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叢のものさし 小田康平

第28回

オランダの植物たち

2020.08.07更新

読了時間

【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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アムステルダムのガラス温室を利用したレストラン。観葉植物の生育に適した環境なので、生育がとても順調。

 

今年に入って、世界の植物が集まると言われているオランダの市場や生産地、輸入輸出商社などのさまざまな現場を見てまわった。植物調達という目的では初めて来たヨーロッパ。そこには驚くべき見たこともない壮大な光景があった。大型観葉植物やヤシ類のハウスなどは、高さ10m以上もあるガラス温室が数百メートルも続き、そこに所狭しと大物植物が並ぶ。世界中に送り込むための小さな観葉植物の苗は、何百万粒という種子を発芽させ、コンピューターによる徹底した温度湿度管理で促成栽培する。ハウス内は終わりが見えないほどの芝生状態。サボテンや多肉植物などは、イタリアやスペインの島嶼部で大規模生産を行い、あらゆるサイズのものを随時供給する。アフリカ原産のアロエやコーデックス類は、過去にアフリカ大陸を植民地化していた時代背景もあってなのか、見たこともない特大サイズの現地球(原産地株)が集められていた。そしてそのどれもが土ではなく、植物由来のココピートやピートモスなどに植えられており、輸出準備も万全だ。さまざまなエリアをまわった感想としては、たくさんの植物が集められ管理され準備されていること、生産されていることへの驚きよりも、このような多くの植物の需要がきちんとこの地で、あるいは世界中でしっかりとあることへの驚きだった。ホテルや飲食店、空港などを見ると、なるほどうまい具合に植物がコーディネートされ配置されている。弱ったような植物はほとんどなく、みずみずしい。植物のある場所はどこも窓が大きく、きちんと光を取り込む工夫がされ植物たちは新しい枝葉を伸ばしている。そして生産されている植物は、よく見てみるとさほどのバラエティはあれど、室内環境にとても強い植物が選ばれ偏って生産されていた。珍しい植物を置くという感覚よりも、元気な緑を置きたいということでそうなっているのだと思う。個人的な意見だが、日本では、新しい施設や個人宅などへの植物の依頼を受けると、どこにもない珍しい植物をとか、光がないけどここに置きたいとか、実に難しい注文が多いような気がする。植物の生長への期待よりも、植物を置物として考え見た目にこだわった依頼だ。こんな依頼がやって来ると、自分はまだまだ植物の魅力を伝えきれていないな、とつくづく感じてしまう。緑の瞬間的ではない持続的な生き生きとした生命力の魅力を伝えること、そして自分の考える植物の楽しみ方を共感してもらうこと、それらの試行錯誤はまだまだ続きそうである。

オランダ郊外にある超大型の観葉植物、ヤシ類の管理ハウス。このような巨大な植物が随時運ばれて商品となっているそうだ。

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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
最新話は、「月刊フローリスト」をご覧ください。

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著者

小田康平

1976年、広島生まれ。2012年、〝いい顔してる植物〟をコンセプトに、独自の美しさを提案する植物屋「叢-Qusamura」をオープン。国内外でインスタレーション作品の発表や展示会を行う。最新作は、銀座メゾンエルメス Window Display(2016)。http://qusamura.com

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