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第21回

58〜60話

2020.01.24更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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58 苦労、苦心しているなかに、必ず喜びが見つけられる


【現代語訳】
一生懸命に苦労、苦心しているなかに、必ず喜びが見つけられる。逆に、調子良くいっていて得意になっているとき、そのなかにすでに失意の悲しみを生むもとが生じている。

【読み下し文】
苦心(くしん)の中(なか)に、常(つね)に心(こころ)を悦(よろこ)ばしむるの趣(おもむき)を得(う)。得意(とくい)の時(とき)に、便(すなわ)ち(※)失意(しつい)の悲(かな)しみを生(しょう)ず。

(※)便ち……そのなかにすでに。

【原文】
苦心中、常得悅心之趣。得意時、便生失意之悲。

59 正しい努力や人格で得たお金と地位、名誉でなければそのうちに消えてしまう


【現代語訳】
お金や地位、名誉が道徳的に(正しい努力や人格で)得られたものであるとき、それは山林の自然の花のようであり、自らちゃんと育ち茂るものである。それが時流に乗った事業の成功によって得られたものであるならば、それは植木鉢や花壇の花のようである。すなわち、いつ移しかえられたり捨てられたりするかわからない。それがもし、権力によって得られたものだとすると、花びんに差された花のようである。それは根がなく、そのうちにしぼんでしまうのは間違いない。

【読み下し文】
富貴名誉(ふうきめいよ)の、道徳(どうとく)より来(き)たるものは、山林中(さんりんちゅう)の花(はな)の如(ごと)し。自(おの)ずから是(こ)れ舒徐(じょじょ)(※)繁衍(はんえん)(※)す。功業(こうぎょう)より来(き)たるものは、盆檻(ぼんかん)(※)中(ちゅう)の花(はな)の如(ごと)し。便(すなわ)ち遷徙(せんし)(※)廃興(はいこう)(※) 有(あ)り。若(も)し権力(けんりょく)を以(もっ)て得(う)るものは、瓶鉢中(へいはっちゅう)の花(はな)の如(ごと)し。其(そ)の根(ね)植(う)えざれば、其(そ)の萎(しぼ)むこと立(た)ちて待(ま)つべし。

(※)舒除……自ら枝葉が育つ。なお、新渡戸稲造の『武士道』に続く(ただし、これは英文の書)明治末の大ベストセラー『修養』のなかで本項を全文引用し、その所感をこう述べている。「名誉は人生の目的であるというたからとて、人はただちにこれに達することを、努むべきものであらぬと思われぬ。ただ名誉が来たら、これを受けるに恥じないだけの行為を自ら積むことが望ましい」。
(※)繁衍……しげる。しげ広がる。
(※)盆檻……植木鉢と花壇。
(※)遷徙……移しかえる。
(※)廃興……捨てる。

【原文】
富貴名譽、自衜德來者、如山林中芲。自是舒徐繁衍。自功業來者、如盆檻中芲。便有迁徙廢興。若以權力得者、如瓶鉢中芲。其根不植、其萎可立而待矣。

60 自分のためだけに生きる人間に価値はない


【現代語訳】
春になって気候もよくなると、花も一段と美しく咲き、鳥もまたいろいろと良い声でさえずる。なのに、教養ある良い士君子が、運良く頭角を現し、社会的に良い地位を得て恵まれた生活をし人生の春を迎えていながら人のためになる発言をしたり仕事をしたりしないとすれば、あまりにも情けない。こういう人間は、たとえ百年生きたとしても、一日生きた価値すらもないのと同じである。

【読み下し文】
春(はる)至(いた)り時(とき)和(やわ)らげば、花(はな)尚(な)お一段(いちだん)の好色(こうしょく)を鋪(し)き、鳥(とり)且(ま)た幾句(いくく)の好音(こういん)を囀(てん)ず。士君子(しくんし)(※)、幸(さいわ)いに頭角(とうかく)を列(つら)ね、復(ま)た温飽(おんぽう)(※)に遇(あ)うも、好言(こうげん)を立(た)て好事(こうじ)を行(おこな)うこと思(おも)わざれば、是(こ)れ世(よ)に在(あ)ること百年(ひゃくねん)なりと雖(いえど)も、恰(あたか)も未(いま)だ一日(いちにち)をも生(い)きざるに似(に)たり。

(※)士君子……君子とほぼ同じ意味だが、君子を少し持ち上げているニュアンスがある。もともと士も君子も立派な教養のある人格者のことであるが、このように重ねて言うこともある。また、単に「士人」という言い方もある。これも「君子」と同じような意味で用いられるようになった。「君子」「士人」も中国では「読書人」「学ぶ人」ともいわれ、いわゆる知識階級を指した。
(※)温飽……温衣飽食。衣食が満ち足りること。恵まれた生活。なお、『論語』の子罕第九にある「縕袍(おんぽう)」とは、貧しい人が着る綿入れ服のことで、ここの「温飽」とは違うことに注意。

【原文】
春至時和、芲尙鋪一段好色、鳥且囀幾句好音。士君子幸列頭角、復遇溫飽。不思立好言行好事、雖是在世百年、恰似未生一日。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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