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第98回

67〜69話

2020.05.21更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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67 人間本来の性に合った悠々とした生活


【現代語訳】
立派な衣服で着飾った高位高官の人でも、ひとたび粗末で質素な服を着て、気ままに生きているような人を見れば、うらやましいと思うときがあるに違いない。また、豪華な暮らしをしている富豪でも、ひとたび粗末なすだれの下で、さっぱりとした机に向かって読書をしている、ゆったりとした生活をしている人を見ば、うらやましくなるに違いない。それなのに人はどうして、牛を駆り立てるために尻尾に火をつけたり、さかりのついた馬を誘惑するかのように、地位、名誉そして財産を追い求めるのだろうか。どうして人間本来の性に合った生活をしようとしないのだろうか。

【読み下し文】
峩冠大帯(がかんだいたい)(※)の士(し)も、一旦(いったん)、軽簔(けいさ)小笠(しょうりゅう)の飄飄(ひょうひょう)然(ぜん)として逸(いつ)するを睹(み)れば、未(いま)だ必(かなら)ずしも其(そ)の咨嗟(しさ)(※)を動(うご)かさずんばあらず。長筵(ちょうえん)広席(こうせき)の豪(ごう)(※)も、一旦(いったん)、疎簾(それん)浄几(じょうき)の悠悠(ゆうゆう)焉(えん)として静(しず)かなるに遇(あ)えば、未(いま)だ必(かなら)ずしも其(そ)の綣恋(けんれん)(※)を増(ま)さずんばあらず。人(ひと)奈何(いかん)ぞ、駆(か)るに火牛(かぎゅう)(※)を以(もっ)てし、誘(さそ)うに風馬(ふうば)(※)を以(もっ)てして、其(そ)の性(せい)に自適(じてき)するを思(お)もわざるや。

(※)峩冠大帯……本書の前集169条参照。
(※)咨嗟……うらやましいと思う。
(※)長筵広席の豪……豪華な暮らしをしている富豪。
(※)綣恋……うらやましくなる。
(※)火牛……尻尾に火のついた牛。『史記』(田単伝)の故事による。
(※)風馬……さかりのついた馬。『左伝』(僖公四年)の故事による。

【原文】
峩冠大帶之士、一旦、睹輕簔小笠飄飄然逸也、未必不動其咨嗟。長筵廣席之豪、一旦、遇疎簾淨几悠悠焉靜也、未必不增其綣戀。人奈何、驅以火牛、誘以風馬、而不思自適其性哉。

 

68 天地自然のなかで、本来の人間らしくのびのびと楽しんで生きる


【現代語訳】
魚は水を得て水のなかを自由に泳ぎまわるが、水も魚も、お互いの存在など忘れている。鳥は風に乗って飛んでいるが、風の存在など知らなくて気づいてもいない。こうした天地自然の道理がわかると、私たちも地位、名誉、財産そして人間関係などのわずらわしい俗事をすっかり超越し、本来の人間らしくのびのびと楽しんで生きることができるようになるはずである。

【読み下し文】
魚(うお)は水(みず)を得(え)て逝(ゆ)き、而(しか)して水(みず)を相(あい)忘(わす)れ(※)、鳥(とり)は風(かぜ)に乗(じょう)じて飛(と)んで、風(かぜ)有(あ)るを知(し)らず。此(これ)を識(し)らば、以(もっ)て物累(ぶつるい)(※)を超(こ)ゆべく、以(もっ)て天機(てんき)(※)を楽(たの)しむべし。

(※)水を相忘れ……水も鳥もお互いの存在を忘れている。なお、『荘子』には「魚は江湖に相忘れ、人は道術に相忘る」(大宗師篇)とある。
(※)物累……地位、名誉、財産、そして人間関係などのわずらわしい俗事。外物のわずらい、関わり合い。
(※)天機……本来の人間らしく。天地自然のはたらき。

【原文】
魚得水逝、而相忘乎水、鳥乘風飛、而不知有風。識此、可以超物累、可以樂天機。

 

69 栄枯盛衰は常である


【現代語訳】
壊れた石畳の上に狐が眠り、荒れ果てた宮殿の跡を兎が走りまわっている。ここは昔、華やかに歌や踊りが行われたところだ。また、冷たい露が野菊の上に現れ、霧が枯れた草の上をさまよっている。ここは古戦場である。栄枯盛衰は常であり、強い者も弱い者も、どうせすぐに消えていくのである。彼らは一体、今どこにいるのだろうか。人間のすることなど、すべて大したことではないのである。このことを思うと、心は灰のように冷たくなるのだ。

【読み下し文】
狐(きつね)は敗砌(はいせつ)(※)に眠(ねむ)り、兎(うさぎ)は荒台(こうだい)に走(はし)る。尽(ことごと)く是(こ)れ当年(とうねん)歌舞(かぶ)の地(ち)なり。露(つゆ)は黄花(おうか)に冷(ひ)ややかに、煙(けむり)は衰草(すいそう)に迷(まよ)う。悉(ことごと)く旧時(きゅうじ)争戦(そうせん)の場(ば)に属(ぞく)す。盛衰(せいすい)、何(なん)ぞ常(つね)あらん(※)、強弱(きょうじゃく)、安(いず)くにか在(あ)る。此(これ)を念(おも)えば、人心(じんしん)をして灰(はい)ならしむ。

(※)敗砌……壊れた石畳。
(※)盛衰、何ぞ常あらん……栄枯盛衰は常である。なお、『老子』には「物(もの)は壮(さかん)なれば則(すなわ)ち老(お)ゆ」(儉武第三十)とある。

【原文】
狐眠敗砌、兎走荒臺。盡是當年歌舞之地。露冷黃芲、𤇆迷衰草。悉屬舊時爭戰之場。盛衰何常、強弱安在。念此、令人心灰。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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