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第38回

109〜111話

2020.02.19更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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109 元気なとき、勢いのあるときに自重する


【現代語訳】
年をとってからの病気は、すべて若くて血気の盛んな時期の不摂生が招いたものである。また、落ち目になってからの禍いは、景気の良い盛んなときの調子に乗った行いの報いである。だから勢いがあって満ち足りたときには、君子たるもの、自分を最も戒め慎むようにすべきである。

【読み下し文】
老来(ろうらい)(※)の疾病(しっぺい)は、都(すべ)て是(こ)れ壮時(そうじ)(※)に招(まね)きしものなり。衰後(すいご)の罪孽(ざいげつ)(※)は、都(すべ)て是(こ)れ盛時(せいじ)に作(な)せし的(もの)なり。故(ゆえ)に盈(えい)を持(じ)し満(まん)を履(ふ)むは、君子(くんし)尤(もっと)も兢兢(きょうきょう)(※)たり。

(※)老来……年をとってから。老後。
(※)壮時……若くて血気の盛んな時期。はたらき盛り。一般に三十代を指すが、今では四十代も含めていいだろう。「少」は二十代まで。「老」は五十歳以降ということになろう。本項の解釈については、本書の後集57条参照。(※)罪孽……過い。罪過。『孟子』は「禍福(かふく)は己(おのれ)より之(これ)を求(もと)めざるという者(もの)無(な)し」(公孫丑上篇)とする。また、貝原益軒の『養生訓』では、老子が「人(ひと)の命(いのち)は我(われ)にあり、天(てん)にあらず」と言っていると紹介している。
(※)兢兢……恐れ慎む。『詩経』に「戦戦兢兢(せんせんきょうきょう)として深淵(しんえん)に臨(のぞ)むが如(ごと)く、薄冰(はくひょう)を履(ふ)むが如(ごと)く」とある。なお、本項は『老子』のいくつかの教えが参考になる。『老子』の立戒第四十四は、「足(た)るを知(し)れば辱(はずかし)められず、止(とど)まるを知(し)れば殆(あや)うからず」。また、儉武第三十では、「物(もの)は壮(さかん)なれば則(すなわ)ち老(お)ゆ。是(これ)を不動(ふどう)と謂(い)う。不動(ふどう)は早(はや)く已(や)む」とする。さらに運夷第九は、「富貴(ふうき)にして驕(おご)るは、自(みずか)ら其(そ)の咎(とが)を遺(のこ)す」としている。

【原文】
老來疾病、都是壯時招的。衰後罪孽、都是盛時作的。故持盈履滿、君子尤兢兢焉。

 

110 目立つことをして喜ぶより、人としてやるべきことをやっていく


【現代語訳】
個人的な恩を人に売りつけるより、世の正しいと思う意見に味方したほうが良い。新しい友人をつくるよりは、昔からの古い友人との付き合いを厚くするほうが良い。売名行為をするよりは、陰徳を積んでいくほうが良い。目立つことをして喜ぶより、人としてやるべきことをやり、身を慎んでいくほうが良い。

【読み下し文】
私恩(しおん)を市(う)る(※)は、公議(こうぎ)を扶(たす)くるに如(し)かず。新知(しんち)を結(むす)ぶは、旧好(きゅうこう)を敦(あつ)くする(※)に如(し)かず。栄名(えいめい)(※)を立(た)つるは、陰徳(いんとく)を種(う)うるに如(し)かず。奇節(きせつ)を尚(たっと)ぶは、庸行(ようこう)(※)を謹(つつし)むに如(し)かず。

(※)市る……売る。
(※)旧好を敦くする……昔からの古い友人との付き合いを厚くする。旧交をあたためる。なお、『論語』の泰伯第八で孔子は、君子たる者は「故旧(こきゅう)遺(わす)れざれば、則(すなわ)ち民(たみ)、偸(うす)からず」(昔から付き合っている人を忘れず大事にしていると、人々の人情も厚くなるものだ)と述べている。旧友を大切にすることについては、本書の前集211条も参照。
(※)栄名……派手な評判。
(※)庸行……日常のやるべき行い。

【原文】
市私恩、不如扶公議。結新知、不如敦舊好。立榮名、不如種隱德。尙奇節、不如謹庸行。

 

111 正当な意見に私情による反対をしてはいけない


【現代語訳】
誰から見ても正当な意見には、私情による反対はさし控えるべきである。何らかの思惑で反対すると、それは後々まで恥辱となる。権力をほしいままにし、私利私欲をむさぼる人たちのところに近づいてはいけない。もし少しでも近づいて関係を持つと、一生の汚点を残すことになる。

【読み下し文】
公平正論(こうへいせいろん)には、手(て)を犯(おか)す(※)べからず。一(ひと)たび犯(おか)せば則(すなわ)ち羞(はじ)を万世(ばんせい)に胎(のこ)す。権門私竇(けんもんしとう)(※)には、脚(あし)を着(つ)く(※)べからず。一(ひと)たび着(つ)くれば則(すなわ)ち終身(しゅうしん)を点(てん)汚(お)す。

(※)手を犯す……反対する。前集110条も参照。
(※)権門私竇……権力をほしいままにし、私利私欲をむさぼる人たち。「竇」は穴。たまり場を意味する。
(※)着く……近づいて関係を持つ。足を踏み入れる。本項の解釈については、本書の前集174条参照。

【原文】
公平正論、不可犯手。一犯則貽羞萬世。權門私竇、不可着脚。一着則點汚終身。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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