第12回
植物の品定め
2019.01.10更新
【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
「目次」はこちら
三角牡丹
植物は生長をするとき、プログラミングされた通り規則正しく単純な展開を繰り返す。ことサボテンに関しては、この繰り返しが顕著にわかりやすく幾何学的な造形になりやすい。この三角牡丹はまさに植物の幾何学性が形になったもの。従来サボテンには刺という身を守るのにとても便利な防具があったにもかかわらず、進化の過程で刺を退化させた牡丹というサボテンの一種が、やはり刺は必要だ、と自らの肉を刺にした。一見迷走にも思えてしまう植物の行ったり来たりに感じられる、不思議な多様性におもしろさを感じてしまう。
今回はこれまで書き連ねてきた叢的独自の植物の測り方を踏まえ、実際の植物を解説していこうと思う。
ユニークな植物にはまだまだとてつもなく可能性を感じてしまう。
水牛大鳳玉
台木に書かれてある「水牛大鳳」という字に惹かれて手に入れた個体。一度は販売したものの、輸送時に穂木が落ちてしまったことで、キャンセルとなりまた手元に戻ってきた。その後、どうしてもこの文字を生かしたく、同じ台木に接ぎ直しを行い、元の風貌を取り戻した後、順調に生長を重ね大きくなった個体。上部の子株が膨れ上がり当時の風貌よりも迫力を増し、3段重ねの接ぎ木のようにも見える。水牛の湾曲した角を思わせるような刺を出すことからこの名がつけられたサボテンだが、もはやその特徴よりも、なんとかして命をつなげようとして継ぎ接ぎとなってしまった必死の思いが滲み出ている哀愁のある一株。
レッドラウシー及びロイホワイトの稜接ぎ
サボテンの接ぎ木は台木を胴切りして、中心に現れる維管束に接ぎ木を行う。しかし、維管束は側部の刺座の付け根にも生まれることがあり、そこに接ぐことも可能である。この個体はそんな刺座の下に眠る維管束を狙って接ぎ木したもの。この技法を使えば、まだまだユニークなシルエットの接ぎ木を生み出せるに違いない。穂木を大きくさせるためだけではない、遊び心を取り入れたサボテンの接ぎ木があってもよいと思う。この個体の接ぎ木されたそれぞれのサボテンは群生化したり、肥大化したり、思い思いの生長を遂げる。最終形がどのような風貌になるか読めないおもしろさがある。
螺旋金鯱モンストローサ
数年前、海外でサボテンの突然変異体ばかり収集している趣味家のところを訪れたことがある。そこには何万というサボテンの突然変異種が畑に植えてあった。その一つがこれ。もはや何という植物の突然変異体なのかわからないほどミスコピーを起こし、暴れていた。お互いが片言の英語力であったのもあり確かな名前も不明なまま輸入し、育てたもの。日本に戻ってから、これが金鯱というサボテンの螺旋型であることが判明した。もちろん国内では流通していない。表皮の生長が内部の生長に追いついておらず、ぱっくりと裂けた風貌は、突然変異という宿命に抗っているようだ。
この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。
感想を書く