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KEEP MOVING 限界を作らない生き方  武藤将胤

第9回

自由に行動できることの幸せ

2018.06.28更新

読了時間

【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
「目次」はこちら

自由に行動できることの幸せ

 僕は今、WHILLに乗ってひとりでどこへでも行けます。
 もし、こんなに便利で安定性の高い次世代型電動車いすがなかったとしたら、僕の車いすを押したり、段差を昇り降りできるかどうかを気遣ったりしてくれる人、付きっきりでいてくれる人を確保しなくてはいけなかったでしょう。
 僕の場合、仕事に集中していて帰宅が深夜11時、12時になることもあります。誰かにつねに車いすを押してもらわなければならない状況であったら、今のようなペースで思う存分仕事に打ち込むことはできなかったと思います。
 そう考えると、WHILLに乗ってひとりで行動できるということは、単に便利というだけでなく、今の僕の生活、生き方というものを本質的に支えてくれている、といえます。
 休日に妻と過ごす時間にも変化が起きました。歩きにくくなってからは、一緒に出かけることがどんどん減ってしまっていました。僕は重い荷物を持ってあげることもできない、むしろ僕が一緒に行くことが、妻に負担をかけてしまうようになっていたからです。
 しかしWHILLに乗るようになってからは、またふたりで一緒に買い物に出かけるようになりました。簡単に分解して車に載せることができる新型WHILLもあるので遠出もできます。
 遅い時間まで仕事に没頭するとか、休日に妻と出かけるというのは、健常者の人にとってはなんということのない当たり前の日常のひとコマですが、今の僕にとっては、そうやってなんということのない普通の生活が送れることは大きな喜びです。
「今のこの一瞬一瞬を僕は確かに生きているんだ」と実感するのは、なにげないことが普通にできることなのだということを、僕はこの病気になって初めて痛感するようになりました。
 自分の意思で自由に動ける、活動できるって、人間としてものすごく幸せなことなんですよ。
 カーシェアでWHILLを使用している方たちも、みなさん積極的にあちこちに出かけています。
 そのひとりに、同世代で2児のお母さんである女性がいます。
「WHILLを使うようになって、子どもたちと一緒に公園に行くことができるようになりました。子どもとのかけがえのない時間を味わえて、とてもうれしいです」
 と言ってくださっています。
 ほかの方たちも口々に、
「もう手放せない」
「自分の相棒だ」
 などとおっしゃっています。
 そんな言葉を聞くと、「あきらめずにこのプロジェクトを始めてほんとによかったな」と思います。
 先日は、カーシェアを利用されている方とそのご家族たちと一緒に、車いすのツーリングに出かけ、みんなで東京タワーに昇りました。その方のお子さんたちも来て、自由に走り回る子どもたちをみんなで車いすで追いかけながら、「こんな時間も、築けてよかった未来のひとつだよなあ」と僕は感じました。

© 阪本勇

みんなの笑顔を増やそうよ

 今の日本では、介護の人材が圧倒的に足りません。超高齢化社会に向かって、介護の世界の人手不足の問題は、ますます顕著になるでしょう。
 WHILLで単独行動ができることで、車いすを押す人が要らなくなることからもわかるように、新しいテクノロジーを活用することは、暮らしを便利にしてくれるだけでなく、人手不足を補う働きもしてくれると思うのです。
 ALSのような難病の人だけでなく、いろいろな人がWHILLのようなモビリティを手軽に使えるようになることは、これからの福祉、介護の分野ではとても大切なことだと僕は思っています。
 僕自身、ひとりの難病患者として、今の障害者支援の考え方には「デザインだとかカッコよさのようなものを求めるのは、贅沢なんじゃない?」という風潮が根強くあるように感じています。
 公費を投じるわけですから、シビアになる部分があるのもやむを得ないとは思いますが、たとえば誰もがポジティブに「乗りたい」と思える車いす、ワクワクして外に出かけたくなるデザインの車いすがもっと増えて、世の中に普及すれば、その人はもっと楽しく生きられるようになります。病気の進行や障害に対する鬱々とした気分も吹き飛んで、楽しくイキイキと毎日が過ごせるはずです。それが病気の進行をくい止め、免疫力を上げて悪化を阻止するようなことにもつながっていくかもしれません。
 それは本人だけでなく、周囲でサポートする人たちの負担も軽減し、お互いが笑顔になれることにつながっていきます。トータルで考えれば、みんなの幸せ、みんなの笑顔につながっていくと思うんですね。

 WHILLを乗り回していると、
「あれ、何? カッコいいね」
「ハイテク! 近未来的!」
 という感じで興味をもってもらえることも多々あります。
 僕はうれしくなって、
「カッコいいでしょ!」
 とニコニコして言ってしまいます。
 あるとき音楽フェスの会場で、WHILLにプロジェクションマッピングをやってみました。すると、みんなスマートフォンでパシャパシャ写真を撮ってくれていました。
 それが車いすだという先入観がない状態で、「なんかカッコいいね」と思ってくれる人が増えたら、「ちょっと乗ってみたい」と思ってくれる人が増えたら、この社会は少しずつ変わっていくのではないかな、と考えています。
 よりよい未来というのは、一気に出来上がるものではないと思うんですよね。みんながちょっとずつ意識を変え、心の垣根を取り払う努力を重ねることで、少しずつ世の中の認識が変化して、少しずつよりよい未来に近づいていくのだと思います。
 そのことを信じて、僕は今日も行動し続けています。

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著者

武藤将胤

1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALS を発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が初の著書となる。

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