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第100回

243〜244話

2021.08.16更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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32‐1 聖人といわれる人も同じ人間である


【現代語訳】
(斉の人である)儲子は尋ねた。「我が国の王が人をやって先生の様子をうかがって見させているそうです(先生が人と違うところがあるか確かめるため)。果たして先生は、人と異なったところがあるのでしょうか」。孟子は答えた。「何で私が人と異なったところがありましょうか。昔の聖人である堯・舜でさえ、人とは変わりはないのです」。

【読み下し文】
儲子(ちょし)曰(いわ)く、王(おう)(※)、人(ひと)をして夫子(ふうし)を矙(うかが)わしむ。果(は)たして以(もっ)て人(ひと)に異(こと)なる有(あ)るか。孟子(もうし)曰(いわ)く、何(なに)を以(もっ)て人(ひと)に異(こと)ならんや。堯(ぎょう)・舜(しゅん)も人(ひと)と同(おな)じきのみ。

(※)王……儲子が斉の人とされているので、斉王と思われる。
(※)矙わしむ……様子をうかがって見させている。斉王が、こっそりと様子をうかがわせ、孟子が常人と違っているところを調べているということは、それだけ孟子は著名な人であり、また変わった才人ということで世に知られていたのであろう。孟子も堯・舜と同じように普通の人間であると言っているのは、自分の志の大きさと、自信、自負の強さを感じることができる。

【原文】
儲子曰、王、使人矙夫子、果有以異於人乎、孟子曰、何以異於人哉、堯・舜與人同耳。

 

33‐1 富貴利達ばかりを求めて生きる人にはなりたくない


【現代語訳】
ある斉の人で、一人の妻と一人の妾と一緒に暮らしている者があった。この夫が外出すると、いつも必ず酒や肉のごちそうで腹いっぱいにして帰ってきた。妻が誰と飲食をするのかと問うと、その相手は皆、富貴の人ばかりであった。そこで妻は妾に告げた。「だんな様は、お出かけになると、必ず酒や肉で腹いっぱいにして帰ってこられます。そして一緒に飲食した相手を聞くと、皆富貴の方たちばかりです。しかし、そんな身分の高い人たちが、家に来たことはありません。(少し変なので)、私は、だんな様が出かけるとき、あとをつけてみます」。こうして朝早くに起きて、夫のあとを見え隠れしながらつけていった。すると夫は町中を歩き回っているが、誰一人、立ち話するふうでもない。そうしているうちに、とうとう夫は東の郊外にある墓場で墓前祭をしている者のところに行って、祭りの残り物をもらっている。足りないと、またまわりを見渡してほかの墓前祭をしている者のところに行って飲食した。これが夫の満腹にする方法だったのだ。その妻は家に帰って、妾に告げて言った。「だんな様というのは、一生の間、尊敬し仰ぎ望んでいく存在です。しかし、うちのだんな様はこんなことをしていた人だなんて」。そして、妻はその妾と一緒に、夫を怨みののしって中庭で泣いていた。しかし、そんなことも知らずに、夫は、意気揚々と外から帰ってきた。そして妻と妾に例のごとく自慢したのである。孟子は言った。「君子の目から見ると、人が富貴利達を求めて生きる姿というのは、この斉人のようである。もし、その妻妾が実態を見たならば、恥じて泣かない者は、ほとんどおるまい」。

