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第5回

10〜12話

2019.12.27更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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10 うまくいかない後に物事は好転していくものだ


【現代語訳】
得意絶頂で運にも恵まれ人の恩情も厚いようなときに災害や失敗というのは起こりやすい。だから、調子の良いときにこそ気を引き締めて、自分を戒めておくべきである。逆に、失敗ばかりが続き何事もうまくいかない後にこそ、物事は好転して良い仕事ができていくものである。だから、うまくいかないといってあきらめて、仕事を放りなげてしまってはいけない。

【読み下し文】
恩裡(おんり)(※)に由来(ゆらい)害(がい)を生(しょう)ず。故(ゆえ)に快意(かいい)の時(とき)、須(すべか)らく早(はや)く頭(こうべ)を回(めぐ)らすべし。敗後(はいご)に或(ある)いは反(かえ)って功(こう)を成(な)す。故(ゆえ)に払心(ふっしん)(※)の処(ところ)、便(すなわ)ち手(て)を放(はな)つこと莫(な)かれ。

(※)恩裡……恩情をこうむっているとき。調子の良いとき。『易経』の「亢龍(こうりゅう)悔(く)いありとは、盈(み)つれば久(ひさ)しかるべからざるなり」や、『老子』の「物(もの)は壮(さかん)なれば則(すなわ)ち老(お)ゆ」(儉武第三十)など、得意絶頂のときに対する戒めの言葉は多い。
(※)払心……心にもとる。うまくいかないとき。なお、吉田松陰も妹・千代への手紙のなかで「しょせん一生(いっしょう)の間(あいだ)、難儀(なんぎ)さへすれば、先(さき)の福(ふく)があるなり」と言っている。アメリカの教育学者であるエルバート・ハバードも述べている。「潮がきれいに引くのは、すぐ潮が押し寄せてくるためである。実際、成功に向きかけているときが、最も困難に見えるときなのである。あと少しの辛抱、あと少しの努力で、絶望的な状況がすばらしい状況に転じるのだ」(野中訳)。

【原文】
恩裡由來生害。故快意時、須早回頭。敗後或反成功。故拂心處、莫便放手。

11 ぜいたくを求めすぎると節操、気概を失いやすくなる


【現代語訳】
普段から粗食を良しとする人は、心が清くて汚れのない持ち主が多い。一方、美衣美食を求めすぎる人は、地位の高い人や権力者に対して卑屈な態度をとることが多い。というのも人の心は、淡白で質素な生活でますます磨かれていくが、節操、気概はぜいたくな生活によって失われていくものだからである。

【読み下し文】
藜口莧腸(れいこうけんちょう)(※)の者(もの)は、氷清玉潔(ひょうせいぎょくけつ)(※)多(おお)く、衮衣(こんい)玉食(ぎょくしょく)(※)の者(もの)は、婢膝奴(ひしつど)顔(がん)(※)を甘(あま)んず。蓋(けだ)し、志(こころざし)は澹泊(たんぱく)を以(もっ)て明(あき)らかに、而(しか)して節(せつ)は肥甘(ひかん)(※)よりして喪(うしな)うなり。

(※)藜口莧腸……粗食を意味する。藜は「あかざ」のことで、その葉を羹(あつもの)にして食し、莧は「ひゆ」のことで、葉を吸い物にして食べること。「あかざ」については本書の後集30条、40条参照。
(※)氷清玉潔……氷のように清く、玉のように潔いこと。心が清くて汚れのない持ち主。
(※)衮衣玉食……美衣美食。衮衣は天子の礼服。
(※)婢膝奴顔……地位の高い人や権力者に卑屈な態度をとること。もとは下女がひざまずき、下男が顔色をつくり、こびを売ることを指す。孟子も「富貴利達(ふうきりたつ)を求(もと)むる所以(ゆえん)の者(もの)」は、このような者と手厳しい(離婁下篇)。
(※)肥甘……肥えた肉と甘い食べ物。ぜいたくな生活を意味する。

【原文】
藜口莧腸者、多氷淸玉洯、衮衣玉食者、甘婢膝奴顏。蓋志以澹泊明、而節從肥甘喪也。

12 人に役立つ生き方ができれば最高である


【現代語訳】
この世に生きている間は、心がまえとして、できるだけ心を広く開放しておきたい。そうして、まわりの人々が不平不満を嘆かないでいられるようにしたい。また、精神的な恵みを、死後にも長く残るようにしておきたい。そうすることで、人々に豊かな心を持たせられるようにしたい。

【読み下し文】
面前(めんぜん)の田地(でんち)(※)は、放(はな)ち得(え)て寛(ひろ)くして(※)、人(ひと)をして不平(ふへい)の歎(なげ)き無(な)からしむるを要(よう)す。身後(しんご)(※)の恵沢(けいたく)は、流(なが)し得(え)て長(なが)くして、人(ひと)をして不匱(ふき)(※)の思(おも)い有(あ)らしむるを要(よう)す。

(※)面前の田地……「面前」は生きている間、「田地」は心がまえ。
(※)放ち得て寛くして……広く開放しておくこと。
(※)身後……本書の前集1条参照。
(※)不匱……乏しくないこと。豊か。

【原文】
面歬的田地、要放得寛、使人無不平之歎。身後的惠澤、要流得長、使人有不匱之思。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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