第27回
園芸植物の行方
2020.06.11更新
【 この連載は… 】 植物選びの基準は「いい顔」をしているかどうか……。植物屋「Qusamura(叢)」の小田康平さんが、サボテンや多肉植物を例に、独自の目線で植物の美しさを紹介します。植物の「いい顔」ってどういうことなのか、考えてみませんか?
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世の中のあらゆる園芸植物が中国中心で回っていると言っても過言ではない状況がここ数年続いていたような気がする。多肉植物、サボテンの業界でもハオルチア、コーデックス類、斑入り植物、ロホホラ、アストロフィツムなどは目の飛び出るほどの価格でやりとりされ、とてもエキサイトしていたのを目の当たりにしてきた。小さな苗が数万、数十万で売買されることもしばしばあり、百万を超える値がつくことだってあった。田舎の公民館のような場所で行われるサボテン交換会でも札束が飛び交うこともしばしばだった。もはやそこは趣味の会というよりは投機のための植物オークション会場と化していた。純粋に植物を楽しむような金額とはほど遠い、金儲けのための材料として植物がやりとりされる違和感のある数年だった。庭木や盆栽なども同様に加熱していたとよく耳にする。この数年間でたくさんの銘品と呼ばれる昭和から平成の名人たちの手間隙かかった植物個体たちが根こそぎ中国をはじめとする海外へと流出してしまった。そんな印象だ。
そこで今回は、中国の浙江省に出向き植物仕入れのかたわら、メリクロン栽培や大量の実生による植物殖産工場なる現場を見学できたのでそのことを書こうと思う。メリクロンとは、洋ランの業界で特に頻繁に行われている分裂組織を使って培養し、数万株単位で増殖された苗のことを言う。現在中国では日本国内で超高額になってしまった特殊なハオルチアや斑入り植物をどしどしメリクロン化しているそうだ。日本で数十年研究を重ねて作りあげた特殊な品種を数年の間であっという間に量産化する。こうした背景もあってか、日本のハオルチア人気はあんなに加熱していたにも関わらず、1年足らずで急激に冷え込んでしまった。希少な品種をコレクションすることがステータスだった国内の愛好家たちは、量産化されることを煙たがったのだろう。世の中にわずかしかなかった貴重種が数年後には格安で流通してしまっては、コレクションしがいがないわけだ。また実生生産の工場でも、広大な敷地に数千万粒の種が蒔かれ、それらが日ごとに大きくなっていくという圧倒的な生産量で数年後の出荷を待ち構えている。用土は輸出向けに植物由来のピートモスを圧縮したチップのようなものをふやかしてそこに幼苗を仕込んでいくことで、ある程度のサイズになった順から根切りや土を落とすなどの作業をすることなくそのままヨーロッパなどにスムーズに送り込む。
こうした広大な土地と安価な労働力とコピー技術の高さの現状を見てしまうと日本の園芸はこれからどのようになっていくのだろうと考えさせられてしまう。中国などによる大量生産植物はきっとこれからの日本や世界中の園芸業界にこれまで以上に大きく影響を及ぼしていくだろう。中国で見た大量生産された植物は、僕には植物の形をした工業製品のように見えた。そこには植物らしさがなかった。植物の本来の美しさや魅力とは、本当に珍しい葉模様やそのものが流通しているか否か、というものさしなのだろうか。これまでのような種類や希少性にこだわるような価値観であってはいずれ大量生産の波に飲み込まれてしまうかもしれない。日本は日本の、また個人は個人のそれぞれの植物に思う価値観を築き植物を愛でることがとても大事になってくるように思う。本当の植物の価値とは、植物らしさであり、生き生きとしているたくましい姿なのではないだろうか。
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この連載は、「月刊フローリスト」からの転載です。
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