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第19回

52〜54話

2020.01.22更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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52 人に恩恵を与えても見返りを考えてはならない


【現代語訳】
人に恩を施す者は、自分の心のなかにそのことを意識せず、相手に感謝することを期待しなければ、わずかな施しでもとても大きな価値に値する。これに反して、人に利益を与える者が、自分が与えた利益をどれくらいのものか計算したり、その見返りを求める気持ちが出たら、たとえ莫大なお金を与えたとしても、少しの価値もないものとなる。

【読み下し文】
恩(おん)を施(ほどこ)す者(もの)は、内(うち)に己(おのれ)を見(み)ず、外(そと)に人(ひと)を見(み)ざれば、即(すなわ)ち斗粟(とぞく)(※)も万鍾(ばんしょう)(※)の恵(めぐ)みに当(あ)たるべし。物(もの)を利(り)する者(もの)は、己(おのれ)の施(ほどこ)しを計(はか)り、人(ひと)の報(むく)いを責(もと)むれば、百鎰(ひゃくいつ)(※)と雖(いえど)も一文(いちもん)の功(こう)を成(な)し難(がた)し。

(※)斗粟……わずかのもの。なお、見返りを求めないことについては、本項の解釈については、本書の前集28条および51条も参照。
(※)万鍾……多量の意。「鍾」は容量の名。
(※)百鎰……とても莫大なお金の意。「鎰」は重さの単位(拙著『全文完全対照版 孫子コンプリート』形篇参照)。

【原文】
施恩者、內不見己、外不見人、卽斗粟可當萬鍾之惠。利物者、計己之施、責人之報、雖百鎰難成一文之功。

53 人生は良いときも悪いときもある


【現代語訳】
人生は良いときもあれば悪いときもある(すべていつもが良い条件、状態とは限らない)。それなのに、どうして自分の人生だけがいつも良いことを望めようか。また、自分の心も良いときも悪いときもある(いつも平穏で正しいとは限らない)。それなのに、どうして他人ばかりにこちらの都合良くいてほしいことを望めようか。このように自分を見て、他人を理解し、思いやってバランスをとっていくことも、一つの良い生き方ではないだろうか。

【読み下し文】
人(ひと)の際遇(さいぐう)(※)は、斉(ひと)し(※)き有(あ)り斉(ひと)しからざる有(あ)り、而(しか)して能(よ)く己(おのれ)をして独(ひと)り斉(ひと)しからしめんや。己(おのれ)の情理(じょうり)(※)は、順(じゅん)なる有(あ)り順(じゅん)ならざる有(あ)り、而(しか)して能(よ)く人(ひと)をして皆(みな)順(じゅん)ならしめんや。此(こ)れを以(もっ)て相観(そうかん)し対治(たいじ)せば(※)、亦(ま)た是(こ)れ一(いつ)の方便(ほうべん)の法門(ほうもん)(※)なり。

(※)際遇……境遇、身の上、条件。
(※)斉し……整う。そろう。
(※)情理……気持ち。心持ち。
(※)相観し対治せば……自分を見て他人を理解すること。互いに見比べて考えること。
(※)方便の法門……手段。方法。仏教用語で「真実の方門」に対しての言葉。

【原文】
人之際遇、有齊有不齊、而能使己獨齊乎。己之情理、有順有不順、而能使人皆順乎。以此相觀對治、亦是一方便法門。

54 心を洗い清め素直な気持ちで書物を読む


【現代語訳】
心を洗い清め、素直な気持ちで書物を読み、昔の聖人、賢人の教えを学ぶべきである。そうでないと、一つの善行を見ても、それを利用して私益を図ったり、一つの善言を聞いても、それを借りて自分の欠点を隠す口実としたりしかねない。こうなると、敵に武器を貸し、泥棒に食事を与えるのと同じことになってしまう。

【読み下し文】
心地乾浄(しんちけんじょう)(※)にして、方(はじ)めて書(しょ)を読(よ)み古(いにしえ)を学(まな)ぶべし。然(しか)らざれば、一(いつ)の善行(ぜんこう)を見(み)ては、竊(ぬす)みて以(もっ)て私(わたくし)を済(な)し(※)、一(いつ)の善言(ぜんげん)を聞(き)いては、仮(か)りて以(もっ)て短(たん)を覆(おお)う。是(こ)れ又(また)寇(こう)に兵(へい)を藉(か)し、盗(とう)に糧(ろう)を齎(もたら)す(※)なり。

(※)乾浄……心を清め素直な気持ちになること。吉田松陰も「凡(およ)そ読書(どくしょ)の法(ほう)は、吾(わ)が心(こころ)を虚(むな)しくし、胸中(きょうちゅう)に一種(いっしゅ)の意見(いけん)を構(かま)えず、吾(わ)が心(こころ)を書(しょ)の中(なか)へ押(お)し入(い)れて、書(しょ)の道(どうり)理如何(いかん)と見(み)、其(そ)の意(い)を迎(むか)え来(く)るべし」(『講孟箚記』)と述べている。
(※)私を済し……自分のものに取り込んで利益を図り。
(※)冦に兵を藉し、盗に糧を齎す……敵に武器を貸し、泥棒に食事を与える。利敵行為。『史記』李(り)斯伝にある言葉。

【原文】
心地乾淨、方可讀書學古。不然、見一善行、竊以濟私、聞一善言、假以覆短。是又藉寇兵、而齎盜糧矣。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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