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第9回

時間は未来から過去へ流れている

2019.04.04更新

読了時間

臆病、意地っ張り、せっかち…。あなたは自分の「性格」に苦労していませんか? 性格は変えられないというのはじつはウソ。性格とは、人が生きていく上で身に付けた「対人戦略」なのです。気鋭の認知科学者である苫米地英人博士が、性格の成り立ちや仕組み、変え方などを詳しく解説します。
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 さて、「性格」=「過去の自己イメージや、思考や行動の傾向」を見つめ直したうえで、やはり「変えたい」「改善したい」と思ったら、どうすればいいのか。

 その方法についてお話しする前に、みなさんにお伝えしておきたいことがあります。「時間のとらえ方」についてです。

 現代社会では、「時間は過去から現在へ、さらに未来へと流れている」と考えられています。
 おそらくみなさんも、こうした時間観に疑問を抱いたことは、ほとんどないでしょう。

 しかしこれは、古典的な西洋の価値観に基づいた考えにすぎません。
 決して「真理」ではなく、「正しい」わけでもないのです。
 しかも、こうした時間観を持っていると、人はどうしても、「過去の原因が未来の結果を作る」と考えてしまいがちであり、後で述べるように、そこからさまざまな問題が発生します。

 一方、アビダルマ仏教(釈迦の死後、百年から数百年の間に、仏教の原始教団から分裂して成立した諸派の仏教)では、「時間は未来から現在へ、さらに過去へと流れている」とされています。

 たとえば、あなたが川の真ん中に、上流の方を向いて立っているとします。
 すると、上流から、赤いボールが流れてきました。
 それを取るも取らないもあなた次第ですが、あなたは取らないことを選びました。
 やがて、今度は青いボールが流れてきました。

 この場合、あなたが赤いボールを取らなかったことと、青いボールが流れてきたことの間には、何の因果関係もありません。
 上流にいる誰かが、最初に赤いボールを流し、次に青いボールを流した。
 ただ、それだけのことであり、過去は未来に何の影響も与えていないのです。

 同じように、時間は、川の上流という未来から、あなたが立っている現在へ、さらにあなたの後方の過去へと流れています。
 そして、未来があなたの現在を、さらに過去を作るのです。

 いま一つピンとこない人は、次のようなケースを考えてみてください。

 あなたが特売品を買うために、スーパーに行ったとします。
 しかし残念ながら、その品は売り切れでした。
「せっかく出て来たのに、ついてない」と悔しい思いを抱えたまま、帰宅途中にドラッグストアに寄ったところ、スーパーで買おうと思っていた特売品が、さらに安い値段で販売されており、あなたは「ラッキー」「スーパーで買えなくて良かった」と思いました。
 ドラッグストアに、同じ品物が安く売っていたおかげで、最初は「ついてない」と思った出来事が「ラッキー」に変わったわけです。
「未来が過去を作る」というのは、こういうことです。

「過去の延長線上に未来がある」と脳が認識している状態では、人間は過去にとらわれたままになってしまいます。
 過去の記憶から作られたブリーフシステムに縛られ、過去の自己イメージを引きずったり、本当は自分自身も変化しているのに、それを認めることができなかったり、無意識のうちに、「過去の自分はダメだったから、未来の自分もダメだろう」と考え、それにふさわしいふるまいをとってしまったりするのです。

 しかし、時間のとらえ方を変えれば、こうした認識も変わっていきます。
「よい未来」から逆算して見れば、どんな現在も過去も、「よい未来」を作るために必要な出来事だったと思えるようになるからです。
 たとえば、過去の自分の「性格」に気に入らない部分があったとしても、「よい未来」から考えると、「むしろ、そんな『性格』だったのは、ラッキーだった」と思うようになるはずです。

「時間は未来から過去へ向かって流れている」
「過去は、未来の自分に影響を与えない」
「未来が過去を作る」
「未来が最高だと確信すれば、過去も現在も最高になる」

 この原則をぜひ、あなたの脳内にしっかりと刻みつけてください。

■ ポイント

・未来が現在を、過去を作る。
・「イヤな性格」は、むしろ未来から考えると必要なものになる。

 

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著者

苫米地 英人

1959年、東京都生まれ。認知科学者、計算機科学者、カーネギーメロン大学博士(Ph.D)、カーネギーメロン大学CyLab兼任フェロー。マサチューセッツ大学コミュニケーション学部を経て上智大学外国語学部卒業後、三菱地所にて2年間勤務し、イェール大学大学院計算機科学科並びに人工知能研究所にフルブライト留学。その後、コンピュータ科学の世界最高峰として知られるカーネギーメロン大学大学院に転入。哲学科計算言語学研究所並びに計算機科学部に所属。計算言語学で博士を取得。徳島大学助教授、ジャストシステム基礎研究所所長、通商産業省情報処理振興審議会専門委員などを歴任。

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