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第35回

100〜102話

2020.02.14更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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100 我がままに育つと他人ばかりか自分もだめにしやすい


【現代語訳】
お金持ちや権力者の家に生まれ育つと、どうしても甘やかされ我がままになりやすい。すると欲望は猛火のように激しく、権勢欲も燃えさかる炎のように強いものとなる。だから、これらを少しでも冷やすことを心がけておかないと、他人を焼き払うか、さもなければ自分自身を焼き尽くしてしまうことになる。

【読み下し文】
富貴(ふうき)の叢中(そうちゅう)(※)に生長(せいちょう)する的(もの)は、嗜欲(しよく)は猛火(もうか)の如(ごと)く、権勢(けんせい)は烈焔(れつえん)に似(に)たり。若(も)し些(いささか)の清冷(せいれい)の気味(きみ)(※)を帯(お)びざれば、其(そ)の火焔(かえん)は人(ひと)を焚(や)くに至(いた)らざれば、必(かなら)ず将(まさ)に自(みずか)ら爍(や)かんとす。

(※)富貴の叢中……お金持ちや権力者の家。富貴の人々のなか。イギリスの作家のサミュエル・スマイルズは、『自助論』のなかで同じイギリスの大哲学者・ベーコンの次の言葉を引用しているのが参考になる。「人は自分の富についても自分の能力についても正しく理解していない。富については、実際以上に高く評価を置き、自分の能力については、実際以上に低く見てしまっている。自分の能力を信じ、自分を動かすことができる者は、自分で水桶から水を飲み、自分で手に入れたパンを食べることを学ぶ。つまり、自ら生計を立てる方法を学び、自分が正しいと思うことを他にも施せるようになるのだ」(野中訳)。
(※)清冷の気味……少しでも冷やすこと。さます気分。

【原文】
生長富貴叢中的、嗜欲如猛火、權勢似烈焰。若不帶些淸冷氣味、其火焰不至焚人、必將自爍矣。

101 人は真心で雲泥の差が出る


【現代語訳】
人の真心から出た一念(強い思い)は、たとえるなら夏でも霜を降らし、城壁をも崩し、金属の鉱石をも貫き通すほどの力がある。これに対し、ウソばかりの人は、かっこうばかりのニセモノで、外見はあっても中身がない。だから、人に対する顔つきも憎たらしくなって結局嫌われるし、自分一人でいるときも自己嫌悪に陥ってくるはずだ。

【読み下し文】
人心(じんしん)、一(ひと)たび真(しん)なれば、便(すなわ)ち霜(しも)をも飛(と)ばす(※)べく、城(しろ)をも隕(おと)す(※)べく、金石(きんせき)をも貫(つらぬ)く(※)べし。偽妄(ぎぼう)の人(ひと)の若(ごと)きは、形骸(けいがい)は徒(いたず)らに具(そな)わるも、真宰(しんさい)(※)は已(すで)に亡(ほろ)ぶ。人(ひと)に対(たい)せば則(すなわ)ち面目(めんもく)憎(にく)むべく、独(ひと)り居(お)れば則(すなわ)ち形影(けいえい)自(みずか)ら媿(は)ず。

(※)霜をも飛ばす……夏に霜を降らす。宋の時代に編纂された『太平御覧(たいへいぎょらん)』にある戦国時代の思想家・鄒衍(すうえん)の故事からきている。鄒衍は夏に霜を降らせたという。
(※)城をも隕す……城壁もくずれ落ちる。斉の杞梁(きりょう)の妻に関する故事からきている。
(※)金石をも貫く……金属、鉱石をも貫く。漢の〝飛将軍〟李り広(こう)の故事からきている。なお、『朱子語類』には、「陽気(ようき)の発(はっ)する処(ところ)、金石(きんせき)もまた通(とお)る。精神一到(せいしんいっとう)、何事(なにごと)か成(な)らざらん」とある。また、孟子の有名な言葉「至誠(しせい)にして動(うご)かざる者(もの)は、未(いま)だこれ有(あ)らざるなり。誠(まこと)ならずして、未(いま)だ能(よ)く動(うご)かす者(もの)は有(あ)らざるなり」(離婁上篇)も本項の参考になる。
(※)真宰……中身。本心。良心。『荘子』の斉物論篇にある言葉。本項の解釈については、本書の前集47条参照。

【原文】
人心一眞、便霜可飛、城可隕、金石可貫。若僞妄之人、形骸徒具、眞宰已亡。 對人則面目可憎、獨居則形影自媿。

102 最高の域までいくと、ありのままですばらしい


【現代語訳】
文章は最高の域に達すると、それは何も特別な技巧などを使わずに、そのままぴったりと合った表現ですばらしいものとなる。人の品格も最高の域に達すると、特別なことをするわけでもなく、ありのままですばらしいものとなる。

【読み下し文】
文章(ぶんしょう)は極処(きょくしょ)に做(な)し到(いた)れば、他(た)の奇(き)あることなく、只(た)だ是(こ)れ恰好(かっこう)(※)のみ。人品(じんひん)(※)は極処(きょくしょ)に做(な)し到(いた)れば、他(た)の異(い)有(あ)ること無(な)く、只(た)だ是(こ)れ本然(ほんぜん)(※)のみ。

(※)恰好……すばらしい。ちょうど良い具合。
(※)人品……人の品格。
(※)本然……ありのまま。自然のまま。

【原文】
文章做到極處、無有他奇。只是恰好。人品做到極處、無有他異。只是本然。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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