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KEEP MOVING 限界を作らない生き方  武藤将胤

第10回

すべての人が快適にカッコよく着られる洋服を

2018.07.03更新

読了時間

【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
「目次」はこちら

Chapter 3 障害者も健常者も、男性も女性も、
すべての人が快適にカッコよく着られる洋服を

洋服好き男子

 大学時代、僕は友だちからよく、
「おまえ、ほんとどこにいても目立つな。階段教室でも講堂でも、どこにいるかひと目でわかるよ」
 と言われていました。
 当時の僕は、かなり奇抜な格好をしていたからです。赤、青、ピンクなど目のさめるような原色系カラーの洋服に、シルバーの靴。髪も青く染めてみたり、アッシュにしてみたり。
 そりゃあ目立ちますよね。でも自分としては目立ちたいからやっていたわけではなく、誰も着ていないもの、自分らしい格好やスタイルって何かと追い求めていたのだと思います。
 僕が洋服への興味に目覚めたのは、高校時代です。自分の個性というものをどうやって表現したらいいのかがまだよくわからない年頃。音楽とかファッションで自分らしさを表現する楽しさに気づいたんです。
 当時すごく好きだったブランドのひとつが、「LAD MUSICIAN(ラッドミュージシャン)」です。「音楽と洋服の融合」を基本コンセプトにしていて、ミュージシャンが愛好するような細身のシルエットでモッズのようなカッコよさがある日本のブランド。
 あまりにハマっていたことから、一時はまわりから「ラッドの武藤くん」と呼ばれるくらい、よく着ていました。夢中になると昔からその世界にのめり込むタイプなんです。
 細身の洋服は窮屈な感じになりがちですが、ラッドミュージシャンの洋服は着る人のことをよく考えていて、機能性も高く着心地がいいんです。
「こういう洋服が、もっといろいろあるのかもしれないな」と思って、古着屋さんやさまざまなブランド巡りをして、自分がカッコいいと思うものを見つけ出すようになりました。
 自分の個性を見つけて、それを身にまとう、これはすごく強い表現手法だと思い、どんどん洋服好きになっていったのです。
 もちろん、トレンドは何かというのも、雑誌を見たりしてチェックはしていましたが、僕はみんなが着ている流行りものはもちろんのこと、それ以上に、人が知らないブランドを探したり、カッコいい感じに古びたジーンズを見つけたりすることが面白かったんです。
 大学受験に失敗して1年浪人をしたのですが、浪人中も勉強はそこそこに洋服屋さんに通っていました。そのつけは、翌年の結果に出てしまうことになるのですが。
 高校生から浪人時代、大学1、2年の頃まで、とにかく洋服への興味がハンパではなく、その頃の夢は、「将来はファッション、アパレル関係の仕事に就き、いずれは自分のファッションブランドとセレクトショップを持つこと」でした。

好きな洋服が着られなくなっていく

 その後、社会人になっても、洋服好きであることは変わりません。自分の本当に好きなもの、自分に似合うものが少しずつわかるようになりました。
 カッコよさ、着心地のよさ、遊び心の利いたデザインやアクセントカラーなど、自分の気分を上げてくれる洋服へのこだわりは、持ち続けていました。
 そんな僕がALSを発症―。なんでもないところで転んでしまうようになりだした頃には、身じたくでも困ることが起きていました。
 たとえば、指先の細かい動きが困難になり、洋服のボタンを留めることができなくなりました。
 クライアントのところに、大事なプレゼンに行かなければならない日の朝、シャツのボタンがどうしても留められないのです。その頃は会社の同僚と3人でルームシェアしていたのですが、同居人たちはすでに出かけてしまった後で頼める人もいません。仕方がないので、シャツのボタンを留めないまま外に出てタクシーに乗り、運転手さんに事情を説明して、ボタンを留めてもらいました。そんなことが何度もありました。
 大好きなジーンズにしても、足が動かしづらくなったり、ジッパーを上げられなくなったりして、はけなくなりました。
 そうやって、自分の好きだった洋服がだんだん着られなくなってしまったのです。
 ところが着やすいものというと、前開きで、ボタンやジッパーがなくて、素材に伸縮性があってと、ジャージの部屋着みたいなものばかりになってしまいます。仕事に行くのに自分で着られて、人前に出てもきちんと見えるような洋服というのは、けっこうないものなんですよ。
 車いすのときにも感じたことですが、「障害者用のものって本当にユーザー視点でのイノベーション未開発領域なんだな」と実感しました。
 そこで僕は、「ないんだったら、自分たちで0から作ろう」と考えたのです。

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著者

武藤将胤

1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALS を発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が初の著書となる。

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