第8回
トラウマも治せる「自分マニュアル」の作り方
2017.08.15更新
自衛隊初の現場の臨床心理士として、トップの利用率と9割の復職成功率を誇り、これまで3万人以上の心を解放してきた玉川真里氏が、落ち込みから立ち直るメソッドをわかりやすく紹介します。
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トラウマも治せる「自分マニュアル」の作り方
自分マニュアルの大切さはわかったけれど、どこから手をつけたらいいかわからない。それに、ちょっと面倒くさい気がする。
そんなふうに感じる人もいるでしょう。
私からのアドバイスは、最初はうんとハードルを下げてやることです。
まず、紙を用意して「何時に起きて、何時に寝たか」を記録していきましょう。
これは、書くという作業を習慣化させるためです。毎日書くことが大切なのです。起床時間と就寝時間に加えて、「起きていた時間はどんな気分だったか」も書きます。
そしてもうひとつ、これが大切なのですが、「よかった探し」をします。
よかった探しというのは、その日によかったと思えることを、何でもいいから必ず一個書くことで、これが自分マニュアルの唯一のルールです。
「見つからないから書かない」、これはナシです。
「よかったことに気がつかなかったことに、気づいたことがよかった」でもいいし、「何もないのに、とりあえず書けと言われて書いてみたことがよかった」でもいいです。「よくないけど、よかった」でもいいので、必ず書きます。
とにかく最後に「~だからよかった」をつければいいのです。
内容よりも、書く練習ができることが重要なのです。
言葉にして書く習慣をつけると、頭の中に浮かぶ言葉も補強されていくので、心の中にだんだん「よかった」という思いが植えつけられていきます。
いかにプラスの記憶を増やしていくか
これに関しては、EMDRというトラウマ治療の資格を取ったことが役立っています。
この心理療法を日本で一番普及させているのは兵庫教育大学の市井雅哉先生が理事長を務めているEMDR学会ですが、市井先生がトラウマの話をされたときに、すごく納得できたことがあるのです。
人間にはプラスの「よかった」という記憶と「すごく嫌だった」という記憶と、両方ありますよね。
「あの人からにらまれた」と思う。これはマイナスの記憶です。「また陰口を叩かれた」、これもマイナスの記憶です。マイナス、マイナス、マイナスと続けていくと、少々ご飯がおいしくても、マイナスで相殺されてしまうのです。
私のように、親との関係でいつも怯えていたとか、いじめに遭ったとか、あまりにも大きすぎるマイナス・トラウマがいくつもあればなおさらです。たまにちょっと褒められたというプラスがあっても、たくさんあるマイナスで打ち消されてしまいます。
そういう場合にトラウマを克服していくには、どれだけプラス記憶を増やしていくかが重要なのです。
それには、マイナス記憶だったものを「ほんとうにマイナス記憶なのかな?」と考えてみることも必要です。
たとえば私の例で言うと、小学校3年生のときに性的被害を受けたことは、ほんとうにマイナスしか与えなかったのだろうかと。
今考えてみると、あれがあったからPTSDについて勉強したのです。あれがあったからこそ、お金を払っても体験できないようなこと、セカンドレイプの被害者の気持ちや、いろいろなことも理解できました。
そういうふうに、後々、マイナスをプラスにできたりもするのです。オセロのコマをひっくり返すようなものです。
小さな幸せをたくさん心の中で言葉にしたり、口にしたり、書いてみたりするのは、ようするに小さなプラスを増やすことなのです。
プラス資源がいっぱいあるとちょっとしたマイナスは気にならなくなるし、そのうち消滅してしまうものもあります。
書く習慣や「よかった探し」は、そういうプラス記憶をどんどん増やすための作業なのです。
そうやって毎日、「こういう気分だった」とか「これがよかった」と言葉にする習慣をつけていくと、自分マニュアルが自然にできていきます。
題名をつけるとしたら、「私のトラウマ対策」とか、「私の○○マニュアル」ということになります。これがその先の自分を助け、ほかの人に役立てることもできる、あなたの宝物になるのです。
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