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第99回

70〜72話

2020.05.22更新

読了時間

 「超訳」本では軽すぎる、全文解説本では重すぎる、菜根譚の全体像を把握しながら通読したい人向け。現代人の心に突き刺さる「一文超訳」と、現代語訳・原文・書き下し文を対照させたオールインワン。
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70 寵辱(ちょうじょく)、驚かず


【現代語訳】
名誉を得ても恥辱を受けても、驚くことなく、泰然(たいぜん)としていたい。ちょうど庭の花が、開いたり落ちたりするのを静かにながめているようでありたい。また、地位を去ることも、とどまることも気にしない。あたかもそれは、空の雲が巻いたりのびたりして、他の何も気にすることなく、のびのびと自由であるようにである。

【読み下し文】
寵辱(ちょうじょく)、驚(おどろ)かず(※)、間(しずか)に庭前(ていぜん)の花(はな)開(ひら)き花(はな)落(お)つるを看(み)る。去留(きょりゅう)、意(い)無(な)く、漫(そぞ)ろに天外(てんがい)の雲(くも)巻(ま)き雲(くも)舒(の)ぶるに随(したが)う。

(※)寵辱、驚かず……名誉を得ても恥辱を受けても驚くことはない。なお、『老子』は「寵辱(ちょうじょく)に驚(おどろ)くが若(ごと)し」とし、それをなくすには「吾(われ)に身(み)無(な)きに及(およ)びては、吾(われ)れに何(なん)の患(わずら)い有(あ)らん」(猒恥第十三)と述べている。つまり、自分の欲望への執着をなくすことだとする。

【原文】
寵辱不驚、閒看庭歬芲開芲落。去留無意、漫隨天外雲卷雲舒。

 

71 広い視野で客観的に自分の行いを見つめてみる


【現代語訳】
晴れた空に明るい月が出ていて、このひろびろとした空のどこにでも飛んでいけるのに、蛾は、自分から灯火のなかに飛び込んできて焼け死んでしまう。また、清らかな泉が湧き、緑の草も茂り、飲みものも食べものもいろいろあるのに、ふくろうは、腐った鼠の肉だけを好んで食べる。ああ、世のなかに、この蛾やふくろうのようなことをしていない、と言い切れる人が何人いるだろうか。

【読み下し文】
晴空朗月(せいくうろうげつ)、何(いず)れの天(てん)か翺翔(こうしょう)(※)すべからざらん、而(しか)るに飛蛾(ひが)は独(ひと)り夜燭(やしょく)に投(とう)ず。清泉(せいせん)緑卉(りょくき)(※)、何(いず)れの物(もの)か飲啄(いんたく)(※)すべからざらん、而(しか)るに鴟鴞(しきょう)(※)は偏(ひと)えに腐鼠(ふそ)を嗜(たしな)む。噫(ああ)、世(よ)の飛蛾(ひが)鴟鴞(しきょう)たらざる者(もの)は、幾何(いくばく)の人(ひと)ぞや。

(※)翺翔……どこにでも飛んでいく。飛びまわる。
(※)緑卉……緑の草。青々とした草。
(※)飲啄……飲みついばむ。飲み食べる。
(※)鴟鴞……ふくろう。夜行性で鼠やもぐらなどを好んで食べる。昔、中国では、死んだ鼠だけを好んで食べると見ていたようだ。

【原文】
晴空朗月、何天不可翺翔、而飛蛾獨投夜燭。淸泉綠卉、何物不可飮啄、而鴟鴞偏嗜腐鼠。噫世之不爲飛蛾鴟鴞者、幾何人哉。

 

72 悟る人は手段と目的をよくわかっている


【現代語訳】
筏(いかだ)に乗ったかと思うと、すぐに筏を降りるための心構え、準備をしているような人は、悟った人である。なぜなら、筏は目的地に渡るための手段にすぎないことをよくわかっているからである。これに対して、すでにろばに乗っているのに、ろばを探している人がいる。このような人は、いつまでも悟ることのできない禅師のような人になってしまうだろう。

【読み下し文】
纔(わず)かに筏(いかだ)に就(つ)いて、便(すなわ)ち筏(いかだ)を舎(す)てんことを思(おも)わば、方(はじ)めて是(こ)れ無事(ぶじ)の道人(どうじん)(※)なり。若(も)し驢(ろ)に騎(の)りて、又(また)復(ま)た驢(ろ)を覔(もと)むれば、終(つい)に不了(ふりょう)(※)の禅師(ぜんし)と為(な)らん。

(※)無事の道人……悟った人。宗教評論家のひろさちや氏は、「仏教では、仏教という教えを筏に譬える。そして筏は迷いの此岸から悟りの彼岸に渡るのに必要だとし、彼岸に着いたら筏を捨てよと言う。筏(教え)に執着することの愚を、釈尊は口を酸っぱくして警められた」(『菜根譚』日本経済新聞社)と述べている。また、「『驢に騎りて驢を覔む』(中略)は、禅者がよく口にすることばである」(同上)という背景も理解しておきたい。これらの言葉からも洪自誠は仏教にも造詣が深いのがよくわかる。
(※)不了……悟ることができない。

【原文】
纔就筏、便思舍筏、方是無事衜人。若騎驢、又復覔驢、終爲不了禪師。

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著者

野中 根太郎

早稲田大学卒。海外ビジネスに携わった後、翻訳や出版企画に関わる。海外に進出し、日本および日本人が外国人から尊敬され、その文化が絶賛されているという実感を得たことをきっかけに、日本人に影響を与えつづけてきた古典の研究を更に深掘りし、出版企画を行うようになる。近年では古典を題材にした著作の企画・プロデュースを手がけ、様々な著者とタイアップして数々のベストセラーを世に送り出している。著書に『超訳 孫子の兵法』『吉田松陰の名言100-変わる力 変える力のつくり方』(共にアイバス出版)、『真田幸村 逆転の決断術─相手の心を動かす「義」の思考方法』『全文完全対照版 論語コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 孫子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』『全文完全対照版 老子コンプリート 本質を捉える「一文超訳」+現代語訳・書き下し文・原文』(以上、誠文堂新光社)などがある。

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