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第31回

88〜90話

2020.02.07更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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88 苦しいなかでも楽しみが感じられるようにしたい


【現代語訳】
静かな環境のなかで、心を静かにすることができたとしても、それはまだ本当の静かな心ではない。さわがしいなかで、心を静かにできたら本当の心のあり方を見つけたといえる。楽な環境のなかで、心の楽しみが感じられても、それは本当の楽しみではない。苦しいなかで、心を楽しませることができたら、本当の心のはたらき方が見えるようになる。

【読み下し文】
静中(せいちゅう)の静(せい)は真静(しんせい)に非(あら)ず、動処(どうしょ)に静(せい)にし得(え)来(き)たりて、纔(わず)かに是(こ)れ(※)性天(せいてん)の真境(しんきょう)なり。楽処(らくしょ)の楽(らく)は真楽(しんらく)に非(あら)ず、苦中(くちゅう)に楽(たの)しみ得(え)来(き)たりて、纔(わず)かに心体(しんたい)の真機(しんき)(※)を見(み)る。

(※)「纔かに是れ〜」……「それでようやく〜である」。
(※)真機……本当のはたらき。真の心のはたらき。なお、本書の前集58条参照。

【原文】
靜中靜非眞靜、動處靜得來、纔是性天之眞境。樂處樂非眞樂、苦中樂得來、纔見心體之眞機。

89 人のために犠牲になると決意をしたなら、ためらわない


【現代語訳】
身を捨てて人のために犠牲になると決意をしたからには、利害打算の迷いを捨てるべきだ。もし、その迷いが捨てられなかったら、初めの志を辱(はずかし)めてしまう。また人に恩を施したなら、その報酬の見返りを求めてはならない。報酬の見返りを求めたなら、恩を施した初めの動機が不純なものとなってしまう。

【読み下し文】
己(おのれ)を舎(す)て(※)ては、其(そ)の疑(うたが)いに処(お)ること毋(な)かれ。其(そ)の疑(うたが)いに処(お)れば、即(すなわ)ち舎(す)つる所(ところ)の志(こころざし)、多(おお)く愧(は)ず。人(ひと)に施(ほどこ)しては、其(そ)の報(むく)い(※)を責(せ)むること毋(な)かれ。其(そ)の報(むく)いを責(せ)むれば、併(あわ)せて施(ほどこ)す所(ところ)(※)の心(こころ)も俱(とも)に非(ひ)なり。

(※)己を舎て……身を捨てる。
(※)報い……報酬、見返り。本書の前集51 条、52条参照。
(※)施す所……原文の「施」を「舎」とするものもあるが、そうすると「舎てる所」となる。しかし、「舎」は「施」の誤りとする説が多い。本書もこれに従う。

【原文】
舍己、毋處其疑。處其疑、卽所舍之志、多愧矣。施人、毋責其報。責其報、併所施之心、俱非矣。

90 何ものも阻(はば)むことのできない覚悟を持つ


【現代語訳】
天が私を冷遇して不幸という試練を与えるなら、私はさらに徳を厚くし、人格を磨いて幸福を勝ちとろう。天が私の肉体に苦しみを課するなら、私は心を楽にして平安を得て、苦しみを乗り越えていこう。天が私を苦境に落として行く手を阻むなら、私は自分の努力で我が道を貫いていってみせよう。以上のような覚悟があるなら、天も私をどうしようもできないはずだ。

【読み下し文】
天(てん)、我(われ)に薄(うす)くするには福(ふく)を以(もっ)てせば、吾(われ)は吾(わ)が徳(とく)を厚(あつ)くして以(もっ)て之(これ)を迓(むか)えん。天(てん)、我(われ)を労(ろう)するに形(かたち)(※)を以(もっ)てせば、吾(われ)は吾(わ)が心(こころ)を逸(いつ)にして以(もっ)て之(これ)を補(おぎ)なわん。天(てん)、我(われ)を阨(やく)するに遇(ぐう)を以(もっ)てせば(※)、吾(われ)は吾(わ)が道(みち)を亨(とお)(※)らしめて以(もっ)て之(これ)を通(つう)ぜん。天(てん)且(か)つ我(われ)を奈何(いかん)せんや。

(※)形……ここでは肉体、からだの意味。
(※)我を阨するに遇を以てせば……私を苦境に落として行く手を阻むなら。「阨」は苦しめる、「遇」は境遇。ここでは、あくまで天を敵視するのではなく、天は自分を試して、その上で鍛えてくれているのだという前向きな姿勢をすすめているものである。なお、本項では『孟子』の有名な一文が当然の予備知識として前提になっているように思える。少し長いが引用する。「天(てん)の将(まさ)に大任(たいにん)を是(こ)の人(ひと)に降(くだ)さんとするや、必(かなら)ず先(ま)ず其(そ)の心(しん)志(し)を苦(くる)しめ、其(そ)の筋骨(きんこつ)を労(ろう)せしめ、其(そ)の体膚(たいふ)を餓(が)せしめ、其(そ)の身行(ふるまい)を空乏(くうぼう)せしめ、其(そ)の為(な)さんとする所(ところ)を払乱(ふつらん)せしむ。心(こころ)を動(うご)かし性(せい)を忍(しの)ばせ、其(そ)の能(よ)くせざる所(ところ)を曾益(ぞうえき)せしむる所以(ゆえん)なり。人(ひと)恒(つね)に過(あやま)ちて、然(しか)る後(のち)に能(よ)く改(あらた)め、心(こころ)に困(くる)しみ、慮(おもんばか)りに衡(み)ちて、而(しか)る後(のち)に作(おこ)り、色(いろ)に徴(あら)われ声(こえ)に発(はっ)して、而(しか)る後(のち)に喩(さと)る」(告子下篇)。
(※)亨……貫く。進む。通る。

【原文】
天薄我以福、吾厚吾德以迓之。天勞我以形、吾逸吾心以補之。天阨我以遇、吾亨吾衜以通之。天且奈我何哉。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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