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第84回

25〜27話

2020.04.27更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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25 一歩下がって歩く生き方であれば安全でいられる


【現代語訳】
人と争って小路を一歩先に行こうとすると、その道は狭いので通りにくくなる。そこで人より一歩下がって行くようにすると、一歩の分だけ道は広くなり安全に行けるようになる。また、どんなにおいしいと思っても、その味が濃いものだと、すぐにあきる。そこで味を一分だけ清く薄めると、その分だけおいしさを長く楽しめるようになる。

【読み下し文】
先(さき)を争(あらそ)うの径路(けいろ)は窄(せま)し、退(しりぞ)き後(おく)るること一歩(いっぽ)なれば、自(おの)ずから一歩(いっぽ)を寛平(かんぺい)(※)にす。濃艶(のうえん)の滋味(じみ)は短(みじか)し、清淡(せいたん)(※)なること一分(いちぶ)なれば、自(おの)ずから一分(いちぶ)を悠長(ゆうちょう)にす。

(※)寛平……広く平らか。広く安全。なお、前集13条も本項と似たことを述べている。
(※)清淡……清く薄める。

【原文】
爭先的徑路窄、退後一步、自寛平一步。濃艷的滋味短、淸淡一分、自悠長一分。

 

26 いざというとき取り乱さないようにしておく


【現代語訳】
忙しいときに自分の本性を取り乱さないようにしたいと思うなら、普段の時間のあるときから心を養い、精神を鍛えておくべきである。また、死ぬ間際になって取り乱したくなかったら、普段から物事の道理や死生のことをわかっておくようにしなければならない。

【読み下し文】
忙処(ぼうしょ)に性(せい)を乱(みだ)さざらん(※)とせば、須(すべか)らく間処(かんしょ)に心神(しんしん)を養(やしな)い得(え)て清(きよ)かるべし。死時(しじ)に心(こころ)を動(うご)かさざらんとせば、須(すべか)らく生時(せいじ)に事物(じぶつ)を看(み)得(え)て破(やぶ)る(※)べし。

(※)性を乱さざらん……自分を乱さないようにしたい。本性を取り乱さない。なお、『論語』において孔子は、「仁」をキーワードとして次のように言う。「君子(くんし)は終食(しゅうしょく)の間(あいだ)にも仁(じん)に違(たが)うこと無(な)し。造次(ぞうじ)にも必(かなら)ず是(ここ)に於(お)いてし、顚沛(てんぱい)にも必(かなら)ず是(ここ)に於(お)いてす」(里仁第四)。
(※)事物を看得て破る……物事の道理や死生のことをわかっておく。なお、『論語』では、孔子は死についてはよくわからないとし次のように述べている。「未(いま)だ生(せい)を知(し)らず、焉(いずく)んぞ死(し)を知(し)らん」(先進第十一)。ただし、他の箇所で死は天の命ずるところと(天命)考えていたことが示唆されている。例えば、「之(これ)を亡(うしな)わん。命(めい)なるかな」(雍也第六)と言っているし、弟子の子夏の言葉であるが「死生(しせい)、命(めい)有(あ)り」(顔淵第十二)とある。この延長線上に幕末の佐藤一斎は天にまかせているのだから「吾(わ)れ何(なん)ぞ畏(おそ)れむ」(『言志四録』)とあっさりとしている。

【原文】
恾處不亂性、須閒處心神養得淸。死時不動心、須生時事物看得破。

 

27 道義を守って生きれば、人の態度は気にならない


【現代語訳】
世俗を離れて山林に生活すれば、栄誉や恥辱といった人間関係のわずらわしさはなくなる。また、たとえ都会で世俗のなかで暮らしていたとしても、道義を守って、自分の正しいと思う生き方に徹すれば、人が温かろうが、冷たかろうが、それはどうでもよい境地になり、心を平穏にして生きていける。

【読み下し文】
隠逸(いんいつ)(※)の林中(りんちゅう)には栄辱(えいじょく)無(な)く、道義(どうぎ)の路上(ろじょう)には炎涼(えんりょう)(※) 無(な)し。

(※)隠逸……世俗から逃れる生活。いわゆる隠者は孔子の時代にはすでにその思想の対立者であり、生き方の違う者として『論語』にも登場する(儒教は政治社会と強くかかわり、世のなかをよくしていこうとする。これに対して隠者は世俗から離れ、隠れ住んで自然とともに生きようと考える)。その流れに『老子』や『荘子』のいわゆる老荘思想そして道教があり、ざっと二千数百年の歴史がある。隠者ではないが、それに強いシンパシーを持つ日本の『徒然草』の兼好法師は、13〜14世紀の人で、約七百年前の人だし、隠者の思想にも魅かれている『菜根譚』の洪自誠は16〜17世紀の人で、約四百年前の人である。また、アメリカの古典とされるヘンリー・D・ソローの『森の生活』は、わずか百数十年前に書かれたものである。若いときの一時ではあるが、洪自誠の言うような隠逸の生活を実践した記録が有名な『森の生活』である。そのソローの言葉は、まるで『菜根譚』のようでもある。『森の生活』も『菜根譚』と同じように日本で根強いファンがいる。その言葉を一つ紹介する。「あなたの生活をシンプルにしていくと、宇宙の法則もシンプルなものとなる。孤独は孤独でなくなり、貧しさは貧しさでなくなり、弱さは弱さでなくなる」。
(※)炎涼……人が温かかったり冷たかったりすること。

【原文】
隱逸林中無榮辱、衜義路上無炎涼。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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