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第71回

208〜210話

2020.04.08更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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208 信念の強さ、見失うことのない高い見地、柔軟な決断力


【現代語訳】
風が横なぐりに吹き、雨が激しいところでは、足でしっかりと大地を踏みしめて立つ必要がある。花があざやかに咲き、柳が緑美しいときには、目を奪われて心を乱さないように、高い見地から見渡す必要がある。道が危うく、小道も険しいようなところでは、早く考え直してひき返すことが必要である。

【読み下し文】
風(かぜ)斜(なな)めに雨(あめ)急(きゅう)なる処(ところ)は、脚(あし)を立(た)て得(え)て定(さだ)めん(※)ことを要(よう)す。花(はな)濃(こま)やかに柳(やなぎ)艶(えん)なる処(ところ)は、眼(め)を着(つ)け得(え)て高(たか)からん(※)ことを要(よう)す。路(みち)危(あや)うく径(みち)険(けわ)しき処(ところ)は、頭(こうべ)を回(めぐ)らし得(え)て早(はや)からん(※)ことを要(よう)す。

(※)立て得て定めん……足を大地にしっかりと立てる。信念の強さを表している。
(※)着け得て高からん……高い見地を持つ。見地の高さを失わないことを表している。
(※)回らし得て早からん……考え直して早く引き返す。柔軟な決断力を表している。本項を通じて『菜根譚』が言いたいことは、しっかりと正しい目標を立て、信念を貫き、揺るがない精神を持っておくことが大切であるということだ。また、そうすることで臨機応変の正しい対応力も生まれるとする。著者の洪自誠のほんの少し前の人であるフランスのモンテーニュもこう言っている。「心は正しい目標を欠くと、偽りの目標にはけ口を求める」。

【原文】
風斜雨急處、要立得脚定。芲濃柳艷處、要着得眼高。路危徑險處、要回得頭早。

 

209 心のなかからうちとけ、謙遜の徳を積む


【現代語訳】
節操が固く、人の生き方に万事うるさい人は、心のなかからうちとけた人との接し方を身につけると良い。そうすれば、怒って争うこともしなくなる。功名心の強すぎる人は、謙遜の徳を身につけると良い。そうすれば、人にねたまれることになる原因をつくらなくて済む。

【読み下し文】
節義(せつぎ)の人(ひと)は、済(すく)うに和衷(わちゅう)(※)を以(もっ)てせば、纔(わず)かに忿争(ふんそう)(※)の路(みち)を啓(ひら)かず。功名(こうみょう)の士(し)は、承(う)くるに謙(けん)徳(とく)を以(もっ)てせば、方(はじ)めて嫉妬(しっと)の門(もん)を開(ひら)かず。

(※)和衷……心のなかからうちとけている。なお、『論語』で孔子は、「君子(くんし)は泰(やす)くして驕(おご)らず。小人(しょうじん)は驕(おご)りて泰(やす)からず」(子路第十三)と述べている。「泰」(「たい」または「やす」と読む)とは、どっしり、ゆったり、のびのびとしているという意味である。
(※)忿争……怒って争うこと。

【原文】
節義之人、濟以和衷、纔不諬忿爭之路。功名之士、承以謙德、方不開嫉妬之門。

 

210 官や公にあるときと、野にあるときの心得


【現代語訳】
他人に注目される仕事の人や公人のような立場にいる人は、手紙などにも気を使わなければならない。それは、他人に自分の心を見すかされないようにし、そしてつまらない人を喜ばせ利用させないようにするためである。しかし、その立場でなくなった後、郷里に戻ったときなどには、昔気どりにお高くとまっていてはならない。ざっくばらんに旧交を温められるようにしたいものだ。

【読み下し文】
士大夫(したいふ)、官(かん)に居(お)りては、竿牘(かんとく)(※)も節(せつ)無(な)かるべからず。人(ひと)をして見(み)難(がた)からしめて、以(もっ)て倖端(こうたん)(※)を杜(ふさ)がんことを要(よう)す。郷(きょう)に居(お)りては、崕岸(がいがん)太(はなは)だ高(たか)かる(※)べからず。人(ひと)をして見(み)易(やす)からしめて、以(もっ)て旧好(きゅうこう)を敦(あつ)くせんことを要(よう)す。

(※)竿牘……手紙。文書。現在ではメールやツイッターなども含まれる。
(※)倖端……思いがけない喜びのきっかけ。思いがけないチャンス。
(※)崕岸太だ高かる……昔気どりにお高くとまっている。がけや岸が大変高いことから、とても気どってお高くとまっていることを指している。本項の解釈については、本書の前集174条を参照。

【原文】
士大夫、居官不可竿牘無節。要使人難見、以杜倖端。居鄕、不可崕岸太高。要使人易見、以敦舊好。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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