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第142回

338話〜339話

2021.10.18更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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9‐1 富国強兵策より王道政治を目指せるのが良臣である

【現代語訳】
孟子は言った。「今、君に仕えている者は、言う。『私は、君のために良く土地を開墾して租税を増収して、府庫を満たしている』と。こういう人を良臣などと言っているが、昔はこれを民をしいたげる民の賊とした。君が正しい道に向かわず、仁に志さないのに、それを正そうともせず、かえって富まそうとする。これはまさに暴君桀王を富ますようなものである。また、君に仕えている者は、『私は、うまく君のために同盟国を約してつくり、戦争すれば必ず勝つのだ』と言う。こういうのを良臣だと今の人は言うが、これは昔で言えば、民の賊である。君が正しい道に向かわず、仁に志さないのに、それを正そうともせず、かえって君のために戦おうとする。これはまさに暴君桀王を助けるようなものである。今のような間違った道を進み、間違った風俗を改めていかないと、たとえこうした君に天下を与えたとしても、一日もその地位にいることはできないだろう」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、今(いま)の君(きみ)に事(つか)うる者(もの)は曰(いわ)く、我(われ)能(よ)く君(きみ)の為(ため)に土地(とち)を辟(ひら)き(※)、府庫(ふこ)を充(み)たす、と。今(いま)の所謂(いわゆる)良臣(りょうしん)は、古(いにしえ)の所謂(いわゆる)民(たみ)の賊(ぞく)なり。君(きみ)、道(みち)に郷(むか)わず(※)、仁(じん)に志(こころざ)さざるに、而(しか)も之(これ)を富(と)まさんことを求(もと)む。是(こ)れ桀(けつ)を富(と)ますなり。我(われ)能(よ)く君(きみ)の為(ため)に与国(よこく)を約(やく)し(※)、戦(たたか)えば必(かなら)ず克(か)つ、と。今(いま)の所謂(いわゆる)良臣(りょうしん)は、古(いにしえ)の所謂(いわゆる)民(たみ)の賊(ぞく)なり。君(きみ)、道(みち)に郷(むか)わず、仁(じん)に志(こころざ)さざるに、而(しか)も之(これ)が為(ため)に強戦(きょうせん)(※)せんことを求(もと)む。是(こ)れ桀(けつ)を輔(たす)くるなり。今(いま)の道(みち)に由(よ)り、今(いま)の俗(ぞく)を変(へん)ずること無(な)くば、之(これ)に天下(てんか)を与(あた)うと雖(いえど)も、一朝(いっちょう)(※)も居(お)ること能(あた)わざるなり。

(※)辟き……土地を開墾して。
(※)郷わず……向かわず。
(※)与国を約し……同盟国を約してつくり。
(※)強戦……離婁(上)第十四章参照。
(※)一朝……一日。わずかの間。

【原文】
孟子曰、今之事君者曰、我能爲君辟土地、充府庫、今之所謂良臣、古之所謂民賊也、君、不郷道、不志於仁、而求富之、是富桀也、我能爲君約與國、戰必克、今之所謂良臣、古之所謂民賊也、君、不郷道、不志於仁、而求爲之強戰、是輔桀也、由今之道、無變今之俗、雖與之天下、不能一朝居也。

