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第155回

376〜378話

2021.11.05更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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30‐1 借りものは、いずれ返すべきものである

【現代語訳】
孟子は言った。「堯や舜は、自分の天性自然のままに仁義を行った。殷の湯王や周の武王は、身を修養、努力して仁義を体得した。五覇、すなわち斉の桓公、晋の文公、秦の穆公、宋の襄公、楚の荘王は、仁の名を借り、仁ある政治を装っている。しかし、長い間借りたままで返さないでいると、借りものであることが誰にもわからなくなってしまう」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、堯(ぎょう)・舜(しゅん)は之(これ)を性(せい)にするなり(※)。湯(とう)・武(ぶ)は之(これ)を身(み)にするなり。五覇(ごは)は之(これ)を仮(か)る(※)なり。久(ひさ)しく仮(か)りて帰(かえ)さずんば、悪(いずく)んぞ其(そ)の有(ゆう)に非(あら)ざるを知(し)らんや。

(※)性にするなり……天性自然のままに仁義を行った。
(※)仮る……仁の名を借り仁ある政治を装っている。なお、公孫丑(上)第三章でも「力を以て仁を仮る者は覇たり」と述べている。

【原文】
孟子曰、堯・舜性之也、湯・武身之也、五覇假之也、久假而不歸、惡知其非有也。

31‐1 君を補佐する権力者は私心なくあれ

【現代語訳】
(弟子の)公孫丑が問うた。「伊尹は、『我が君に道に順(したが)わないことをさせたくない(慣れさせたくはない)』と言いました。そして、太甲を桐に追放しました。これに民は大いに喜びました。その後、太甲が反省して賢明な人になったので、伊尹はこれを都に呼び返しました。これも民は大いに喜びました。このように賢者が人臣である場合、その君が賢明でないと、容赦なく追放してよいものでしょうか」。孟子は答えた。「伊尹のように(天下、民のことを第一に考える公平無私さという)正しい志の人であればよい。しかし、伊尹のような志がなければ、それは君の地位の簒奪(さんだつ)ということになる」。

【読み下し文】
公孫丑(こうそんちゅう)曰(いわ)く、伊尹(いいん)は曰(いわ)く、予(われ)不順(ふじゅん)に狎(な)れ(※)しめず、と。太甲(たいこう)(※)を桐(とう)に放(ほう)せしに、民(たみ)大(おお)いに悦(よろこ)べり。太甲(たいこう)賢(けん)となる。又(また)之(これ)を反(かえ)せしに、民(たみ)大(おお)いに悦(よろこ)べり。賢者(けんしゃ)の人臣(じんしん)為(た)るや、其(そ)の君(きみ)賢(けん)ならざれば、則(すなわ)ち固(もと)より放(ほう)すべきか。孟子(もうし)曰(いわ)く、伊尹(いいん)の志(こころざし)有(あ)らば、則(すなわ)ち可(か)なり。伊尹(いいん)の志(こころざし)無(な)くば、則(すなわ)ち簒(うば)う(※)なり。

(※)狎れ……させたくない。慣れさせたくはない(佐藤一斎説。万章(上)第六章三との関連で、この説が妥当のようである)。一方、朱子は、「狎れ」を、いつも見ていると解し、「いつも見たくない」とする説を唱えている。
(※)太甲……本章の話は、万章(上)第六章三に詳しい。
(※)簒う……君の地位を簒奪する。

【原文】
公孫丑曰、伊尹曰、予不狎于不順、放太甲于桐、民大悅、太甲賢、又反之、民大悅、賢者之爲人臣也、其君不賢、則固可放與、孟子曰、有伊尹之志、則可、無伊尹之志、則簒也。

32‐1 自ら耕作する者だけが食べてよいとは限らない

【現代語訳】
(弟子の)公孫丑が問うた。「『詩経』に、『功もないのに禄を受けてはならない(無駄食いしてはならない)』とありますが、君子たる者が耕作もせずに君主から禄をもらい生活しているのは、どういうわけですか」。孟子は答えた。「君子がその国にいる場合、君主がこの君子を用いることで、君主は安泰し、尊敬され、国は繁栄を得られることになる。その国の子弟が君子に従い学ぶことで父兄には崇敬し、君主には忠信の徳が身についてくる。功もないのに禄を受けている(無駄食いしている)なんてとんでもないことだ。これより功あることなどないではないか」。

【読み下し文】
公孫丑(こうそんちゅう)曰(いわ)く、詩(し)に曰(い)う、素餐(そさん)(※)せず、と。君子(くんし)の耕(たがや)さずして食(くら)うは、何(なん)ぞや。孟子(もうし)曰(いわ)く、君子(くんし)の是(こ)の国(くに)に居(お)るや、其(そ)の君(きみ)之(これ)を用(もち)うれば、則(すなわ)ち安富(あんぷ)尊栄(そんえい)に、其(そ)の子弟(してい)之(これ)に従(したが)えば、則(すなわ)ち孝悌(こうてい)(※)忠信(ちゅうしん)なり。素餐(そさん)せざること、孰(いず)れか是(これ)より大(だい)ならん。

(※)素餐……功もないのに禄を受けること。ただ飯食らい、徒食。世は役割分担であることは、滕文公(上)第三章四や第四章四などを参照。
(※)孝悌……儒教の根本的な考え方の一つで、親や兄姉といった年長者に対して崇敬する概念。

【原文】
公孫丑曰、詩曰、不素餐兮、君子之不耕而食、何也、孟子曰、君子居是國也、其君用之、則安富尊榮、其子弟從之、則孝悌忠信、不素餐兮、孰大於是。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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