第19回
還淳第十九
2018.12.31更新
日本人の精神世界に多大な影響を与えた東洋哲学の古典『老子』。万物の根源「道」を知れば「幸せ」が見えてくる。現代の感覚で読める超訳と、原文・読み下し文を対照させたオールインワン。
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還淳第十九
19 さかしらな知恵、才能など必要ない
【現代語訳】
英知、さかしらな才能などを決して使わず、知恵分別を去(す)てるならば、無駄な争いなど何もなくなり人々の利益は百倍にもなる。仁や義などという徳を絶って、強制しなければ人々の孝心や慈愛ももとに戻るであろう。技巧や便利さを追求することをなくしたら、盗賊はいなくなるだろう。
この三つのことは、まだ説明が足りないので、さらに加えてみる。すなわち外面は素地のままで、内面はあら木のようにし、私心を減らし、欲を少なくしていくのだ。
【読み下し文】
聖(せい)(※)を絶(た)ち智(ち)を棄(す)てば、民(たみ)の利(り)は百倍(ひゃくばい)す。仁(じん)を絶(た)ち義(ぎ)を棄(す)てば、民(たみ)は孝慈(こうじ)に復(ふく)す。巧(こう)を絶(た)ち利(り)を棄(す)てば(※)、盗賊(とうぞく)の有(あ)ること無(な)し。
此(こ)の三者(さんしゃ)は、以(もっ)て文(ぶん)と為(な)すに足(た)らず、故(ゆえ)に属(つ)ぐ所(ところ)有(あ)らしめん。素(そ)(※)を見(あら)わし樸(ぼく)を抱(いだ)き、私(し)を少(すく)なくし欲(よく)を寡(すく)なくす。
- (※)聖……ここでの聖は、英知、優れた才能、さかしらな才能を指す。老子の他の章ではすべて「聖人」とされているが、本章では「聖」という文字だけである。聖人と解する説もあるが、やはり分けて考えたほうが明快である。
- (※)巧を絶ち利を棄てば……安民第三参照。技術を革新させ、便利さを追求することは文明や現代の資本主義社会の根本だが、一方で人々の射倖心を刺激し、盗みなどの弊害も出てくる。老子の文明批判の一つである。
- (※)素……染めていない生地のまま。素地のまま。
【原文】
還淳第十九
絕聖棄智、民利百倍。絕仁棄義、民復孝慈。絕巧棄利、盜賊無有。
此三者、以爲文不足、故令有所屬。見素抱樸、少私寡欲。
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