Facebook
Twitter
RSS

第147回

352〜354話

2021.10.25更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
「目次」はこちら

7‐1 恥を思う感覚のない者は人並みの人間になれない

【現代語訳】
孟子は言った。「恥と思う感覚は、人にとって大変重要なものである。何とかかんとか、うまい理由をあれこれ考えて、うまく言い逃れする者は、恥を思わない欠陥人間である。自分の人間としての徳が、人に及ばないことを恥と思わないような者は、人並みの人間にはなれない」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、恥(はじ)の人(ひと)に於(お)けるや大(だい)なり。機(き)変(きへん)の巧(こう)を為(な)す者(もの)(※)は、恥(はじ)を用(もち)うる所(ところ)無(な)し(※)。人(ひと)に若(し)かざることを恥(は)じずんば、何(なん)ぞ人(ひと)に若(し)くこと有(あ)らん。

(※)機変の巧を為す者……何とかかんとか、うまい理由をあれこれ考えて、うまく言い逃れる者。
(※)恥を用うる所無し……恥を思わない欠陥人間。恥だということを少しも感じない。羞恥心がない。

【原文】
孟子曰、恥之於人大矣、爲機變之巧者、無所用恥焉、不恥不若人、何若人有。

8‐1 たとえ権勢があろうと敬と礼を尽くさなければならない

【現代語訳】
孟子は言った。「昔の賢王は善を好んで権勢を忘れた。すなわち自分の権勢を忘れて賢人を尊敬した。王がそうである以上、相手方となる賢人も、どうして自分だけ違う態度をとることができるだろうか。だから賢人は自分の志す道を楽しんで、相手の権勢を忘れたのである。このため王公も敬を致し(敬意を表し)、礼を尽くさなければ、そうたびたび賢人に会うことはできなかったのである。会うことさえ、たびたびはできなかったのであるから、ましてや賢人を臣下にすることなど簡単にはできなかったのである」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、古(いにしえ)の賢王(けんおう)は、善(ぜん)を好(この)んで勢(いきお)いを忘(わす)る。古(いにしえ)の賢士(けんし)、何(なん)ぞ独(ひと)り然(しか)らざらんや。其(そ)の道(みち)を楽(たの)しみて人(ひと)の勢(いきお)いを忘(わす)る。故(ゆえ)に王公(おうこう)も敬(けい)を致(いた)し礼(れい)を尽(つ)くさずんば、則(すなわ)ち亟〻(しばしば)之(これ)を見(み)ることを得(え)ず。見(み)ることすら且(か)つ猶(な)お亟〻(しばしば)するを得(え)ず、而(しか)るを況(いわ)んや得(え)て之(これ)を臣(しん)とせんや。

【原文】
孟子曰、古之賢王、好善而忘勢、古之賢士、何獨不然、樂其衜而忘人之勢、故王公不致敬盡禮、則不得亟見之、見且猶不得亟、而況得而臣之乎。

9‐1 栄達しようがしまいが自分は人間としての修養をする

【現代語訳】
孟子が宋句践に言った。「あなたは遊説を好みますか。そうであるなら、遊説についての話をしましょう。遊説家は、人がこれを(自分の意見を)知って認めてくれても、自得無欲のたんたんとした態度であり、人が知ってくれなくても、やはり自得無欲のたんたんたる態度でなければならない。宋句践は言った。「どうすればそのような自得無欲のたんたんたる態度になれるのでしょうか」。孟子は答えた。「徳を尊び、義を楽しみさえすれば、自得無欲のたんたんとした境地になれます。故に、このような士は、どんなに困っても義を失うことはない。また、どんなに栄達しても、道を離れるようなこともない。どんなに困っても義を失うことはないから自分の本分をまっとうすることができるし、栄達しても道を離れないから、民はその人に対する望みを失わないのである。昔の賢者は、志を得て栄達すればその恩沢は民に及び、志を得ないときは(天下に道を行えないときは)、自分を修養して、徳の大きな人として世に知られたのです。このように、困窮すれば独り自分の身を修めて立派にし、栄達すれば天の人々も一緒に善に導いたのです」。

【読み下し文】
孟子(もうし)、宋句践(そうこうせん)(※)に謂(い)いて曰(いわ)く、子(し)、遊(ゆう)(※)を好(この)むか。吾(わ)れ、子(し)に遊(ゆう)を語(つ)げん。人(ひと)之(これ)を知(し)るも亦(また)囂囂(ごうごう)(※)たり。人(ひと)知(し)らざるも亦(また)囂囂(ごうごう)たり。曰(いわ)く、何如(いか)なれば斯(ここ)に以(もっ)て囂囂(ごうごう)たるべき。曰(いわ)く、徳(とく)を尊(たっと)び義(ぎ)を楽(たの)しめば、則(すなわ)ち以(もっ)て囂囂(ごうごう)たるべし。故(ゆえ)に士(し)は窮(きゅう)しても義(ぎ)を失(うしな)わず、達(たっ)(※)しても道(みち)を離(はな)れず。窮(きゅう)しても義(ぎ)を失(うしな)わず、故(ゆえ)に士(し)己(おのれ)を得(う)。達(たっ)しても道(みち)を離(はな)れず、故(ゆえ)に民(たみ)望(のぞ)みを失(うしな)わず。古(いにしえ)の人(ひと)は、志(こころざし)を得(う)れば、沢(たく)(※)民(たみ)に加(くわ)わり、志(こころざし)を得(え)ざれば、身(み)を修(おさ)めて世(よ)に見(あら)わる。窮(きゅう)すれば則(すなわ)ち独(ひと)り其(そ)の身(み)を善(よ)くし、達(たっ)すれば則(すなわ)ち兼(か)ねて天下(てんか)を善(よ)くす。

(※)宋句践……姓は宋、名は句践とされるが、詳しいことはわからない。
(※)遊……遊説。
(※)囂囂……自得無欲の淡々としている様。
(※)達……栄達。
(※)沢……恩沢。

【原文】
孟子、謂宋句踐曰、子、好遊乎、吾、語子遊、人知之亦囂囂、人不知亦囂囂、曰、何如斯可以囂囂矣、曰、尊德樂義、則可以囂囂矣、故士窮不失義、逹不離道、窮不失義、故士得己焉、逹不離道、故民不失望焉、古之人、得志、澤加於民、不得志、修身見於世、窮則獨善其身、逹則兼善天下。


【単行本好評発売中!】 
この本を購入する

「目次」はこちら

シェア

Share

感想を書く感想を書く

※コメントは承認制となっておりますので、反映されるまでに時間がかかります。

著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

矢印