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第70回

205〜207話

2020.04.07更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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205 人の評判はあてにならない。必ず自分で確かめること


【現代語訳】
人の悪い評判を聞いて、すぐその人を憎んではいけない。なぜなら、それは他人の悪口を讒言するくせの人が、ただ自分の怒りをはらすために言ったものかもしれないからだ。逆に人の良い評判を聞いて、急にその人に親しむというようなことをしてはいけない。なぜなら、それは悪賢い人が自分を売り込むために言っているのかもしれないからだ。

【読み下し文】
悪(あく)を聞(き)いては、就(すなわ)ち(※)悪(にく)むべからず。恐(おそ)らくは讒夫(ざんふ)の怒(いか)りを洩(も)らすを為(な)さん。善(ぜん)を聞(き)いては、急(きゅう)に親(した)しむべからず。恐(おそ)らくは奸人(かんじん)(※)の身(み)を進(すす)むるを引(ひ)かん(※)。

(※)就ち……すぐに。
(※)奸人……悪賢い人。
(※)引かん……売り込む。相手を誘引する。なお、『論語』で孔子も次のように言っている。「衆(しゅう)、之(これ)を悪(にく)むは、必(かなら)ず焉(これ)を察(さっ)し、衆(しゅう)、之(これ)を好(この)むも、必(かなら)ず焉(これ)を察(さっ)す」(衛霊公第十五)つまり、本項と同じく人の評詳はあてにしてはならず、自分で確かめよというのである。

【原文】
聞惡、不可就惡。恐爲纔夫洩怒。聞善、不可急親。恐引奸人進身。

 

206 心がなごやかで気持ちが平静な人には良いことがたくさん集まる


【現代語訳】
性格がせっかちで心が粗雑な人は、何をやってもうまくいかない。心がなごやかで気持ちが平静な人は、良いことが(幸福が)いっぱい集まってくる。

【読み下し文】
性燥(せいそう)(※)に心(こころ)粗(そ)(※)なる者(もの)は、一事(いちじ)も成(な)ること無(な)し。心(こころ)和(わ)し気(き)平(たい)らかなる者(もの)は、百福(ひゃくふく)(※)自(おの)ずから集(あつ)まる。

(※)性燥……性格がせっかち。
(※)粗……粗雑。
(※)百福……多くの良いこと。多くの幸福。ちなみに日清食品の創業者は安藤百福という。ただし、「ももふく」と読んだらしい。百福は、若いときから苦難の連続で、あるときはワナにはまり、憲兵部隊に捕まった。このとき拷問を受け、絶食を決意するが、「私の心は、何か透明な感じで食というものに突き当たった」(『安藤百福 私の履歴書 魔法のラーメン発明物語』安藤百福著 日経ビジネス人文庫)という。安藤は百福の名の通り、どんなときでも「心和し気平らかなる者」であり、後に良いことがいっぱい集まってきた。

【原文】
性燥心粗者、一事無成。心和氣平者、百福自集。

 

207 友人はよく選んで付き合う


【現代語訳】
人を用いるには、心冷たくて厳しすぎるようではいけない。こうした扱いをするようだと、やる気のある良い人も逃げ出していく。友人と付き合うには、誰でもいいというわけにはいかず、ちゃんと選ばなくてはいけない。そうしないで誰とでも付き合うと、媚びへつらう者など悪影響を及ぼす者も集まってくる。

【読み下し文】
人(ひと)を用(もち)うるには、宜(よろ)しく刻(こく)(※)にすべからず。刻(こく)なれば則(すなわ)ち効(こう)を思(おも)う者(もの)(※)も去(さ)る。友(とも)に交(まじ)わるには、宜(よろ)しく濫(らん)(※)にすべからず。濫(らん)なれば則(すなわ)ち諛(ゆ)を貢(こう)する(※)者(もの)も来(き)たる。

(※)刻……心冷たくて厳しい。なお、本項の解釈については、本書の前集160条参照。
(※)効を思う者……やる気のある良い人。尽力しようと思う人。
(※)濫……誰でもいい。みだりに。わけもなく。本項の解釈については、本書の『論語』で孔子は益する友人と損する友人の例を三つずつ挙げている。すなわち「直(なお)きを友(とも)とし、諒(まこと)あるを友(とも)とし、多聞(たもん)を友(とも)とするは益(えき)なり。便辟(べんべき)を友(とも)とし、善柔(ぜんじゅう)を友(とも)とし、便佞(べんねい)を友(とも)とするは損(そん)なり」(季氏第十六)。このなかで「善柔」はへつらうだけの人といえるだろう。「便佞」も口先だけの人で、いつもうまいことを言う人をいう。吉田松陰はさらに師も慎重に選べと言う。「徳(とく)を成(な)し材(ざい)を達(たっ)するには、師恩友益(しおんゆうえき)多(おお)きに居(お)り。故(ゆえ)に君子(くんし)は交遊(こうゆう)を慎(つつし)む」(士規七則)。本項の解釈については、本書の前集192条、195条参照。
(※)諛を貢する……へつらう。

【原文】
用人、不宜刻。刻則思効者去。交友、不宜濫、濫則貢諛者來。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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