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第36回

103〜105話

2020.02.17更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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103 万物は一体のものである


【現代語訳】
幻にすぎない現実世界においては、功名や富貴はいうまでもなく、我が肉体でさえ、天から預かっている仮のものである。一方、真実の世界では、父母兄弟の肉親はおろか、万物がすべて自分と一体のものである。このことをよくわかったものだけが、社会のために良い仕事をでき、世間のしばりから解き放たれて、正しい道を歩けるのである。

【読み下し文】
幻迹(げんせき)(※)を以(もっ)て言(い)えば、功名富貴(こうみょうふうき)に論(ろん)無(な)く(※)、即(すなわ)ち肢体(したい)も亦(ま)た委刑(いけい)(※)に属(ぞく)す。真境(しんきょう)を以(もっ)て言(い)えば、父母(ふぼ)兄弟(けいてい)に論(ろん)無(な)く、則(すなわ)ち万物(ばんぶつ)も皆(みな)吾(われ)と一体(いったい)なり(※)。人(ひと)能(よ)く看(み)得(え)て破(やぶ)り、認(みと)め得(え)て真(しん)ならば、纔(わず)かに天下(てんか)の負担(ふたん)に任(にな)うべく、亦(ま)た世間(せけん)の韁鎖(きょうさ)(※)を脱(だっ)すべし。

(※)幻迹……まぼろしにすぎない現実世界。仮の世界。
(※)論無く……言うまでもなく。
(※)委刑……預かっている仮のもの。委託された仮の形骸。なお、『論語』の顔淵第十二に、子夏の言葉として「商(しょう)(子夏のこと)之(これ)を聞(き)く。死生(しせい)、命(めい)有(あ)り。富貴(ふうき)は天(てん)に有(あ)り、と」とある。
(※)万物も皆吾と一体なり……『荘子』に「天地は我と並び生じて、万物も我と一たり」(斉物論篇)とある。なお、『老子』の歸根第十六、象元第二十五、養德第五十一参照。本書の前集125条も参照。
(※)韁鎖……しばり。束ばく。

【原文】
以幻迹言、無論功名富貴、卽肢體亦屬委形。以眞境言、無論父母兄弟、卽萬物皆吾一體。人能看得破、認得眞、纔可任天下之負擔、亦可脫世閒之韁銷。

104 おいしいもの、楽しいものは、ほどよく度を越さない程度にする


【現代語訳】
人の口を喜ばせる珍味や美食は、度を越すと腸を痛め、骨を腐らせるなど体を壊す毒楽になる。だから、ほど良く五分程度にしておくと害はない。同じく人の心を喜ばせる楽しみ事、誘惑事は、度を越すと身を滅ぼし、徳を失うもととなる。だから、これもほど良く五分程度にとどめておくと悔いることはなくなる。

【読み下し文】
爽口(そうこう)の味(あじ)(※)は、皆爛腸腐骨(みならんちょうふこつ)の薬(くすり)(※)なり。五分(ごぶ)(※)ならば便(すなわ)ち殃(わざわ)い無(な)し。快心(かいしん)の事(こと)は、悉(ことごと)く敗身(はいしん)喪徳(そうとく)の媒(なかだち)なり。五分(ごぶ(ならば便(すなわ)ち悔(くい)なし。

(※)爽口の味……口を喜ばせる珍味、美食。なお、『老子』は「五味(ごみ)は人の口をして爽(たが)わしむ」(檢欲第十二)と述べている。
(※)爛腸腐骨の薬……腸を痛め、骨を腐らせる毒薬。
(※)五分……ほど良く。五分程度。『菜根譚』は、「人の心には、一日も欠かすことなく喜びと楽しい気持ちがなければならない」(前集6条)とするが、ここでも中庸を忘れてはならないとする。それでも美食や喜び、楽しみ事、誘惑事のすべてを禁じろとは言っていないことにも注意しなくてはならない。本項の解釈については、本書の前集200条も参照。

【原文】
爽口之味、皆爛腸腐骨之藥。五分便無殃。快心之事、悉敗身喪德之媒。五分便無悔。

105 人が思い出したくない過去の失敗や悪事をいつまでも覚えておかない


【現代語訳】
人の小さな過失をいちいち責めない。人の隠したいことを無理に暴かない。人が思い出したくない過去の失敗や悪事をいつまでも覚えておかない。この三つを心がけると、徳を修め人格を高めることになり、人からうらまれて害に巻き込まれることもなくなる。

【読み下し文】
人(ひと)の小過(しょうか)を責(せ)めず、人(ひと)の陰私(いんし)(※)を発(あば)かず、人(ひと)の旧悪(きゅうあく)を念(おも)わず(※)。三者(さんしゃ)、以(もっ)て徳(とく)を養(やしな)うべく、亦(ま)た以(もっ)て害(がい)に遠(とお)ざかるべし。

(※)陰私……隠したいこと。
(※)旧悪を念わず……人が思い出したくない過去の失敗や悪事をいつまでも覚えておかない(もちろん言わない)。なお、『論語』にも「伯夷(はくい)、叔斉(しゅくせい)は、旧悪(きゅうあく)を念(おも)わず。怨(うら)み、是(ここ)を用(もっ)て希(まれ)なり」(公冶長第五)とある。

【原文】
不責人小過、不發人陰私、不念人舊惡。三者、可以養德、亦可以遠害。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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