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第167回

411〜413話

2021.11.24更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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19‐1 立派な人は、他人に悪口をいわれるものである

【現代語訳】
(士の)貉稽が言った。「私は、大いに人から悪くばかりいわれて困ってしまいます」。孟子は言った。「そんなことは気にしてはいけない。士という者は、正しいことを追い求めていると、多くの人に悪くいわれるものである。『詩経』もこう言っている。『憂う心があって面白くない。つまらない小人たちに悪くいわれて』とある。これは孔子のことである。また、『遂につまらない小人たちの怒りを断ち切らせることができなかったが、その名声も落とすことはなかった』とあるのは文王のことである(このように孔子や文王のような聖人でも悪口をいわれるのである。だから気にしてはいけないのだ)」。

【読み下し文】
貉稽(はくけい)曰(いわ)く、稽(けい)大(おお)いに口(くち)に理(り)あらず(※)。孟子(もうし)曰(いわ)く、傷(いた)むこと無(な)かれ。士(し)は茲(こ)の多口(たこう)(※)に憎(にく)まる。詩(し)に云(い)う、憂心(ゆうしん)悄悄(しょうしょう)(※)たり、羣(ぐん)小(しょう)(※)に慍(うらま)る(※)、と。孔子(こうし)なり。肆(つい)に厥(そ)の慍(いか)りを殄(た)たず、亦(また)厥(そ)の問(ぶん)を隕(おと)さず、(※)と。文王(ぶんおう)なり。

(※)口に理あらず……人から悪くいわれて困ってしまう。
(※)玆の多口……多くの人に悪くいわれる。
(※)憂心悄悄……憂う心があって面白くない。「悄悄」は憂える様。
(※)羣小……小人たち。
(※)慍る……うらまる。
(※)厥の問を隕さず……その名誉を落とすことはなかった。

【原文】
貉稽曰、稽大不理於口、孟子曰、無傷也、士憎茲多口、詩云、憂心悄悄、慍于羣小、孔子也、肆不殄厥慍、亦不殞厥問、文王也。

20‐1 自らが率先して徳を積まないと人は動かない

【現代語訳】
孟子は言った。「賢者は、自らの明らかな徳をもって、人を導いて徳を明らかにさせていった。しかるに、今の為政者は、自分に徳がなく暗愚にもかかわらず、人を導いて明らかな徳を持たせようとしている(これでは人は導かれるはずがない)」。

【読み下し文】
孟子(もうし)曰(いわ)く、賢者(けんしゃ)は其(そ)の昭昭(しょうしょう)(※)を以(もっ)て、人(ひと)をして昭昭(しょうしょう)たらしむ。今(いま)は其(そ)の昏昏(こんこん)(※)を以(もっ)て、人(ひと)を昭昭(しょうしょう)たらしめんとす。

(※)昭昭……明らかな(徳)。
(※)昏昏……(徳がなく)暗愚なさま。

【原文】
孟子曰、賢者以其昭昭、使人昭昭、今以其昏昏、使人昭昭。

21‐1 勉強、行いの向上はやめるとすぐに元に戻ってだめにな

【現代語訳】
孟子は高子に言った。「山間の小道(こみち)は、しばらくの間そこを通っていると、そこに道ができるものだ。だが、しばらくそこを通らないでいると、茅(かや)などが生えて、その小道を塞いでしまう。学問、修養も同じく、しばらく怠ると、茅みたいなものに塞がれてしまい、だめになってしまう。今、お前の心は茅みたいなもので塞がってしまっている」。

【読み下し文】
孟子(もうし)、高子(こうし)(※)に謂(い)いて曰(いわ)く、山径(さんけい)の蹊(けい)(※)、間(しばら)く介然(かいぜん)(※)として之(これ)を用(もち)うれば、路(みち)を成(な)す。間(しばら)く用(もち)いざるを為(な)せば、則(すなわ)ち茅(ぼう)(※)之(これ)を塞(ふさ)ぐ。今(いま)や茅(ぼう)、子(し)の心(こころ)を塞(ふさ)げり。

(※)高子……斉の人で孟子に学び、その後、辞めてほかの人について学んだとされる。
(※)蹊……足あと。『史記』の「桃(とう)李(り)もの言(い)わざれども下(した)自(おの)ずから蹊(けい)を成(な)す」という言葉がよく知られている。
(※)介然……ここでは、そこを通ること。固く守ること。
(※)茅……かや。また、心を塞ぐ、雑念などを意味させている。

【原文】
孟子、謂高子曰、山徑之蹊、閒介然用之、而成路、爲閒不用、則茅塞之矣、今茅、塞子之心矣。


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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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