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第25回

70〜72話

2020.01.30更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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70 楽しく喜ぶ気持ちを養って幸福を呼び込もう


【現代語訳】
幸福というのは、こちらから求めて得られるものではない。ただ、日ごろから楽しく喜ぶ気持ちを養い育てて、幸福を招き入れるようにしておきたい。不幸は、こちらで避けようとしても避けられるものではない。ただ、殺気立って人を害そうとする心をいつも取り去っておくようにし、不幸から遠ざかるようにしておきたい。

【読み下し文】
福(ふく)は徼(もと)む(※)べからず。喜神(きしん)を養(やしな)いて、以(もっ)て福(ふく)を召(まね)くの本(もと)と為(な)さんのみ。禍(わざわ)いは避(さ)くべからず。殺機(さつき)を去(さ)りて、以(もっ)て禍(わざわ)いに遠(とお)ざかるの方(ほう)と為(な)さんのみ。

(※)徼む……こちらから求める。

【原文】
福不可徼。養喜神、以爲召福之本而已。禍不可避。去殺機、以爲遠禍之方而已。

71 普段から自分は大したことがないと装っておくほうが賢い


【現代語訳】
十語のうち九語まで当たっていても、さして感心はされない(特別に優れた人とは評価されない)。一語でも当たっていないものがあれば、批難にさらされる。十回の企画のうち九回うまくいったとしても、それほど評価はされない(功績が評価されるとは限らない)。一回でもうまくいかないと、たちまち批判が集中する。だから君子は、多くしゃべり騒ぎ立てるより、むしろ黙っているべきであり、自分は大したことがないと装うほうが、利口ぶるより良いのである。

【読み下し文】
十(じゅう)の語(ご)九(きゅう)中(あた)るも、未(いま)だ必(かなら)ずしも奇(き)(※)と称(しょう)せず。一語(いちご)中(あた)らざれば、則(すなわ)ち愆尤(けんゆう)(※)騈(なら)び集(あつ)まる。十(じゅう)の謀九(ぼうきゅう)成(な)るも、未(いま)だ必(かなら)ずしも功(こう)を帰(き)せず。一謀(いちぼう)成(な)らざれば、則(すなわ)ち訾議(しぎ)(※)叢(むらが)り興(おこ)る。君子(くんし)は、寧(むし)ろ黙(もく)して躁(そう)(※)なること毋(な)く、寧(むし)ろ拙(せつ)にして功(こう)なること毋(な)き所以(ゆえん)なり。

(※)奇……普通の人と違う優れた人。
(※)愆尤……批難。過ちをとがめること。
(※)訾議……批判。中傷。
(※)躁……多くしゃべる。騒ぎ立てる。なお、『老子』には「多言(たげん)は数〻(しばしば)窮(きゅう)す」(虛用第五)とあり、また、「知(し)る者(もの)は言(い)わず、言(い)う者(もの)は知(し)らず」(玄德第五十六)とある。さらに「善(ぜん)なる者(もの)は弁(べん)ぜず、弁(べん)ずる者(もの)は善(ぜん)ならず」(顯質第八十一)とする。『論語』でもあちこちで孔子は口がうまいこと、しゃべりすぎることの危うさを述べている(「君子(くんし)は言(げん)に訥(とつ)にして、行(おこな)いに敏(びん)ならんことを欲(ほっ)す」(里仁第四)や「仁者(じんしゃ)は其(そ)の言(い)うこと訒(おそ)し」顔淵第十二など)。また、前述の新渡戸稲造の『修養』は、またも本項の本文章を全文引用した上で、「かく人間は世に処して毀誉を免れぬものとすれば、これがために心の平衡を失わぬように心がける」とともに「これを善用して己の反省を促すことにすれば、非難を受けた害よりも、いっそう向上的の利益を受けることが多いと信ずる」と述べている。自らの体験からくる重みのある言葉である。

【原文】
十語九中、未必稱奇。一語不中、則愆尤騈集。十謀九成、未必歸功。一謀不成、則訾議叢興。君子所以寧默毋躁、寧拙毋巧。

72 心の温かく親切な人が幸せになる


【現代語訳】
気候が暖かくなると万物が生育し、寒くなると万物が枯れ死んでいく。同じように人も心の冷たい人は、天から受ける幸せが薄くなる。心が温かく親切な人は、受ける幸せが厚くなるし、その恩恵も長く受けられる。

【読み下し文】
天地(てんち)の気(き)は暖(だん)なれば則(すなわ)ち生(しょう)じ、寒(かん)なれば則(すなわ)ち殺(さい)す。故(ゆえ)に性気(せいき)の清冷(せいれい)なる者(もの)は、受享(じゅきょう)(※)も亦(ま)た涼薄(りょうはく)(※)なり。唯(た)だ和気熱心(わきねっしん)(※)の人(ひと)のみ、其(そ)の福(ふく)も亦(ま)た厚(あつ)く、其(そ)の沢(たく)(※)も亦(ま)た長(なが)し。

(※)受享……うける。天より受ける幸福。
(※)涼薄……うすい。
(※)熱心……温情。親切心。心が温かく親切。本項の解釈については、本書の前集160条、207条も参照。
(※)沢……恩恵、恩沢。「うるおい」とも読む。

【原文】
天地之氣暖則生、寒則殺。故性氣淸冷者、受享亦涼薄。唯和氣熱心之人、其福亦厚、其澤亦長。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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