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第40回

115〜117話

2020.02.21更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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115 与える愛が重すぎるとかえって仇となることがある


【現代語訳】
いくら大金を与えても、その場限りの一時の感謝ですらされない場合もあるし、たった一度のご飯を恵んであげただけなのに、一生感謝されることもある。このように与える愛が重すぎればかえってそれが仇となることはあるし、ほんのわずかな恩恵にすぎないのに、かえって心から喜ばれることもある。

【読み下し文】
千金(せんきん)も一時(いちじ)の歓(かん)(※)を結(むす)び難(がた)く、一飯(いっぱん)も竟(つい)に(※)終身(しゅうしん)の感(かん)を致(いた)す。蓋(けだ)し(※)愛(あい)重(おも)ければ反(かえ)って仇(あだ)と為(な)り、薄(はく)極(きわ)まりて翻(かえ)って喜(よろこ)びを成(な)すなり。

(※)一時の歓……その場かぎりの一時の感謝。喜び。
(※)竟に……意外に。案外と。
(※)蓋し……このように。思うに。なぜなら。
(※)薄極まり……愛情が極めて薄い。本項の解釈については、本書の前集108条参照。

【原文】
千金難結一時之歡、一飯竟致終身之感。蓋愛重反爲仇、薄極飜成喜也。

 

116 本当に優れた人は目立たず生きる


【現代語訳】
優れた才能があるものの、それを隠しながら見た目は愚かのようにしていても、実は賢い。清く生きていても、世俗にうまく合わせて身を屈しているようだが、それは将来に大きく伸びるためである。こうした生き方が、真に世のなかを渡っていくための貴重な一つの浮き袋になるし、安全に身を隠せる三つの穴となってくれる。

【読み下し文】
巧(こう)を拙(せつ)に蔵(ぞう)し(※)、晦(かい)を用(も)ってして而(しか)も明(めい)にし、清(せい)を濁(だく)に寓(ぐう)し、屈(くつ)を以(もっ)て伸(しん)と為(な)す(※)。真(まこと)に世(よ)を渉(わた)るの一壺(いっこ)(※)にして、身(み)を蔵(かく)するの三窟(さんくつ)(※)なり。

(※)巧を拙に蔵し……優れた才能があっても、それを隠す。巧妙さを内に隠し、拙劣なふるまいをする。なお、『老子』の洪德第四十五にも「大巧(たいこう)は拙(せつ)なるが若(ごと)く」とある。
(※)屈を以て伸と為す……身を屈しているようだが、それは、将来大きく伸びるためのものである。なお、吉田松陰は牢獄に入るときに父が言ってくれた次の言葉を紹介している。「家君(かくん)欣然(きんぜん)として曰(いわ)く、『一時(いちじ)の屈(くつ)は萬世(ばんせい)の伸(しん)なり、庸詎(いずくん)ぞ傷(いた)まん』」(「投獄紀事」)
(※)一壺……一つの浮き袋。これは道家の書の一つ『鶡冠子(けいかんし)』にある「中流(ちゅうりゅう)に、船(ふね)を失(うしな)えば、一壺(いっこ)も千金(せんきん)」からの言葉である。
(※)三窟……三つの穴。これは『戦国策(せんごくさく)』にある馮諼(ふうけん)の次の言葉からのものである。「狡兎(ごうと)に三窟(みくつ)有(あ)りて、僅(わずか)にその死(し)を免(まぬが)るるを得(え)るのみ」。

【原文】
藏巧於拙、用晦而明、寓淸之濁、以屈爲伸。眞涉世之一壺、藏身之三窟也。

 

117 事が起きたときはひたすら耐え忍ぶ


【現代語訳】
物事が衰え始めるきざしは、最も勢いが盛んなときにすでに現れ、新しい物が生まれ始めるのは、底に落ち込んでしまっているときである。だから君子は順調なときに気を引き締めていざというときに備えておき、事が起きて大変なときは、ひたすら耐え忍んで、目的を果たすようにしなければならない。

【読み下し文】
衰颯(すいさつ)の景象(けいしょう)(※)は、就(すなわ)ち(※)盛満(せいまん)の中(なか)に在(あ)り、発生(はっせい)の機緘(きかん)は、即(すなわ)ち零落(れいらく)の内(うち)に在(あ)り。故(ゆえ)に君子(くんし)は安(やす)きに居(お)りては、宜(よろ)しく一心(いっしん)を操(と)りて以(もっ)て患(かん)を慮(おもんばか)るべく、変(へん)に処(しょ)しては、当(まさ)に百忍(ひゃくにん)(※)を堅(かた)くして以(もっ)て成(な)るを図(はか)るべし。

(※)衰颯の景象……物事が衰え始めるきざし。
(※)就ち……すでに。すぐにもう。本項の解釈については、本書の前集10条参照。
(※)百忍……ひたすら耐え忍ぶ。唐の張公芸は一家九世同居しながら仲むつまじいことで有名であった。高宗が立ち寄ったとき、その秘訣を聞くと、紙に忍の字を百あまり書いたという故事に基づく(『旧唐書(くとうしょ)』)。なお、トヨタグループの創始者・豊田佐吉家の床の間には『百忍千鍛事遂全』の書があった。困難を耐え忍ぶ大切さについては、本書の前集10条、68条も参照。なお、『菜根譚』は、苦しみのなかでも毎日を喜びと楽しい気持ちを見出すこともすすめている(本書の前集6条、107条)。

【原文】
衰颯的景象、就在盛滿中、發生的機緘、卽在零落內。故君子居安、宜操一心以慮患、處變、當堅百忍以圖成。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 菜根譚コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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