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第4回

7〜9話

2019.12.26更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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7 本物は目立たない


【現代語訳】
味の濃い料理は、ごまかしがあり、本物の料理とはいえない。本物は、あっさりとしていて素材本来の味を活かしている。これと同じく本物の人物は、他より目立ち才能があるように見える人ではない。本物の人物というのは、平凡で普通の人に見える。

【読み下し文】
醲肥(じょうひ)辛甘(しんかん)(※)は真味(しんみ)に非(あら)ず真味(しんみ)は只(た)だ是(こ)れ淡(たん)なり。神奇卓異(しんきたくい)(※)は至人(しじん)(※)に非(あら)ず。至人(しじん)は只(た)だ是(こ)れ常(じょう)なり。

(※)醲肥辛甘……味の濃い料理。「醲」は濃い酒、「肥」は肥えた肉をいう。
(※)神奇卓異……他より目立ち才能があるように見え、常人と異なっている。他に抜きん出て卓越した人。
(※)至人……本物の人物。なお、『老子』でも、「道(みち)の言(げん)に出(いだ)すは、淡乎(たんこ)として其(そ)れ味(あじ)無(な)し」(仁德第三十五)と述べている。

【原文】
醲肥辛甘非眞味。眞味只是淡。神奇卓異非至人。至人只是常。

8 油断することもなく、慌(あわ)てることもない生き方をしたい


【現代語訳】
天地は静かで動いていないように見えるが、実は陰と陽の気(時代や物すべてを動かしている根本をなすもの)は、休みなく働いている。また、日月は昼となく夜となく絶えず運行しているが、その正しく明らかな進みは永遠に変わらない。だから、君子は何も起きない平穏無事なときでも、万一に備えて油断することはなく、逆に何か起きて大変なときにも、慌てることなくいつものように悠然たる態度を持つべきである。

【読み下し文】
天地(てんち)は寂然(せきぜん)として動(うご)かずして、而(しか)も気機(きき)(※)は息(や)むこと無(な)く停(とど)まること少(まれ)なり。日月(じつげつ)は昼夜(ちゅうや)に奔馳(ほんち)して、而(しか)も貞明(ていめい)(※)は万古(ばんこ)に易(かわ)らず。故(ゆえ)に君子(くんし)は、間時(かんじ)には喫緊(きっきん)の心思(しんし)(※) 有(あ)るを要(よう)し、忙処(ぼうしょ)には悠間(ゆうかん)(※)の趣味(しゅみ)有(あ)るを要(よう)す。

(※)気機……陰陽二気の活動。機ははずみ、からくり。
(※)貞明……正しく明らか。
(※)喫緊の心思……さし迫った事態への心がまえ。
(※)悠間……悠然たる態度を持つ。ゆったりとしている。余裕を持っている。慌てない。なお、『論語』で、孔子は「君子(くんし)固(もと)より窮(きゅう)す。小人(しょうじん)は窮(きゅう)すれば斯(ここ)に濫(みだ)る」(衛霊公第十五)と言う。つまり、君子は取り乱すことなく、悠然として対処していくという本項と同じ趣旨のことを述べている。なお、本書の前集172条も参照。

【原文】
天地寂然不動、而氣機無息少停。日月晝夜奔馳、而貞明萬古不易。故君子、閒時要有喫緊的心思、恾處要有悠閒的趣味。

9 沈思黙考(瞑想)のすすめ


【現代語訳】
夜が更けて、人々が寝静まったとき、独り坐して自分の本心を観察しているうちに、次第に邪念や妄想が去り、本来の自分の純粋な心が見えてくる。こうして、だんだんと応用自在の心のはたらきが会得できていく。また同時に本心、真心が現れてくるものの、邪念や妄想は完全に除きがたいこともわかってくる。そこでまた、大きな懺悔(ざんげ)の心が湧き、さらなる成長に向けての心がけも生まれてくる。

【読み下し文】
夜(よる)深(ふか)く人(ひと)静(しず)まれるとき、独(ひと)り坐(ざ)して心(こころ)を観(かん)ずれば(※)、始(はじ)めて妄(もう)(※)窮(きわ)まりて真(しん)(※)独(ひと)り露(あら)わるるを覚(おぼ)ゆ。毎(つね)に此(こ)の中(なか)に於(お)いて、大機趣(だいきしゅ)(※)を得(う)。既(すで)に真(しん)現(あらわ)れて妄(もう)の逃(のが)れ難(がた)きを覚(おぼ)ゆれば、又(また)此(こ)の中(なか)に於(お)いて、大く慚忸(だいざんじ)(※)を得(う)。

(※)心を観ずれば……自分の本心を見極めること。この言葉からは仏教、特に禅宗の影響がうかがわれる。
(※)妄……邪念や妄想。妄念。
(※)真……本来の自分の純粋な心。清らかな真心。真実の心。
(※)大機趣……応用自在の心のはたらき。
(※)大慚忸……大きな懺悔をする心。なお、新渡戸稲造は、キリスト教徒の立場からも沈思黙考の有効性を説いている。そして、次のように言っている。「たとえ世間がほめたからとて、それで良い気になるのは大間違いである。その代わり、世間から謗(そし)られてもそれに屈するな。人間以上の者が汝の耳に何かささやいておる。何を言うておるか、その声を聞け」(『修養』)。

【原文】
夜深人靜、獨坐觀心、始覺妄窮而眞獨露。每於此中、得大機趣。旣覺眞現而妄難迯、又於此中、得大慚忸。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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