10‐1 適正な税率のすすめ

【現代語訳】
白圭は言った。「私は税金をずっと軽くして、二十分の一の税にしたら良いと思います。どう思いますか」。孟子は言った。「あなたの考えるやり方は、北方蛮族(北方の野蛮な国)のやり方です。ここに一万軒からなる国があるとして、その国にたった一人の陶工がいて、陶器をつくるとしたら、それで十分だと思いますか」。白圭は言った。「それは無理です。一人の陶工がつくる陶器ではまったく足りません」。そこで孟子は言った。「北方蛮族である貉の国は、寒冷の地で五穀が育たず、わずかに黍(きび)だけが育つのです。そして、城郭や宮室もなく、宗廟、祭祀の礼も行われず、諸侯間で交わされる進物や賓客の饗応なども必要なく、多くの役人もいなくていいのです。ですからに二十分の一の税率でも間に合うのです。しかし、私たちは中国、すなわち文化の中心地にいますが、人としての礼儀を捨て去り、役人もおかないようにしていいわけにはまいりません。陶工が少なくても国はうまくはいかないというのに、役人たちがいなくてはうまくいくわけがありません。そのためには、それなりの費用が必要であり、堯・舜のやり方より(十分の一税)、軽くしようとするのは、大なり、小なり野蛮な貉の国の道をいこうとするものであり、逆にそれより重い税を取ろうとするのは、大なり小なり暴君桀王の道をいこうとするものといえます」。

【読み下し文】
白圭(はくけい)(※)曰(いわ)く、吾(わ)れ二十(にじゅう)にして一(いつ)を取(と)らんと欲(ほっ)す。如何(いかん)。孟子(もうし)曰(いわ)く、子(し)の道(みち)は、貉(はく)の道(みち)なり。万室(ばんしつ)の国(くに)、一人(いちにん)陶(とう)すれば則(すなわ)ち可(か)ならんか。曰(いわ)く、不可(ふか)なり。器用(きもち)うるに足(た)らざればなり。曰(いわ)く、夫(そ)れ貉(はく)は、五穀(ごこく)生(しょう)せず、惟(ただ)黍(しょ)のみ之(これ)に生(しょう)ず。城郭(じょうかく)・宮室(きゅうしつ)・宗廟(そうびょう)・祭祀(さいし)の礼(れい)無(な)く、諸侯(しょこう)の弊帛(へいはく)(※)・饔飧(ようそん)(※)無(な)く、百官(ひゃっかん)・有司(ゆうし)無(な)し。故(ゆえ)に二十(にじゅう)にして一(いつ)を取(と)るも足(た)れり。今(いま)や中国(ちゅうごく)に居(お)り、人倫(じんりん)を去(さ)り、君子(くんし)無(な)くんば、之(これ)を如何(いか)にして其(そ)れ可(か)ならん。陶(とう)の以(もっ)て寡(すくな)きすら、且(か)つ以(もっ)て国(くに)を為(おさ)むべからず。況(いわ)んや君子(くんし)無(な)きをや。之(これ)を堯(ぎょう)・舜(しゅん)の道(みち)より軽(かる)くせんと欲(ほっ)する者(もの)は、大貉(だいはく)・小貉(しょうはく)なり。之(これ)を堯(ぎょう)・舜(しゅん)の道(みち)より重(おも)くせんと欲(ほっ)する者(もの)は、大桀(だいけつ)・小桀(しょうけつ)なり。

(※)白圭……史記貨殖伝にある有名な白圭とは別の人物とする説が多い。吉田松陰も初めは朱子の説明で、同一人物と思っていたようだが、後に別人と判断し、そのうえで、次章の白圭の言でもわかるように大言壮語の実効性なき議論をする人と見て、孟子の批判を理解している(『講孟箚記』)。
(※)幣帛……進物。
(※)饔飧……賓客に対する饗応、ごちそう。朝食を「饔」、夕食を「飧」という。

【原文】
白圭曰、吾欲二十而取一、何如、孟子曰、子之衜、貉衜也、萬室之國、一人陶則可乎、曰、不可、器不足用也、曰、夫貉、五穀不生、惟黍生之、無城郭・宮室・宗廟・祭祀之禮、無諸侯幤帛・饔飧、無百官・有司、故二十一取而足也、今居中國、去人倫、無君子、如之何其可也、陶以寡、且不可以爲國、況無君子乎、欲輕之於堯・舜之衜者、大貉・小貉也、欲重之於堯・舜之衜者、大桀・小桀也。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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