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第22回

61〜63話

2020.01.27更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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61 学びには厳しさや苦しみだけでなく、暖かさも必要である


【現代語訳】
学問を志して正しい道を身につけて歩もうとするなら、自分を一段と戒め慎む心がけが必要である。しかし、それだけでは足りない。さらにそれに加えて、物事にこだわりすぎず、さっぱりとした心持ちがあることも必要である。というのも、ひたすら厳しくて苦しいばかりでは、物事を枯れ死にさせていく秋の冷たさばかりになってしまうからだ。それでは物事が生まれ育っていく春の暖かさに欠ける。冷たいばかりで、どうして万物を育てることができるであろうか。

【読み下し文】
学(まな)ぶ者(もの)は段(だん)の兢業(きょうぎょう)(※)の心思(しんし)有(あ)り、又(また)段(だん)の瀟洒(しょうしゃ)の趣味(しゅみ)(※) 有(あ)るを要(よう)す。若(も)し一味(いちみ)に斂束清苦(れんそくせいく)(※)ならば、是(こ)れ秋殺(しゅうさつ)有(あ)りて春生(しゅんせい)無(な)きなり。何(なに)を以(もっ)てか万物(ばんぶつ)を発育(はついく)せん。

(※)兢業……兢々業々の略。戒め慎むこと。
(※)瀟洒の趣味……物事にこだわらない、さっぱりとした味わい。
(※)斂束清苦……斂束は厳しく引き締めること、清苦は清廉で貧しく苦しいことを指す。厳しくて苦しい。なお、前集6条参照。

【原文】
學者有段兢業的心思、又要有段瀟洒的趣味。若一味斂束淸苦、是有秋殺無春生。何以發育萬物。

62 本物と有名であることは違う


【現代語訳】
本当に清廉で立派な人物には、清廉であるという評判は立たない。評判となる人は、実は、それを利用してやろうという欲を持つ人である。本当に凄い技を持っている人は、わざわざ巧妙な技を見せない。巧妙な技を見せびらかすのは、まだ未熟な者でしかないという証拠である。

【読み下し文】
真廉(しんれん)は廉名(れんめい)無(な)し。名(な)を立(た)つる者(もの)は、正(まさ)に貪(たん)(※)と為(な)す所以(ゆえん)なり。大巧(たいこう)(※)は巧術(こうじゅつ)無(な)し。術(じゅつ)を用(もち)うる者(もの)は、乃(すなわ)ち拙(せつ)と為(な)す所以(ゆえん)なり。

(※)貪……むさぼること。利用すること。なお、『論語』の顔淵第十二には、「聞こゆる」すなわち有名であることは「達(たつ)なる者(もの)」とは違うことを述べる(拙著『全文完全対照版 論語コンプリート』顔淵第十二参照)。また、『孫子』の形篇では「天下(てんか)善(ぜん)なりと曰(い)うは、善(ぜん)の善(ぜん)なる者(もの)に非(あら)ざるなり」すなわち、ここでも有名、評判となる者と最高に有能なる将軍とは違うと述べている(拙著『全文完全対照版 孫子コンプリート』形篇参照)。
(※)大巧……本当の凄い技。真の巧妙。なお、『老子』の洪德第四十五では、「大巧(たいこう)は拙(せつ)なるが若(ごと)く」とある。

【原文】
眞廉無廉名。立名者、正所以爲貪。大巧無巧術。用術者、乃所以爲拙。

63 いっぱいでないから倒れない。完全でないから余裕がある


【現代語訳】
「欹器(いき)」という容器は、水がいっぱいになるとひっくり返る。お金入れる「撲満(ぼくまん)」という容器は、空であれば形は完全なままである(いっぱいになると打ち壊されてしまう)。だから、君子は無の境地を目指し、我欲でいっぱいの状態にいないようにしたい。満ちたりた境地にあるよりも、むしろ不足がちの境地にいるほうが良い。

【読み下し文】
欹器(いき)(※)は満(み)つるを以(もっ)て覆(くつがえ)り、撲満(ぼくまん)(※)は空(むな)しきを以(もっ)て全(まった)し。故(ゆえ)に君子(くんし)は、寧(むし)ろ無(む)(※)に居(お)るも有(ゆう)に居(お)らず、寧(むし)ろ欠(けつ)に処(お)るも完(かん)(※)に処(お)らず。

(※)欹器……からのときは傾いて、水を半分入れると正しく立ち、水が満たされると倒れるという容器。
(※)撲満……銭を貯める容器(土器)。入れる口が小さく、いっぱいになると壊されて取り出される。
(※)無……無の心境。
(※)完……満ちたりた境遇。なお、本項と同じ趣旨だと思われるのが『老子』の益謙第二十二である。「曲(きょく)なれば則(すなわ)ち全(まった)し、枉(ま)がれば則(すなわ)ち直(なお)し、窪(くぼ)めば則(すなわ)ち盈(み)ち、敝(やぶ)るれば則(すなわ)ち新(あら)たなり、少(すく)なければ則(すなわ)ち得(え)られ、多(おお)ければ則(すなわ)ち惑(まど)う」とある(益謙第二十二参照)。

【原文】
欹器以滿覆、撲滿以空全。故君子、寧居無不居有、寧處缺不處完。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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