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第23回

64〜66話

2020.01.28更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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64 名誉心や目立ちたい心はなくしたい


【現代語訳】
名誉心がまだ抜けていない者は、たとえ権力に見向きもせずに清貧の生活に甘んじていても、俗物にすぎないというべきである。また、血気(目立ちたい心)が残っている者は、どれだけ社会、世のなかに役立つことをしても、それは野心を満たすためであり価値などないといわざるをえない。

【読み下し文】
名根(めいこん)(※)の未(いま)だ抜(ぬ)けざる者(もの)は、縦(たと)い千乗(せんじょう)(※)を軽(かろ)んじ一瓢(いっぴょう)(※)に甘(あま)んずとも、総(すべ)て塵情(じんじょう)(※)に堕(お)つ。客気(かつき)(※)の未(いま)だ融(と)けざる者(もの)は、四海(しかい(を沢(うるお)し万世(ばんせい)を利(り)すと雖(いえど)も、終(つい)に剰技(じょうぎ)(※)と為(な)る。

(※)名根……名誉心。本項の解釈については、本書の後集80条参照。
(※)千乗……ここでは大国、権力を意味する。千乗とは十万人の兵を動かす諸侯を指す。もともと兵車一乗は百人から構成される兵がつく。そこから兵車千乗といい、そこそこの力ある諸侯、権力者を指すようになった。なお、『論語』でも「千乗の国」が大国を意味することを述べている(学而第一など)。
(※)一瓢……ここでは清貧の生活を指す。『論語』雍也第六に「一瓢(いっぴょう)の飲(いん)」とあることからの引用。瓢とは「ひさご」「ひょうたん」のこと。これを半分に切って椀とした。
(※)塵情……俗物にすぎない。俗世間の塵や埃によごれた心。
(※)客気……血気。目立ちたい心。
(※)剰技……価値がない。無益なこと。本項の意見は少し厳しすぎるように思うが、著者の洪自誠が若手官僚のころに、嫌なことを多く見聞きしたことによるものが、こう言わせているに違いない。

【原文】
名根未拔者、縱輕千乘甘一瓢、總墮塵情。客氣未融者、雖澤四海利萬世、終爲剩技。

65 心が正しく澄みきっていて光り輝いていれば、恐いものはない


【現代語訳】
心の本体が正しく澄みきっていて光り輝いていれば、たとえまわりが暗くて怪しくても、さわやかで良心を見失うことはない。よからぬ気持ちでいっぱいの人は、白日のもとにいようが、悪魔にとりつかれてしまう。

【読み下し文】
心体光明(しんたいこうみょう)(※)なれば、暗室(あんしつ)の中(なか)にも青天(せいてん)有(あ)り。念頭暗昧(ねんとうあんまい)なれば、白日(はくじつ)の下(もと)にも厲鬼(れいき)(※)を生(しょう)ず。

(※)心体光明……心の本体が正しく澄みきっていて光り輝いている。幕末の儒学者である佐藤一斎の『言志四録』に「自彊不息(じきょうふそく)の時候(じこう)、心地光光明明(しんちこうこうめいめい)なり」(人が自ら一生懸命に学び続けているときは、その心は光に満ちてまことに明るいものである)とある。また「青天白日(せいてんはくじつ)は、常(つね)に我(われ)に在(あ)り」ともある。本項の趣旨に合致している。
(※)厲鬼……悪魔。怨霊。

【原文】
心體光明、暗室中有靑天。念頭暗昧、白日下生厲鬼。

66 本当の幸せは名誉や地位を得ることとは関係ないところにある


【現代語訳】
人は名誉や地位を得ることが楽しいことを知っているが、もっと楽しいことが名誉や地位などとは関係のないところにあるのを知らない。人は飢えたり、凍えたりする衣食の不足した生活を不幸だと知っているが、衣食に事欠かない富んだ者のほうが深い悩みを背負っているのを知らない。

【読み下し文】
人(ひと)は名位(めいい)(※)の楽(たの)しみ為(た)るを知(し)るも、名(な)無(な)く位(くらい)無(な)きの楽(たの)しみの最(もっ)とも真(しん)たるを知(し)らず。人(ひと)は饑寒(きかん)の憂(うれ)い為(た)るを知(し)るも、饑(う)えず寒(こご)えざるの憂(うれ)いの更(さら)に甚(はなはだ)しきものたるを知(し)らず。

(※)名位……名は名誉、名声、位は官位、地位。なお、前にも少し紹介したが、『孟子』は有名な「君子の三楽」を挙げている(尽心上篇)。①家庭生活の平穏無事、②自己の言動、行動がやましくないこと、③優秀な後輩を教育すること、である。このなかには王になることや名誉、地位も入っていない。本項は、この考え方も受けていると思われる。また、資本主義の祖といわれるイギリスのアダム・スミスも、「人は借金や負債がなく普通の生活ができることが幸せであり、それ以上の余分な生活をしていると不幸になりがち」(『道徳感情論』)と述べている。

【原文】
人知名位爲樂、不知無名無位之樂爲最眞。人知饑寒爲憂、不知不饑不寒之憂爲更甚。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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