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叢のものさし 小田康平

第21回

サボテンの作り手

2019.10.10更新

読了時間

【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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サボテン愛好家の手。サボテンと同じくらい時間が刻まれた手はいつ見てもかっこいいな、と感じる。

おじいさんたちが生み出すサボテンには味わい深さと愛着がある

叢のサボテン仕入れは、市場に買い付けに行くことはほとんどなく、全国各地のたくさんのサボテン愛好家の自宅の庭や生産ハウスを訪ね歩くことで行なっている。よく「世界中から集められるんですか?」と質問されることがあるが、僕は、世界を巡るよりも国内を巡ってサボテン調達するほうがおもしろいものが入手できると思っている。
これまでに国内で訪ねたお宅は優に100を超える。関東や東海などサボテンの生産が盛んなエリアはもちろんのこと、四国や北陸などにも気合いの入った名人級のおじいさんたちが多い。各地のおじいさんたちの情報は、インターネットなどで探せるはずもなく、“お友達のお友達”のような数珠つなぎで開拓していくしかない。何年もかかってようやくハウス見学に辿り着くなど、珍しいことではない。
通常、電話でアポイントを取った後「初めまして」と、ハウスにお邪魔する。そこには半世紀もの間、試行錯誤してきた年季の入ったサボテンが所狭しと並んでいる。それらは販売目的というよりも愛でるために育てられたサボテンばかりなので、お金を積めば譲ってもらえるわけでもない。暑いハウスの中でおじいさんたちとサボテン談義をし、価格交渉をし、ようやくいくつかのサボテンだけ譲ってもらえる。僕の勝手なサボテンに対する価値観はおじいさんたちのそれとは大きく異なっており、たいていの場合彼らが夢中で「愛培」している個体には目もくれず、彼らの寵愛を受け損なったかあるいは、かつては受けてはいたが、植物側が裏切ってしまったような個体に興味があるため、おじいさんたちは首を傾げながら譲ってくれることがままある。
サボテン栽培は僕の知る限り、ほとんどすべての都道府県で行われており、地域ごとに人気の種類や繁殖方法が異なるのはとても興味深いことだ。例えば接ぎ木。これは太平洋岸の静岡県や高知県などで盛んに行われる反面、埼玉県や長野県などの内陸部での評価はやや低い。(内陸部でも精力的に接ぎ木をしている人もいるが、)これはその地域の年間の気温の低さに比例しており、低温地域では生長旺盛な接ぎ木での繁殖が不向きなことも一つの要因だ。そんな個人レベル、地域レベルの特性を理解し、次に叢ではどんなサボテンを調達したいかを考え、アタックしていく。
サボテンの愛好家は全国に数千人以上いると言われており、その多くは70歳前後の団塊の世代の方々だ。彼らの多くはサボテン歴50年クラスで、独自に編み出したサボテン栽培方法を習得している。その業は一朝一夕で思いつくものではなく、話の中でほんの数秒で語られることでも、それに気付くまでに数十年かかったんだろうな、と感心することもしばしばある。
サボテンとは元来アメリカ大陸のものだが、僕にとっては自生地のサボテンよりも長年の試行錯誤のなかで日本のおじいさんたちが生み出してきたサボテンのほうが味わい深く、愛着がある。そこには植物の発するエネルギーとは別に哀愁のようなものが潜んでいるのだ。

おじいさんのサボテンハウス。ハウスには数千を超えるサボテンが所狭しと並ぶ。

 

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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