに早く片づけてスッキリさせるかに関心が向くかもしれません。
つまり、ひとつのムダな行動の中にも楽しみ方はいっぱいあるので、それをどんどん考えて、実験をしていくといいのです。
そうすることによって、「どうやったら自分が楽しくて、どんなときにどんなものが得られるのか」という、自分の心のクセみたいなものが見えてきます。
それを実験ノートに記すことができたら、それはもう立派なあなたの取説、生きていくためのマニュアルになるのです。
その要領で、「こうやったときにうれしい」「こういうときには腹が立つ」というふうに、どんどんつけ足していきます。これから先いろいろなことが起きても、そのマニュアルに沿って、また実験をしていけばいいわけです。
こういう作業を経験した人は、その後うつの人に会ったときに「しんどいよね。それはわかる。それだったらこの薬を飲めばいいよ」という言葉は出てきません。
「ぼくのマニュアルはこうだけど、こんなマニュアルを作ってみたらどう?」とアドバイスできるし、「マニュアルを作るためには、いっぱい失敗するといいよ」と言えるわけです。
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