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第14回

37〜39話

2020.01.15更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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37 利口ぶるのはつまらない生き方である


【現代語訳】
利口ぶって生きるより、むしろ素朴で実直な生き方が良い。天地からもらった正気(私たちを創っている根源となる気)を、充分に生かし、そしてそのまま天地に返して死ねばいいのだ。豪華で派手な生活はむなしいだけで、むしろ、質素な普通の生活が良い。そして、そのすがすがしい人生を生きた証しを、天地に残して死にたい。

【読み下し文】
寧(むし)ろ渾噩(こんがく)(※)を守(まも)って聡明(そうめい)を黜(しりぞ)け、些(いささ)かの正気(せいき)(※)を留(とど)めて天地(てんち)に還(かえ)せ。寧(むし)ろ紛華(ふんか)を謝(しゃ)して澹泊(たんぱく)に甘(あま)んじ、個(こ)の清名(せいめい)を遺(のこ)して乾坤(けんこん)(※)に在(あ)れ。

(※)渾噩……渾々噩々の略で、素朴、実直なこと。
(※)正気……天地間にある万物を生成する根源的な気。なお、『孟子』は、この正気が人間に宿ると何物にもまさる道徳的勇気になるとして、いわゆる“浩然の気”を養うことを説く(公孫丑上篇)。すなわち“浩然の気”とは「道義をもととして何事にも屈しない気概であり、その気概が非常に盛んな精気となって天地の間に満ち満ちているほどになっていることをいう」。本項の趣旨にこの孟子の“浩然の気”の考え方が参考になる。
(※)乾坤……天地。世のなか。本項を読むと佐々木邦(ささきくに)の昭和初期の人気小説『地(ち)に爪跡(つめあと)を残(のこ)すもの』を思い浮かべる。なお、前集132条、後集61条参照。

【原文】
寧守渾噩而黜聰明、留些正氣還天地。寧謝紛華而甘澹泊、遺個淸名在乾坤。

38 己に勝てば、何者もあなたを服従させることはできなくなる


【現代語訳】
自分を襲う悪魔を降伏させようと思うなら、まず自分の心に打ち勝たなくてはならない。自分の心に勝つことができれば、あらゆる悪魔は退散し、自分に服従するだろう。横暴な攻撃から自分を守ろうと思うなら、まず自分の気を制御しなくてはならない。自分の気が平静となれば、他者からのどんな攻撃も自分を侵すことはできなくなる。

【読み下し文】
魔(ま)を降(くだ)す者(もの)は、先(ま)ず自心(じしん)を降(くだ)せ(※)。心(こころ)伏(ふく)すれば則(すなわ)ち群魔(ぐんま)は退’しりぞ)き聴(き)く。横(おう)(※)を馭(ぎょ)する者(もの)は、先(ま)ず此(こ)の気(き)を馭(ぎょ)せ。気(き)平(たい)らかなれば則(すなわ)ち外横(がいおう)は侵(おか)さず。

(※)自心を降せ……自分の心に勝て。なお、ここでの魔は仏教的な煩悩や妄想に起因する破滅するものなどを意味すると解されるが、『論語』にも「己(おのれ)に克(か)ち、礼(れい)に復(かえ)るを仁(じん)と為(な)す」いわゆる「克己復礼(こっきふくれい)」が大事と述べてある(顔淵第十二)。さらに孔子は「三軍(さんぐん)は帥(すい)を奪(うば)うべきなり。匹夫(ひっぷ)も志(こころざし)を奪(うば)うべからざるなり」ともいう(子罕第九)。また王陽明(おうようめい)の「山中(さんちゅう)の賊(ぞく)を破(やぶ)るは易(やす)く、心中(しんちゅう)の賊(ぞく)を破(やぶ)るは難(かた)し」という言葉もよく知られるところである。
(※)横……横暴・横着。

【原文】
降魔者、先降自心。心伏則群魔退聽。馭橫者、先馭此氣。氣平則外橫不侵。

39 若い人が付き合う相手は、慎重に選ばなくてはならない


【現代語訳】
若い人を教育するのは、ちょうど箱入り娘を育てるようなものである。出入りを厳重にして、付き合う友人に注意しなければならない。もし、このことを怠って、一度よからぬ人と付き合ってしまったなら、それは美田に雑草の種をまくようなものである。そうなると一生、実がなる良い種を植えるのが難しくなる(一生かかっても一人前とならない)。

【読み下し文】
弟子(ていし)を教(おし)うるは、閨女(けいじょ)(※)を養(やしな)うが如(ごと)し。最(もっと)も出入(しゅつにゅう)を厳(げん)にし交遊(こうゆう)を謹(つつし)むを要(よう)す。若(も)し一(ひと)たび匪人(ひじん)(※)に接近(せっきん)せば、是(こ)れ清浄(せいじょう)の田中(でんちゅう)に一(いつ)の不浄(ふじょう)の種子(しゅし)を下(くだ)すなり。便(すなわ)ち終身(しゅうしん)、嘉禾(かか)(※)を植(う)え難(がた)し。

(※)閨女……箱入り娘。
(※)匪人……行為の正しくない者。ふさわしくない友。
(※)嘉禾……良い穀類の苗。実のなる良い種、稲の苗。なお、同じ読みでも「禾稼」は穀物とか稲の穂の意味である。例えば、吉田松陰が処刑される直前に書いた『留魂(りゅうこん)録』に次のような文章がある。「もし同志(どうし)の士(し)の微衷(びちゅう)を憐(あわれ)み継紹(けいしょう)の人(ひと)あらば、すなわち後来(こうらい)の種子(しゅし)未(いま)だ絶(た)えず、自(みずか)ら禾稼(かか)の有年(ゆうねん)恥(は)ぢざるなり。同志(どうし)それを考思(こうし)せよ」。

【原文】
敎弟子、如養閨女。最要嚴出入謹交遊。若一接近匪人、是淸淨田中下一不淨種子。便終身難植嘉禾矣。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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