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KEEP MOVING 限界を作らない生き方  武藤将胤

第19回

分身ロボットで遠隔授業

2018.08.02更新

読了時間

【 この連載は… 】 「ALS(筋萎縮性側索硬化症)」という難病をご存知ですか? 意識や五感は正常のまま身体が動かなくなり、やがて呼吸困難を引き起こす指定難病です。2014年の「アイスバケツ・チャレンジ」というパフォーマンスで目にした方も多いでしょう。あれから約4年経過した現在、まだ具体的な解決法はありません。本連載では、27歳でALSを発症した武藤将胤さんの「限界を作らない生き方」を紹介します。日々、身体が動かなくなる制約を受け入れ、前に進み続ける武藤さん。この困難とどう向き合っていくのか、こうご期待!
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分身ロボットで遠隔授業

 この課外授業が終わった後、生徒たちからたくさんのメッセージをもらいました。刺激を受けたというもの、勇気が出たというもの、いろいろありました。
 先生方も喜んでくださり、2017年もまたオファーがありました。
 今回、僕がテーマに選んだのは、「バリアフリーのデザインを一緒に考えよう」というもの。みんなからバリアフリーのアイディアを出してもらい、どうしたらそれが実現できるか一緒に考える授業をやりました。

 4回にわたって行ったのですが、僕自身が入院のため、どうしても群馬まで行くことができない日があったので、そのときは東京から遠隔授業をすることにしました。
 これが可能になったのは、仲間のロボットコミュニケーター、オリィ研究所所長の「オリィくん」こと吉藤健太朗さんの開発した分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」のおかげです。
「OriHime」は体長20センチちょっと、重さは600グラムもないという小型ロボットです。カメラ、マイク、スピーカーが搭載されており、行きたいところに行けない人が、自分の代わりにその場に行かせ、インターネットを通して現場とコミュニケーションをとることができます。
 カメラで向こうの様子をつぶさに見ることができ、音も伝わってきます。マイクを通じて自分で話すこともできますし、こちらから伝えたいことを視線入力などでメッセージを打てば、音声合成で読み上げてくれます。また、首や腕を動かして、感情表現もできるのです。
 ALSの患者さんの間では、「OriHime」はかなりの人気者で、活用している方がたくさんいます。コミュニケーション手段が減っていってしまうALS患者さんにとって、孤独に陥らないための力強い味方です。
 僕も、東京にいながらにして群馬の中学校の生徒たちとコミュニケーションをとって課外授業を進められたことは、エキサイティングで楽しい経験でした。
「OriHime」は、僕らのように病気や障害のある人たちにとってうれしい存在であるのはもちろんですが、健常者の方たちをサポートすることにも役立ちます。
 たとえば、子育て中で会社に出勤できない在宅ワーカーの方や、地方や海外など、遠方でのお仕事が多い方などにも、幅広く活用されています。
 そこで、オリィ研究所と僕ら「WITH ALS」との共同で、「働くTECH LAB」と称し、ロボットテレワークの可能性を開拓するプロジェクトも推進することにしました。
 いろいろなつながり、絆が、どんどん拡がっています。

© WITH ALS

中学生の自分に教えてやりたかったこと

「好きなことを自分の軸にして前進していくことが大事だ」というメッセージは、僕自身、「中学生の頃の自分に教えてやりたかったなあ」とずっと思っていたことなのです。
 中学時代の僕は、基本的に勉強が好きではありませんでした。自分が好きなこと、面白いと思えることはものすごく熱中してできるのですが、勉強に対してはそういう気持ちになれませんでした。テスト勉強なんかは、とくにやる気になれなかったタイプです。親に「勉強しなさい」と言われても、「なんで?テストでいい点を取ることに、何の意味があるのかわからない」と思っていました。
 高校生になってもそんな姿勢は変わらず、勉強から現実逃避したい気持ちもあって、自分の好きなこと、スポーツとか、音楽とか、洋服とかのほうにハマっていきました。好きなことに熱中していると、自分らしさを実感できました。
 そのまま大学受験の季節を迎え、僕は失敗します。1年浪人させてもらったのですが、またも失敗、志望校に受からなかった、つまり結果が出せなかったのです。
 私立の附属高校に行っていたので、そのまま大学に進むこともできたのですが、自分の可能性を拡げたいと思って受験する道を選択し、浪人までしたわけです。にもかかわらず結果を出せなかった、これは人生で初めての大きな挫折体験でした。
 そのとき父が僕にかけてくれたのが、
「失敗から学べ。これからどうしていくか次第で、それは失敗ではなくなる」
 という言葉でした。
 ハッとさせられました。第一志望の大学には入れなかったけれど、これからの大学生活を思いっきり充実させられたら、この経験を糧に、挽回すること、成長することができる──そう気づかされたのです。

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著者

武藤将胤

1986年ロサンゼルス生まれ、東京育ち。難病ALS患者。一般社団法人WITH ALS 代表理事、コミュニケーションクリエイター、EYE VDJ。また、(株)REBORN にて、広告コミュニケーション領域における、クリエイティブディレクターを兼務。過去、(株)博報堂で「メディア×クリエイティブ」を武器に、さまざまな大手クライアントのコミュニケーション・マーケティングのプラン立案に従事。2013年26歳のときにALS を発症し、2014年27歳のときにALSと宣告を受ける。現在は、世界中にALSの認知・理解を高めるため「WITH ALS」を立ち上げテクノロジー×コミュニケーションの力を駆使した啓発活動を行う。本書『KEEP MOVING 限界を作らない生き方』が初の著書となる。

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