【読み下し文】
斉人(せいひと)、一妻(いっさい)一妾(いっしょう)にして室(しつ)に処(お)る者(もの)有(あ)り。其(そ)の良人(りょうじん)(※)出(い)づれば、則(すなわ)ち必(かなら)ず酒肉(しゅにく)に饜(あ)き(※)て而(しか)る後(のち)に反(かえ)る。其(そ)の妻(つま)与(とも)に飲食(いんしょく)する所(ところ)の者(もの)を問(と)えば、則(すなわ)ち尽(ことごと)く富貴(ふうき)なり。其(そ)の妻(つま)其(そ)の妾(しょう)に告(つ)げて曰(いわ)く、良人(りょうじん)出(い)づれば、則(すなわ)ち必(かなら)ず酒肉(しゅにく)に饜(あ)きて而(しか)る後(のち)に反(かえ)る。其(そ)の与(とも)に飲食(いんしょく)する者(もの)を問(と)えば、尽(ことごと)く富貴(ふうき)なり。而(しか)も未(いま)だ嘗(かつ)て顕者(けんしゃ)(※)の来(き)たること有(あ)らず。吾(わ)れ将(まさ)に良(りょう)人(じん)の之(ゆ)く所(ところ)を矙(うかが)わんとす、と。蚤(つと)(※)に起(お)き、良人(りょうじん)の之(ゆ)く所(ところ)に施(い)従(じゅう)(※)す。国中(こくちゅう)を徧(あまね)くするも、与(とも)に立(た)って談(だん)ずる者(もの)無(な)し。卒(つい)に東郭(とうかく)播間(はんかん)(※)の祭(まつ)る者(もの)に之(ゆ)きて、其(そ)の余(あま)りを乞(こ)う。足(た)らざれば、又(また)顧(かえり)みて他(た)に之(ゆ)く。此(こ)れ其(そ)の饜足(えんそく)を為(な)すの道(みち)なり。其(そ)の妻(つま)帰(かえ)り、其(そ)の妾(しょう)に告(つ)げて曰(いわ)く、良人(りょうじん)なる者(もの)は、仰(あお)ぎ望(のぞ)みて身(み)を終(お)うる所(ところ)なり。今(いま)此(かく)の若(ごと)し、と。其(そ)の妾(しょう)と与(とも)に其(そ)の良人(りょうじん)を訕(そし)りて、中庭(ちゅうてい)に相(あい)泣(な)く。而(しか)るに良人(りょうじん)は未(いま)だ之(これ)を知(し)らざるなり。施施(しし)として(※)外(そと)従(よ)り来(き)たり、其(そ)の妻妾(さいしょう)に驕(おご)れり。君子(くんし)由(よ)り之(これ)を観(み)れば、則(すなわ)ち人(ひと)の富貴(ふうき)利達(りたつ)(※)を求(もと)むる所以(ゆえん)の者(もの)、其(そ)の妻妾(さいしょう)羞(は)じず、而(しか)も相(あい)泣(な)かざる者(もの)、幾(ほと)んど希(まれ)なり。

(※)良人……夫。
(※)饜き……腹いっぱい。飽きるほど。
(※)顕者……富貴の人。身分の高く、お金持ちの人。
(※)蚤……ここでは、早朝。「蚤」は「そう」とも読み、のみ(虫の名)、早い、つとに(早く)などの意味がある。
(※)施従……見え隠れしながら、あとをつけること。
(※)東郭播間……東の郊外にある墓場で。「郭」は郊外、「播」は墓のこと。
(※)施施として……意気揚々と。とてもうれしそうにして。
(※)富貴利達……お金持ちで地位が高く、利益を得て立身出世している。なお、君子以下は昔から「孟子曰く」があったとされている。本章は、痛快でもあるが、孟子らしく私たちにグサリとくることを述べているところである。吉田松陰も言っているが、この夫のような人物ばかりだと国家社会はどうしようもなくなる。かといってほとんどの人は妻子を食べさせていくために、いわゆる〝宮仕え〟のなかで、多くの我慢をしながら生きているのも真実である。ただ、孟子、松陰の言いたいこともよくわかる。だから、私たちは少なくても一点の志、腹に秘めた富貴利達だけでない自分の正しい思い、正しい生き方を持っていたいものだと思う。日本の明治維新の実現も、こういう人たちが多くいたから実現できたのであろう。これはほかの国にはあまり見られない日本人の美点である。

【原文】
齊人、有一妻一妾而處室者、其良人出、則必饜酒肉而後反、其妻問所與飮⻝者、則盡富貴也、其妻吿妾曰、良人出、則必饜酒肉而後反、問其與飮⻝者、盡富貴也、而未嘗有顯者來、吾將矙良人之所之、蚤起、施從良人之所之、徧國中、無與立談者、卒之東郭墦閒之祭者、乞其餘、不足、又顧而之他、此其爲饜足之衜也、其妻歸吿其妾曰、良人者、所仰望而終身也、今若此、與其妾訕其良人、而相泣於中庭、而良人未之知也、施施從外來、驕其妻妾、由君子觀之、則人之所以求富貴利逹者、其妻妾不羞也、而不相泣者、幾希矣。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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