第41回
118〜120話
2020.02.25更新
「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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118 他に学びながら本物の見識を追い求めていきたい
【現代語訳】
目新しいものに驚き、変わった珍しいものばかりを喜ぶ者は、遠大なる本物の見識を追い求めることのできないそれまでの人である。他に学ばず、自分のやり方に固執ばかりしている者は、効果が出ずにずっと長く続けて本質を追い求めない小さな志の人である。
【読み下し文】
奇(き)に驚(おどろ)き異(い)を喜(よろこ)ぶ者(もの)(※)は、遠大(えんだい)の識(しき)(※) 無(な)く、苦節独行(くせつどうこう)(※)の者(もの)は、恒久(こうきゅう)の操(そう)(※)に非(あら)ず。
(※)奇に驚き異を喜ぶ者……『論語』には、「異端(いたん)を攻(おさ)むるは、斯(こ)れ害(がい)あるのみ」(為政第二)とある。
(※)遠大の識……遠大なる本物の見識。
(※)苦節独行……『論語』にも、「学(まな)んで思(おも)わざれば則(すなわ)ち罔(くら)し。思(おも)って学(まな)ばざれば則(すなわ)ち殆(あや)うし」(為政第二)とある。
(※)恒久の操……ずっと長く続けて本質を追い求める志。高い節操。
【原文】
驚奇喜異者、無遠大之識、苦節獨行者、非恒久之操。
119 どんなに怒り欲情が沸き立っても、冷静に思い返せるもう一人の自分を持つ
【現代語訳】
烈火のような怒りと洪水のような欲情が沸き立ったとき、我が心はそれを気づき知っていながらも、つい誤った行動を犯してしまう。このとき気づき知っているのは誰なのか。また、知っていながら愚行を犯すのは誰なのか。ここでふと、しっかりと思い返すことができたならば、邪念はたちまち消え去り、自分の本当の良心が表れてくるはずだ。
【読み下し文】
怒火慾水(どかよくすい)の正(まさ)に騰沸(とうふつ)するの処(ところ)に当(あ)たりて、明明(めいめい)に知得(ちとく)し、又(また)明明(めいめい)に犯着(はんちゃく)す。知(し)る的(もの)は是(こ)れ誰(だれ)ぞ、犯(おか)す的(もの)は又(また)是(これ)誰(だれ)ぞ。此(こ)の処(ところ)能(よ)く猛然(もうぜん)(※)として念(ねん)を転(てん)ずれば、邪魔(じゃま)(※)便(すなわ)ち真君(しんくん)(※)と為(な)らん。
(※)猛然……急に。ふと。
(※)邪魔……邪念。ここでは怒火慾水を指す。
(※)真君……自分の本当の良心。ちなみに英語の「conscience」は、「良心」も「ともに科学する」「一緒に知る」ということからきている。つまり、本項と同じくもう一人の自分の心が正しく思い返させる力を持つことが「良心」と考えるのであろう。
【原文】
當怒火慾水正騰沸處、明明知得、又明明犯着。知的是誰、犯的又是誰。此處能猛然轉念、邪魔便爲眞君矣。
120 片一方だけを信じてはいけない
【現代語訳】
一方だけを信用して、悪賢い人間に欺かれてはならない。自分にうぬぼれて自信を持ちすぎ、突っ走ってはならない。自分の長所を自慢することで、他人の短所を暴いてはならない。自分ができないからといって、他人の才能をねたんではいけない。
【読み下し文】
偏信(へんしん)(※)して奸(かん)(※)の欺(あざむ)く所(ところ)と為(な)ること毋(な)かれ。自任(じにん)(※)して気(き)の使(つか)う所(ところ)と為(な)る毋(な)かれ。己(おのれ)の長(ちょう)を以(もっ)て人(ひと)の短(たん)を形(あらわ)すこと毋(な)かれ。己(おのれ)の拙(せつ)に因(よ)りて人(ひと)の能(のう)を忌(い)むこと毋(な)かれ。
(※)偏信……一方だけを信用する。
(※)奸……悪賢い人間。
(※)自任……自分にうぬぼれる。
【原文】
毋偏信而爲奸所欺。毋自任而爲氣所使。毋以己之長而形人之短。毋因己之拙而忌人之能。
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