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叢のものさし 小田康平

第25回

嫌われ者の役割

2020.04.08更新

読了時間

【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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美しくもはかなく、リレーを行いながら緑豊かな地球を作っているのだ

セイタカアワダチソウという植物がある。秋には日本のいたるところで目にすることだろう。花卉業界でもソリダゴの名で多く流通しており、僕が花屋で仕事していた際にはよくお世話になった植物だ。
この植物は明治末期に北米から我が国に入ってきたようで、戦後の昭和時代に劇的に繁殖域を増やしたとされている。世の中の彼らに対しての印象(みんながこの黄色い植物に注目しているわけではないだろうが)は、在来種で秋の風物詩とも言えるススキの生息域を脅かし、花粉を飛ばしまくり花粉症の元凶となり、爆発的な繁殖力によっていずれは日本中黄色い絨毯になってしまうのではないか、という感じなのかもしれない。そこで今回は運転中によく見かけるこの嫌われ者について書こうと思ったわけだ。
セイタカアワダチソウという植物は、アレロパシーという作用が強いことで有名な植物だ。アレロパシーとは植物の出す化学物質による作用のことで、セイタカアワダチソウの根が地下部で放出する物質により競合相手であるススキなどは生長を抑制されてしまうことが知られている。そのせいでどんどんススキを駆逐して自らの領土を拡大していくのだ。それにしては、いまだにススキとどっこいどっこいの場所、さらにはススキに追いやられてしまっているセイタカアワダチソウ群落にお気づきな方はいるだろうか?これは、セイタカアワダチソウの出すアレロケミカルによって、数年後にはセイタカアワダチソウ自らの生長も阻害してしまうことが原因なのだ。自分で自分の首を絞めてしまう。この進化の意味とはなんだろうか。
自然界では植生を放置しておくと、植生が遷移し構成種が移り変わっていく。一年草から多年草に変わり、低木から高木へと推移しやがて極相林と呼ばれる森となる。植物がリレーを行いながら緑豊かな地球を作っているのだ。種の繁栄よりも自然を作る一役を担い、役を果たすと姿を消してしまう。なんと美しいことか。つまり彼らは人間による環境破壊によって、埋め立てたりコンクリートでカチカチに固めたりした土壌を、元の森に戻すため、低木や高木が生えやすい環境をこしらえる地球代表の先遣隊なのだ。いち早く劣悪な環境に乗り込み、必死に土をほぐす。ほぐし終わったら自らの力で幕引きをする。人間が開発をする限りセイタカアワダチソウはいつも自分の役目をこなす。日本中で彼らがはびこっているのは、日本中で自然が失われているからなのだろう。大地が森になると人知れず姿を消す潔い彼らを眺めていると、植物からまた一つ学ばされたな、と思ってしまう。付け加えておくと、花粉症の元凶とされているのも今日ではブタクサの濡れ衣であるとされている。
我々日本人は、古きよき時代には見かけなかったセイタカアワダチソウに対し、外来種という違和感を感じ排除すべきという考え方もあるだろうが、彼らは地球を守るべくある役割を託された地球の一員なのである。

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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