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第46回

109〜111話

2021.05.28更新

読了時間

  「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、孟子の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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4‐1 自分のやるべき仕事をさぼらない


【現代語訳】
孟子が(斉の領地である)平陸に出かけて、そこの大夫に言った。「あなたの部下の、ほこを持っている護衛の兵士が、一日に三度も、隊列を離れて職務を怠れば、処分しますか」。すると大夫は言った。「いや、三度までも待たないで処分します」。

【読み下し文】
孟子(もうし)平陸(へいりく)に之(ゆ)き、其(そ)の大夫(たいふ)(※)に謂(い)いて曰(いわ)く、子(し)の持戟(じげき)(※)の士(し)、一日(いちにち)にして三(み)たび伍(ご)(※)を失(うしな)わば、則(すなわ)ち之(これ)を去(さ)るや否(いな)や。曰(いわ)く、三(み)たびするを待(ま)たず。

(※)其の大夫……ここでは、孔距心(こうきょしん)のこと。そこの長官。
(※)持戟……ほこを持っている護衛の士。
(※)伍……隊列。行列。

【原文】
孟子之平陸、謂其大夫曰、子之持戟之士、一日而三失伍、則去之否乎、曰、不待三。

 

4‐2 自分の責任をよく自覚する


【現代語訳】
〈前項から続いて孟子は言った〉。「それなら言わせてもらうが、あなただって、隊列から離れて職務を怠っていることが多いのではないですか。悪疫や饑饉(ききん)の年には、あなたの領内の人たちは、老人や病人は餓えてみぞや谷にしかばねを転がし、若者は四方に散ってしまう人が何千人いるかわかりません。すると大夫の距心は言った。「それらは、私のすべき職務の範囲外のことです(私は単なる現場の責任者にすぎず、そのような政治向きのことなどは上の方がすることです)」。そこで孟子は言った。「今、ここに人から牛や羊の飼育を頼まれた人がいるとします。この者は、必ず牛と羊のために牧場と牧草を用意しようとするでしょう。もし、この場合に牧場と牧草とを見つけ、手に入れられないときは、これらの牛と羊を持ち主に返すべきなのか、それとも立ったままで(何も手を打つことをしないで)それらが死んでいくのを見ているべきなのでしょうか」。距心は言った。「私が間違っていました。それは私の罪でした」。

【読み下し文】
然(しか)らば則(すなわ)ち子(し)の伍(ご)を失(うしな)うや、亦(また)多(おお)し。凶年(きょうねん)饑(き)歳(さい)には、子(し)の民(たみ)、老羸(ろうるい)(※)溝壑(こうがく)に転(てん)じ、壮者(そうしゃ)散(さん)じて四方(しほう)に之(ゆ)く者(もの)、幾千人(いくせんにん)ぞ。曰(いわ)く、此(こ)れ距心(きょしん)(※)の為(な)すを得(う)る所(ところ)に非(あら)ざるなり。曰(いわ)く、今(いま)、人(ひと)の牛羊(ぎゅうよう)を受(う)けて、之(これ)が為(ため)に之(これ)を牧(ぼく)する者(もの)有(あ)らば、則(すなわ)ち必(かなら)ず之(これ)が為(ため)に牧(ぼく)と芻(すう)(※)とを求(もと)めん。牧(ぼく)と芻(すう)とを求(もと)めて得(え)ずんば、則(すなわ)ち諸(これ)を其(そ)の人(ひと)に反(かえ)さんか、抑(あるい)は亦(また)立(た)つて其(そ)の死(し)を視(み)んか。曰(いわ)く、此(こ)れ則(すなわ)ち距心(きょしん)の罪(つみ)なり。

(※)老羸……老人や病人。
(※)距心……平陸の大夫の名。孔距心のこと。
(※)牧と芻……「牧」は牧場、「芻」は牧草。

【原文】
然則子之失伍也、亦多矣、凶年饑歳、子之民、老羸轉於溝壑、壯者散而之四方者幾千人矣、曰、此非距心之所得爲也、曰、今、有受人之牛羊、而爲之牧之者、則必爲之求牧與芻矣、求牧與芻而不得、則反諸其人乎、抑亦立而視其死與、曰、此則距心之罪也。

 

4‐3 相手の責任を自覚させる論法


【現代語訳】
〈前項から続いて〉。後日、孟子は(斉の)王に会って言った。「王の臣下で、領土の大きな町の長官を五人ほど知っていますが、自分の責任と罪をわかっているのは、孔距心だけです」。こう言って、王に先日の話をした。すると王は言った。「これはすべて、私の責任である」。

【読み下し文】
他日(たじつ)、王(おう)に見(まみ)えて曰(いわ)く、王(おう)の都(と)(※)を為(おさ)むる者(もの)、臣(しん)、五人(ごにん)を知(し)れり。其(そ)の罪(つみ)を知(し)る者(もの)は、惟(ただ)孔距心(こうきょしん)のみ。王(おう)の為(ため)に之(これ)を誦(しょう)(※)す。王(おう)曰(いわ)く、此(こ)れ則(すなわ)ち寡人(かじん)の罪(つみ)なり。

(※)都……大きな町。都市。なお、先君の廟のあるところを言うとの説もある。
(※)誦……言う。「暗誦」という言葉もあるように、覚えておいて語るというニュアンスがある。なお、ここでは、孟子得意の論法で、王の責任と自覚をうまく引き出している。同じような論法は、梁恵王(下)六章にもある。しかし、そこでは王直接の責任を言ったので、王は「左右を顧みて他を言う」となっている。これに対し、ここでは、臣下の話をして直接には王の責任を問うていない。そのため、かえって王自身の責任と自覚をうまく引き出せている。

【原文】
他日、見於王曰、王之爲都者、臣、知五人焉、知其罪者、惟孔距心、爲王誦之、王曰、此則寡人之罪也。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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