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第12回

31〜33話

2020.01.10更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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31 心が豊かで、人柄が謙虚でないといずれつまずく


【現代語訳】
お金持ちで、地位の高い家の者は、当然、寛大で温厚なはずと思えるのに、かえって疑い深くて、心は冷酷である。これは物質的には豊かなのかもしれないが、精神的に貧しく行いも貧しいといわざるをえない。これでは、いずれ不幸となっていくに違いない。また、聡明で才能ある人は、当然、そのことを隠すものだと思えるのに、かえってひけらかしてしまっている。これは才能があっても、欠点がそのままなので自分の暗愚さに気づかないからである。これでは、いずれ失敗することになろう。

【読み下し文】
富貴(ふうき)の家(いえ)は宜(よろ)しく寛厚(かんこう)なるべくして反(かえ)って忌刻(きこく)(※)なり。是(こ)れ富貴(ふうき)にして其(そ)の行(こう)を貧賤(ひんせん)にするなり。如何(いかん)ぞ能(よ)く享(う)けん。聡明(そうめい)の人(ひと)は、宜(よろ)しく斂蔵(れんぞう)(※)すべくして反(かえ)って炫耀(げんよう)(※)す。是(こ)れ聡明(そうめい)にして其(そ)の病(へい)を愚懵(ぐもう)(※)にするなり。如何(いかん)ぞ敗(やぶ)れざらん。

(※)忌刻……人の才能をねたんで、苛刻残忍な扱いをすること。疑い深くて心は冷酷。
(※)斂蔵……隠すこと。内におさめること。
(※)炫耀……ひけらかすこと。
(※)愚懵……暗愚。愚かで、道理に暗いこと。本書の前集18条参照。

【原文】
富貴家、宜寛厚而反忌刻。是富貴而貧賤其行矣。如何能享。聰明人、宜斂藏而反炫燿。是聰明而愚懵其病矣。如何不敗。

32 下の地位から見ると、上の地位の人のすべてがわかる


【現代語訳】
高い地位にいるとわからないものだが、後に低い地位にいると、高い地位に登ることが危険なことがよくわかる。暗いところ(隠遁(いんとん)の暮らしをしているところ)にいると、明るいところ(華やかな世間で活躍しているところ)で自分を出しすぎて無理をしていたのがよくわかる。静かなところに行き暮らしてみると、動きすぎていたことがいかに徒労にすぎなかったかがよくわかる。寡黙を守っていると、しゃべりすぎることは騒々しくて役立たなかったことがよくわかる。

【読み下し文】
卑(ひく)きに居(お)りて(※)而(しか)る後(のち)に、高(たか)きに登(のぼ)るの危(き)為(た)るを知(し)る。晦(くら)きに処(お)りて(※)而(しか)る後(のち)に、明(あか)るきに向(む)かう(※)の太(はなは)だ露(あらわる)るを知(し)る。静(せい)を守(まも)りて而(しか)る後(のち)に、動(どう)を好(この)むの労(ろう)に過(す)ぐるを知(し)る。黙(もく)を養(やしな)いて而(しか)る後(のち)に、言(げん)多(おお)きの躁(そう)為(た)るを知(し)る。

(※)卑きに居りて……低いところにいること。高い地位から低い地位に落とされ、その低地位にいること。
(※)晦きに処りて……暗いところにいること。山林などの人のあまり目のつかないところに隠遁していること。
(※)明るきに向かう……明るいところ(華やかな世間で活躍しているところ)で行動する。

【原文】
居卑而後、知登高之爲危。處晦而後、知向明之太露。守靜而後、知好動之過勞。養默而後、知多言之爲躁。

33 凡俗の境地を脱したい


【現代語訳】
功績を上げて名声を得るとか、お金持ちになり高い地位を得たいという心を捨て去り、抑えることができれば、凡俗の境地から脱したといえる。さらに進んで、道徳、仁義にとらわれない自在の境地にまでいければ、やっと聖人の域に達することができる。

【読み下し文】
功名(こうみょう)富貴(ふうき)の心(こころ)を放(はな)ち得(え)下(くだ)して(※)、便(すなわ)ち凡(ぼん)を脱(だっ)すべし。道徳仁義(どうとくじんぎ)(※)の心(こころ)を放(はな)ち得(え)下(くだ)して、纔(わず)かに(※)聖(せい)に入(い)るべし。

(※)放ち得下して……捨て去り、抑えて。本書の前集25条参照。
(※)道徳仁義……この言葉と文章の内容から『老子』の強い影響がわかる。『老子』の俗薄第十八では「大道(だいどう)廃(すた)れて、仁義(じんぎ)有(あ)り」とある。また、論德第三十八では、「上徳(じょうとく)は徳(とく)とせず、是(ここ)を以(もっ)て徳(とく)有(あ)り」とする。つまり、本項でいう道徳、仁義にとらわれない自在の境地となるのが聖人であり、それが本物の上徳を身につけた人ということになる。なお、「仁義」は孟子が言い始めたとされ、ゆえに老子は孔子より遅れること約100年後に生まれたとされる(つまり、孟子と同世代)。
(※)纔かに……やっと。本書の前集5条参照。

【原文】
放得功名富貴之心下、便可脫凡。放得衜德仁義之心下、纔可入垩。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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