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叢のものさし 小田康平

第19回

サボテンと環境

2019.08.08更新

読了時間

【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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白瑞鳳玉(はくずいほうぎょく)
鉢 吉田直嗣(なおつぐ)

下部の表皮が剥がれ、それでもなお生長をし続ける個体。環境の力を借りれば、ここまでえぐられてもたくましく育つ。

壮大なサボテンの姿は空間構成の新しい可能性を秘めている

耐寒性や耐湿性のあるユッカやアガベ、アロエなどはもちろんのこと、近年それ以外の多肉植物やサボテンもちらほら植栽の材料として使われはじめてきた。これは昨今の温暖化の影響も大いにあるように思う。これまで、たくさんの書物やインターネット上で「屋外環境で育てることのできるサボテン/そうでないサボテン」と説明されてきたことだろうが、少しずつその正しいとされてきた情報を植物たちが凌駕してきているように感じざるを得ない。
国内各地のさまざまな環境での植栽施工を通じ、少しずつ実験的にサボテンを植栽し、生長する姿を見てきた。体験談から言うと、サボテンのなかでも一部の種類は国内の環境でも勢いよく育つ。
鬼面角などの柱サボテン、宝剣などの団扇サボテンは乾燥を好むと思われ、日本の多湿な環境にそぐわないと認識されがちだが、実はそうではなく、彼らは一時的な乾燥条件に耐えるために順応した多肉性の植物であり、ある程度の気温下(15℃以上)では十分な水分を欲する。そして、冬季も太陽光が確保できる立地かつ寒風が当たらない環境であれば冬を越すことだってできる。つまり日本の温暖で湿潤な環境下で、地植えは十分可能ということだ。
そうした環境を作ってやると、または偶然そうなった環境に彼らが育った場合、ある種のサボテンたちはとてつもなく大きく育つ。地球の力は偉大だ。
樹高3mを超えるサボテンの壮大な姿は、国内ではまだまだ特異な風景であり、空間構成の新しい可能性を秘めているはずである。そのネタは現在黙々と仕込み中であり、今後の叢の植栽材料に加わっていくはずである。
植栽において移動による環境チェンジができない地面や花壇に植え込む場合は、その環境に適応する植物を選ぶことがとても大切だ。当たり前のように聞こえるが、デザイン重視や好み重視で植物を選び、無理矢理植え込んで枯らしてしまうという事例はよく耳にする。
光が少ない部屋では耐陰性のある植物を選ぶべきだし、冬に寒い場所では耐寒性を重視すべきだ。逆に、いくつかの条件が揃った好環境の場所だとしたら植栽の可能性はいくらでも広がっていく。どこの土地にも南は存在するわけだから、サボテンなどを植えることのできる環境は少なくはないはずだ。都内を中心に見かけたサボテン(写真左)をご覧いただいたらその大きさや勢いに驚くはず。彼らは環境を味方にして爆発的な生長を遂げている。近年、設計段階から加わることのできる植栽案件が少しずつ増えてきた。建築によって環境をある程度コントロールすることさえできれば、彼らの力を引き出すことができる。

都内で高さ12m以上にもなった柱サボテン。南側に交差点があり、年間を通して昼間に十分な光線が当たる。背後にある壁面も防寒対策の一躍を担っている。屋上にまで登りきった幹は分岐し、建物を支配しようとしている。

冬の寒風を避けることができる2枚の壁面を支柱代わりに使い、大きく育った鬼面角。光の入る方角がちょうど南であるために、好条件となった。ここまで育つと、もはや退治できないほどの怪物のようだ。

 

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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